163話 最終決戦5 圧倒
リオこと私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました。
城のあちこちが荒らされているのです。
「…………」
心当たりはありました。
今回の作戦、サトルさんから何をするかは聞かされています。駐留派、カイさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう。
しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした。
「お腹減ったー、おやつ!!」
一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します。
「転ばないように気を付けてくださいねー」
城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました。
一人になった私は謁見の間を訪れました。
そこではサトルさんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます。
「サトルさん、無事でしたか!?」
私は慌てて駆け寄りました。
「あー……リオか」
「今すぐ回復します! 許可をください!!」
「俺に回復魔法をかけることを許可する」
裏切り防止にサトルさんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだったサトルさんの治療が始まりました。
「だから私は反対だったんですよ。自分自身の手で決着を付けるなんて」
「…………」
サトルさんは私の問いかけに反応しません。
無視しているのではなく、どうやらそもそも聞こえていないようです。心ここにあらずといった様子で物思いに耽っています。
カイさんと戦ったことで何か思うところがあったんでしょうか?
今回の作戦に当たってサトルさんの目的について私にも説明がありました。
永遠の孤独を目指す、と。その目的は今回の大規模戦闘を制すれば叶うでしょう。
そんなことのために、というのが私の率直な感想でした。
独りただ生きるために生きるなんて寂しすぎます。
出来れば考え直して欲しい。
ですが命令によって説得することを物理的に禁止されている私には止めようがありません。
「…………」
ユウカ。
私の親友。
ことここに至っては彼女だけが頼みでしょう。
連合軍と王国軍の戦いの行方はどうなっているのか……?
「失礼します! 戦況の定期報告に窺いました!」
ちょうどいいことに、そのとき謁見の間に伝令が姿を出しました。
「ああ、頼む」
サトルさんが先を促します。
「はい! では報告します! 連合軍と我が方との戦いはこちらの優勢で押し返しています! ネビュラ軍は同士討ちが加速し壊滅状態に! 城に侵入したネビュラの部隊も全てを拘束しました!」
「要注意戦力は?」
「竜闘士の少女は変わらず一人で我が方のドラゴン部隊と渡り合っています! 伝説の傭兵、魔族は相変わらず姿を見せません!」
「……そうか。下がって良いぞ」
「はっ!」
伝令は敬礼すると回れ右して謁見の間を後にします。
「…………」
私たち王国軍の優勢。
命令により協力しているとはいえ、心は連合軍の方にある私にとっては絶望の知らせでした。
ですがこの結果も予想出来てはいました。
王国軍と連合軍&ネビュラ軍。
両者の戦力は開戦時ほぼ同じくらいだったと思われます。
ならばどうしてこのような結果になってしまったのか。
ランチェスターの法則というものがあります。
詳細は省きますが、一対一で個別に戦う近距離戦ではなく、銃や魔法などの遠距離から集団でやりあう戦場では、人数が多くなるほど弾幕の密度も上がり加速度的に有利になるのです。
私と魔神の働きによってネビュラ軍5000人を2人で突破した結果、そこに回さないといけなかったはずの戦力を他に回すことが出来て、じわじわと優位が拡大していったということです。
連合軍がここまでの戦力を集めることが出来るのもこの一回のみでしょう。その一回限りの希望が費えようとしている。
「これは…………もう終わりですか」
「いいや、まだだぞ」
「え……?」
治療を終えて立ち上がったサトルさんからの反論。
「おまえが考えていることは大体分かる。戦場での戦力差はもはや決定的だ」
「ええ、ですから……!」
「だがこの戦いの運命は最初からそんなところで推移していない」
「……?」
「結局のところ連合軍の勝利条件は俺を倒すことだからだ。
魅了スキルによる極端なワントップ構造でここまでやってきた王国だからこそ、俺をどうにかすれば一瞬で瓦解する」
「それは……そうですが」
サトルさんは何を言いたいのか、今いち把握しかねていると。
「カイたちが来る前に、一度護衛を付けて連合軍方面の戦場を見てきた。ユウカが戦う姿を見て……なるほど賭けに出てきたな、と感心したよ」
「何を言って……?」
「噂をすればだ。来るぞ」
サトルさんが天井を見上げます。
つられて私も視線を上に向けたところで。
ガッシャーーーーン!!
と、天窓が破壊されて、超スピードの何かが落ちてきました。
「っ……!!」
その音と衝撃に思わず顔を背けます。
落ち着いたところで何が降ってきたのかを見て……。
「どうして……?」
疑問が沸き上がりました。
王国軍と連合軍の戦場は王都の郊外で行われています。
先ほどの伝令ではそこで戦っているはずの者が……時間的にこの魔王城に訪れられるわけがない。
無理矢理突破したならしたで、先に警告の方が来るはずです。要注意戦力の動きは重点的に確認するように通達が行われていた。
なのに――。
「どうして……ここにいるんですか、ユウカ?」
「ちゃんとまたね、って言ったじゃん。リオ」
竜の翼をはためかせる親友は私に一声かけた後、改めてこの城の主と向き合う。
「さて、伝言は伝わってたかな。会いに来たよ――サトル君」
「やっぱり来たのか、ユウカ」
魅了スキルにより数奇な関係を築いてきた二人が。
『連合の勇者』と『王国の魔王』となって。
今、再び相対した。
 




