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165話 最終決戦7 ユウカ VS サトル


 始まったユウカこと私とサトル君との勝負。


 こうなる予感はあった。

 私が説得したくらいで頑固なサトル君が意見を翻すはずがない。

 力押しがどこかで必要になるとは思っていた。


 だから想定外なのは二つ。


 一つは戦う相手がサトル君自身だということ。

 大量の付加魔法エンチャントで強化するというその手段を私は予想していなかった。そのせいでサトル君は竜闘士の私と勝負になるくらいの力を…………いや。


「『竜の息吹ドラゴンブレス』!!」

「『風爆ウィンドブラスト』!!」

「くっ……!」


 放とうとしたエネルギー弾が一足早く放たれていたサトル君の魔法に当てられて至近距離で誘爆。余波を自分が食らってしまう。


 二つ目は――サトル君に私が圧倒されていたことだ。




「大きく引いてエネルギー弾をばらまく……何度その攻撃パターンを見てきたと思っている」


 強化されたとはいえサトル君の力は、伝説級である私に及ぶまでは行かない。

 問題なのは私の行動パターンが読まれ切っていることだ。

 私が次にどのように行動するかを読んで、それに対して完璧な対処をしてくる。読まれていると分かっていつもと行動パターンを変えようと意識しているのに、それでもなお逃れられない。

 小手先の戦いに対する読みだけじゃない。私という人間性全体を把握した読み。


 そうだ、この異世界に来てからサトル君を守るために何度戦ったのか。


 私の戦いを一番近くで見てきたからこそ。

 私という人となりを知っているサトル君だからこそ出来る芸当。




「『竜の翼ドラゴンウィング』!!」

「『空石落下スカイストーンフォール』!!」


 翼を生やし空中に逃げようという動きを阻止するように、頭上から石が降ってくる。

 私はダメージ覚悟で石をぶち割りながらどうにか空中に留まる。


「………………」

 私だってサトル君のことは理解している。

 サトル君が私の動きを予想するなら、私だってサトル君の動きを予想すればいい。

 でも初めて戦う姿を見せるサトル君に、戦いの中で急成長していくサトル君にどうにも後手に回っているのが現状だ。




 いや……本当に理解出来ているのかな?


 こうして直接会って話すことさえ出来ればどうにかなると思っていた。何だかんだ話せば分かるんじゃないかと希望的観測を持っていた。

 でも現実は私に攻撃する手を弛めない。


 サトル君のことが分からない。

 どうしてあの日私を置いて去っていったのか。何を目的に動いているのか、永遠の孤独とやらは何なのか。




「ねえ、聞きたいことがあるんだけど!!」

「『氷槍アイスランス』」


 分からないなら問いただせばいい。私はそうやって生きてきた。

 しかし、サトル君からの返事は魔法だった。

 氷の槍を飛びながら避けて、なおも言葉を続ける。


「どうして私たち戦わないといけないの!?」

「『光爆弾ライトボム』」


 飛翔ルートを潰すように爆発が私の目の前を覆う。


「私たち好き同士なのに……戦うなんて間違っているよ!!」

「…………」

「サトル君!!」

「好き同士だと……勝手に決めつけるな」


 サトル君が攻撃の手を止めて言葉で応じる。




「私の自惚れじゃなければ……そうでしょ」

「だったらおまえの自惚れだな。俺はおまえのことが嫌いだ」

「嘘だね」

「どうしておまえが俺の気持ちを勝手に決めつける。言い続けてれば現実になるとでも思っているのか?」

「…………」

「今のおまえにふさわしい言葉を教えてやる。ストーカーだ。不都合な現実を認めず、自分が思い込んだ世界を正しいと思う……たちの悪いストーカーだよ」




 サトル君に酷いことを言われて……それでもその言葉は嘘だと思った。

 これまで一緒に旅してきたから分かる直感だ。


 でも……それこそがサトル君の言う思いこみだとしたら?




「惑わされないでください、ユウカ!」




 私の芯がブレようとしたそのとき、声がかかった。


「リオ……」


 この場にいる三人目、親友であるリオの声。

 ここまで傍観していたリオ。おそらく何も出来ないように命令されていたはずなのに……それでも私のピンチに動いた。




「ぼんやりとは考えてましたが、今のやりとりで確信しました! サトルさんの目的は――」

「命令だ、口を閉じろ」

「んぐっ……!?」


 リオの言葉が命令によって遮られる。




「口出しできないように命令していたはずだが……まだ抜け道を隠していたか、強かなやつだ。まあちょうどいい」


 サトル君は感心しながらリオの方に向かって進む。


「何を……するつもりなの」


 その後ろ姿に今まで見たことがない怖さを感じる。




「リオ。おまえはこれまで命令のせいとはいえ俺のために尽力していた。No.2の肩書きにふさわしい働きだった。有能なやつだった。

 だがな、肝心なときに裏切るようなやつが配下に必要だと思うか?」


 そしてリオの前に立ったサトル君は。


「命令だ、一切の抵抗を禁じる。『闇の死神ダークスカル』」


 手のひらから闇の奔流を――即死魔法を放って。




「…………」


 ドサッ、と。

 直撃を食らったリオはその場に倒れた。




「リオ!! 『竜の咆哮ドラゴンシャウト』!!」


 衝撃波を放ちながら親友の元に急行する。


「直線的な攻撃だな」


 サトル君は特に防御することなく退いた。




「ねえ、リオ!! しっかりして!!」


 倒れ込む親友の上半身を抱えて起こす。

 しかし一切の力が抜けたように首も腕もだらんと垂れ下がる。

 極め付きに胸元に耳を押しつけると――心臓の鼓動が止まっていた。




「サトル君……どうして?」

「世界の支配も目前、そいつは用済みだ」

「……」

「後は俺の支配にあらがう連合軍の旗頭、おまえをどうにかすれば完了する。一時とはいえ一緒に旅した関係だ、殺さずに済まそうと思っていたが――おまえもそいつと一緒のところに送ってやろうか?」




 おおよそ私の知るサトル君からは出てこないだろう言葉。

 どうしてこんなことに……『囁き』のせいで……でもあれは本来の欲望を解放するもので……サトル君が本当はこうだった……いや、そんなはずが……何かの勘違い……。


 動揺、疑問、混乱。

 揺れ動く私の感情の中、一番表に出てきたのは。




「よくもリオを――っ!!」




 憎悪。

 親友の命を奪った目の前の――敵に、私はもう一切の情けを掛けるつもりはなかった。




「『竜の狂化ドラゴンブースト』!!!!」




 これまでずっと使わずにいたそのスキルを発動する。

 ただでさえ強い竜闘士の全ての力を狂化する代わりに、一定時間経つと大きな反動ダメージを受け戦闘不能になる。

 強力だと分かっていながらも、×××君をいついかなるときも守るために、戦闘不能な時間が出来るこのスキルを今まで使うわけには行かなかった。

 でも……もうそれもいいから。




「『竜の咆哮・三連ドラゴンシャウトトリプル』!!」




 狂化された今、衝撃波を三発同時に放つことが出来る。

 敵はどうにか二発の衝撃波を避けるが……逃がすものか、残りの一発が直撃する。




「ちっ……『妖精の歌フェアリーコーラス』!」


 敵はすぐに回復魔法を使用する。だがのうのうと回復を許すはずがない。




「『竜の撃滅ドラゴンブラスト』!!」




 狂化された全方位衝撃波。


「『地の盾アースシールド』!!」


 回避不能のその攻撃に地面からせり出したドーム状の防壁でやり過ごそうとしているが……甘い、その程度の盾は破壊して吹き飛ばす。




「ぐっ……!」


「人は誰だって幸せになるために生きている……でもね死んだらもう幸せになれないの!! おまえが、リオの幸せを奪ったんだ!!

 『竜の震脚・狙撃ドラゴンスタンプスナイプ』!!」




 一点狂化された衝撃波を天空から打ち下ろす。

 吹き飛ばされたその状態では流石に防御も間に合わなかったようで直撃して――その姿が飛沫となって消えた。


「『火球ファイアーボール』!!」

「『竜の重鱗ドラゴンスケイルズ』!!」


 分身を掴まされたと判断した瞬間防御スキルを発動。背後から飛んできた火の玉をエネルギー防御で完全にやり過ごす。




「ちっ、今のを防ぐか」

「どうして……抵抗するの? 破壊させてよ……ねえ、破壊させてよ!!」


 衝動が収まらない。

 でも収める必要も無かった。

 ちょうど目の前にぶつけるべき敵がいる。

 その何と幸せなことか。




「ははっ、そんなものか!? おまえの本気は! もっと憎めよ! 俺を!」


 挑発してくる敵に返す言葉などない。


「『竜の咆哮・三連ドラゴンシャウトトリプル』!!!」


 代わりに衝撃波三発を放つ。




 目の前の敵を滅ぼす。それまで私は止まるつもりはない。



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