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160話 最終決戦2 侵入 ~ 対峙


「何だ、この戦闘音は! 接敵はまだだったはずだろう! 一体何が起きた!」 

「そ、それが脇に何者かを抱えた王国の魔導士が空に現れ何らかのスキルを使われた結果、突然我が方が同士討ちを始めたようで……」

「同士討ちを誘うスキル……まさか」

「そして……俺もいつもいけすかない態度のおまえをぶっ殺したくなったんだよ!!」

「っ……! 『影の束縛シャドウバインド』!!」


 態度を豹変させた伝令を、カイこと僕はスキルを使って拘束する。


「くそっ、離せ!!」

「離すわけ無いだろう。はぁ……面倒なことになったみたいだね」


 今回ネビュラの部隊は主に二つに分けている。


 一つは寄せ集めの大部隊。もう一つは僕が指揮する少数精鋭の部隊だ。

 大部隊が王国軍と正面からやりあい注意を引いている間に僕らが潜入する手はずだったけど、どうもその目論見には陰りが差しているようだ。




「同士討ち? 何でこの時に? 寄せ集めだとしても馬鹿すぎない?」

「想像は付く、魔神だろうね。『囁き』のスキルにより欲望を解放された結果、日頃から不満を溜めていた味方に当たり散らかし始めたというところだろう」

「使えないわね」

「ああ、全くだ」


 エミの言葉に演技でなく僕は同意する。




「さてそうなると、注意を引ける時間も限られる。急がないとね」


 僕は部隊に指示を出して捜索を急がせる。

 現在位置は王都付近の森の中。

 ハヤトからの手紙にあった、魔王城への抜け道があるはずの場所だ。

 今回の作戦に当たって結成された部隊、30人ほどの達人が散らばって抜け道の出口を探す。


 ちなみに当然ながら全員男性である。

 女性を支配する魅了スキルの持ち主の根城に乗り込むのに、のこのこと対象となる女性を連れていくはずがない。


「ほらーきりきり働きなさいよー」


 唯一の例外が僕の隣に立ったまま捜索をサボっているエミだ。

 こいつはそもそも異世界に召喚されたばかりの時に魅了スキルを食らったがとりこになっていない。条件である術者が魅力的だと思う異性に当てはまっていないというわけだ。

 ハヤトの手紙から、今のサトルがどんな女性も自信の駒だと思えば魅力的だと思える、という考えは知っている。だがそれも以前に関わりの無かった人間に限られるわけで、復活派の魔族が対象外だったようにこいつも対象外という判定になるはず。

 というわけで魅了スキルを気にしないで良いとなると、十分に力を持ちそして僕に従順と連れて行かない理由がない。そういうわけでこいつも部隊に同行させているのだった。




 隊員たちには地面の感触を確かめながら捜索させている。抜け道は地下道だ。どこかに空洞があるはず。


「見つかりました!!」


 程なくして報告が上がった。魔法によって地表を吹き飛ばされた結果ぽっかりと穴が空いている。


「よくやったね。さて進むよ」


 僕は隊員を集めて地下へと降りるのだった。




 地下道はしっかりとした造りだった。元は王族が緊急事態の際に逃げるための物だ。何かあったときに壊れていたりしたら話にならないからだろう。

 そのため進むのに苦は無いのだが……僕は部隊に警戒させながら歩かせたためスピードは遅かった。


「急ぐんじゃないの? こんなところでゆっくりしてていーの?」


 お気楽なエミの言葉は無視する。


 ここまではスムーズに潜入できた。だからといってここからも上手く行くなんて思ってはいない。


「…………」

 何か出来すぎている。罠ではないのか?


 そもそも最初ハヤトからの手紙を見たときから胡散臭いとは思っていた。自分の本拠地にある抜け道に気づかないままなんて間抜けすぎる。

 それほど抜け道を見つけたリオが優秀だったというだけか? それとも分かっていて泳がせているのか?


 しかし僕の警戒も空しく何も起きず、地下道を進み続けた結果目の前に扉が現れた。




「ほら、何も無かったじゃん」

「……結果論だ」


 エミの軽口に僕は苦々しい面持ちで返す。

 扉を開けて地下道を出たところにあったのは部屋だった。食材がごったに転がっている。


「王城の調理室地下にある食料庫か。どうやら順調に進めているようだな」


 首尾良く魔王城に潜入することが出来た。だがここからが本番。

 今もって連合軍と王国軍は正面衝突しているはずだ。だからといって全ての戦力がこの魔王城から出払っているはずがない。

 ハヤトの手紙によるリオからの情報によると、やつは魔王城の最上階、謁見の間にいることが多いらしい。警備の目をどうにか潜り抜けて辿り着いてみせる。




「作戦通りだ。まずは二人、表に出て警備の目を攪乱してこい」

「「はっ!」」


 調理室へと通じる扉から隊員の二人が出て行く。それを後目に僕らは裏道を進む。


 この魔王城は元々人目に付かないように移動できる裏道が張り巡らされているようだ。その内の一つはもちろん謁見の間まで繋がっている。そうでなければ緊急事態の際に王族を逃がすことが出来ない。


 裏道を進んでまた扉に当たる。魔王城の構造は事前に頭に叩き込んでいる。ここは一階の倉庫だろう。


「次は四人だ」


 また隊の一部を警備の攪乱のために放つ。


 そうして進みながら隊を分けていった結果、最終的に謁見の間の前に立ったのは僕とエミの二人だけとなった。




「二人きりだね」

「ああ、そうだね」


 エミが言葉に持たせた含みは無視して同意する。

 他の隊員は警備の攪乱のため離れた。しかしその結果として辺りに警備の者も見当たらない。この二人きりという状況は想定したパターンの中でも良い方だろう。


 階下からはかすかに騒ぎとなっている音が聞こえる。いきなり本拠地に敵が侵入したとなれば蜂の巣をつついたようになって当然とも言える。


「さて、行こうか」

「うん。魅了スキルを持つあいつをぶっ飛ばして、みんなを解放するために!!」

「……その通りだ」


 いきなりエミが意気込んだ言葉を言うものだから、反応が一瞬遅れた。

 そうだったな、この脳天気な女は未だに僕が魅了スキルにかかった者を助けるために行動していると思い込んでいる。

 後少し、全てが手にはいるまでは騙し通さなければ。




 謁見の間に二人で侵入する。


 そこにいたのは一人だけ。


 王座の前に立つその人物は――。




「ようやく来たか。待っていたぞ」




 サトルは僕たちの姿を見ても驚く様子も無く、そのように言った。






「ようやく? 待っていた? ふん、どうせ強がりでしょ」


 最初はエミの言うとおりだと思った。

 だがそれにしてはサトルは自然体で、僕らの登場に驚いた様子はない。

 それを見て、地下道に入ったときから抱いていた嫌な予感の正体がようやく掴めた。




「あの手紙は罠じゃなくて誘いだった……ということかい?」

「話が早いな」




 僕らはわざと侵入させられていた。リオに情報を流させれば辿り着けるだろうという読みか。

 どうやらサトルの手のひらの上だったということになるかもしれないが……。


「いやいやエミだってそれがおかしいことは分かるって。あんた一人で待ってたら何も出来ないじゃん」


 そうだ、達人級のエミと最強級の僕。二人の前に魅了スキルしか持っていないサトル一人しかいないというこの状況が成立している時点で全てが終わりだ。


「何かの計算違いでもあったのかい? まあ、待つつもりはないけどね、『影の束縛シャドウバインド』!!」


 僕は早速拘束スキルを、あの夜に使ったのと同じスキルを使用。


 サトルの影が実体化し、その主を縛ろうとする。


 やつに抵抗する力はない。


 あのときと同じようになすすべなく立ち尽くしたまま――――。




「『閃光フラッシュ』」




 ――否。


 サトルは魔法を発動。辺りを目映い光が埋め尽くし、影が消滅する。




「……なっ!!」


「何も計算違いはない。全ては俺の思い描いたままだ」




 そういえば情報を見た覚えがある。

 やつは学術都市で魔法を学んだ結果、基本的な魔法を使えるまでにはなったと。

 あの夜とは違ってやつには戦うための力がある。


 だとしても今の光景はおかしい。

 初級光魔法の『閃光フラッシュ』。本来は手元を光らせる程度の魔法のはずで、周囲を光で埋め尽くし僕の影を消し去るほどの力はなかったはずだ。


 だとしたら今の状況を生みだしたトリックは――――。




付加魔法エンチャントだ」

「なっ……!」

「今の俺はとりこにした魔法使いたち――1000人から付加魔法エンチャントを受けて強化されている」

「1000人だと!!」




 付加魔法エンチャント

 他者の筋力や魔力などを上げることが出来る魔法の一種だ。

 とはいえその一つ一つの効果はそこまで劇的なものではない。そもそも術者本人以上に強化できるなら、自分で戦う必要が無くなる。


 そう。一つ一つの効果は大きくないとはいえ、1000人も集まれば話は別だ。

 それだけの強化を受ければ……本来はちょっと魔法を覚えただけの素人が最強級と渡り合えるまで強化されてもおかしくはない。




「でも、随分と回りくどい方法を取るんだね。その1000人で僕らを囲めば簡単に倒せるだろうに」

「全ては永遠の孤独に至るためだ」

「…………」




「おまえの襲撃から全ては始まったんだ。俺に力があれば、おまえの襲撃をはねのけるだけの力があれば、俺は助けられる必要はなかったんだ。

 誰かに対して執着心を抱いたまま孤独に至れるわけがない。

 力の使い方を自覚してから、自然とこう思っていたよ。俺の力でおまえを倒したいって」




「おまえの力じゃなくて、付加魔法エンチャントを受けた仮の力だよね」

「おまえの『影使い』だって女神から授かった力だろうが」

「……」

「何による力かなんて関係ない。カイ、おまえを、俺のこの手で倒す。そのためにここまで誘い込んだんだ。そうやって初めて俺はあの夜を乗り越えることが出来る」

「OK、OK。分かった、そういうことなら慣れているよ。僕はイケメンだからね、男から嫉妬されるのは慣れっこさ」




 サトルは王座に立てかけていた剣を手に取り戦闘態勢を取った。剣を扱うようなスキルも無いはずだが、単純に強化された筋力でぶん回されるだけで脅威だろう。




「結局どういうことなの、カイ?」

「やつにも意地があるってことさ。まあ踏みつぶすだけなんだけどね」

「やることは変わらないってこと?」

「ああ、魔王を討伐してエンディングと行こう」




 エミと僕も戦闘体勢に入る。


 大戦の再来とも言える大規模戦闘の最中、支配派と駐留派の将による直接対決が始まった。


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