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16話 商業都市

 目的地に向け歩き出した俺たち。

 現在地は森の中……ここ数十分は変わらない景色が続いている。

 とはいえ人が行き交う道のようで整備がされているため、祭壇場の周りを探索していた頃よりかは歩きやすい。




「旅の開始だね……よしっ、やるぞー!!」

「あまり最初から飛ばしすぎるとバテますよ」

 先行するユウカとリオの二人に俺が遅れて続くという形で進んでいる。

 26人だったのが一気にパーティーメンバーの3人、俺とユウカとリオだけになって居心地が悪く……。


「ならないな……元々二人とくらいしか会話してなかったし」


 クラスで孤立していたことがここで影響するとは。




 俺は代わり映えのしない景色に飽きて、二人に話を振った。

「ところで俺たちが最初に向かう商業都市ってどんなところなんだ?」

「ええ、ちょうどその確認をしようと思っていたところです」

 リオは頷くと、リーレ村の村長タイグスから授かった情報を披露した。


「商業都市の起源は元々商人が長旅をする際の宿泊地だったそうです。それが多くの人がやってくるようになって宿が増え、商人相手に商売する者も現れて、町の規模が大きくなったことで商人たちが共同でお金を出し合い、魔物の対策のために塀で囲い兵を雇って……と、商人を中心に発展した経緯がありますね」

「なるほど」

「そのため今でも商業都市は大商人会という、大きな商会のトップが集まる会議が行政を担っているようです。この地にあった女神教の教会の取り壊しもおそらく行政側が行ったでしょうから、その大商人会の誰かの手に渡世とせ宝玉ほうぎょくが渡ったのではないか……と、タイグスさんの予想です」

「売り飛ばしてなければ、今もその大商人ってのが持っているわけか……」

「どう思う、サトル君?」

「最初から面倒な案件になりそうだな」

 ユウカの質問に俺は率直な意見を述べる。




「まず、現在の俺たちの身分はリーレ村の村民だ」

「村長のタイグスさんがそのように図ってくれたからですね」

 『俺たちは異世界出身の女神の遣いです』なんて言葉は女神教の信仰も失われた現代では通じないため、タイグスさんが親切にも申し出てくれた。日本のようにガチガチな管理社会でもないため、村長がこいつは村の出身だという書類を書くだけで簡単に身分の偽造が通るらしい。




「つまり女神の遣いだからって特別な権限は何も持っていないただの一般人だ。対して相手は町の行政を担うようなトップ階級だ。となれば会うのも一苦労、ましてや宝玉がどうなったのか、持っているなら譲ってもらうように話を付けるなんてそれ以上の難題だ」

「商業都市は都市と名が付いていますが、一つの独立した国のようなものです。そのトップとなると日本でいえば総理大臣のようなもの……対して私たちはただの旅行客という事ですから、交渉の場を設けること事態が厳しいでしょう」

 最初から難易度が高いな。




「あんまり気は進まないけど……渡世とせ宝玉ほうぎょくを持っている大商人を魅了スキルで虜にして、取引に応じてもらうか譲ってもらうように命令する……のが早いのかな」

「その大商人が女で、しかも俺が魅力的だと思えたならな」

「あっ、その条件があった……」


 魅了スキルにかけられた二つの枷。異性で魅力的な相手にしかかけられないというもの。

 男やブスに間違ってかけるという失敗が無いのはいいものの、それは男やブスを操れないということでもある。

 商会のトップを務めるようなやつだ。男女共同参画社会なんて言葉がこっちの異世界でも流行っているのかは分からないが、まあ十中八九で男だろう。


 ただ、抜け道は存在する。

「大丈夫だ。大商人が男だったとしても、例えばその妻から攻略する方法がある。魅了スキルをかけて夫に会わせるように命令するとかな。偉いやつが妻にするような女だから、おそらく魅力的だろうし」

「そんな方法が……」

「他にも色々方法は考えている。魅了スキルで女を支配できる以上、選択肢はかなり多い。難易度が高いとはいえ、こんなところで躓いてられないしさっさと攻略するぞ」

 魅了スキルだけがこの異世界における俺の武器だ。使い方、生かし方は常日頃から模索している。




「すごいね……サトル君は」

 だが、その言葉に何故かユウカは意気消沈したようだ。


「どうした?」

「だって……その目論見通りに行ったとしたら、私がすることなんて無いでしょ? みんなに対して頑張ろうって言ったのに……私だけこんなおんぶにだっこでいいのかな……って」

「つまり自分が役立たずだと……言いたいわけだな?」

「うん」

「はぁ……そんなわけあるか」

「いてっ」

 ユウカに右手でチョップを軽く下ろす。


「適材適所ってだけだ。俺が魅了スキルで交渉に適しているから今回の渡世とせ宝玉ほうぎょく獲得に向いてるだけだ。今後ユウカの力じゃないと駄目なパターンもあるだろうし……それにどうして俺がユウカとパーティーを組みたいって言ったのか忘れたのか?」

「えっと……何かあったときに守って欲しいから?」

「そういうことだ。というわけで……早速頼むぞ」

「そうですね、ユウカ。顔を上げてください」

 うつむいていたため、ユウカは気づいていないようだが、リオは既に臨戦態勢に入っている。


 というのも、目の前に魔物が現れたからだ。

 形態は不定形。俗に言うスライムというやつだろうか。とはいえ人間の腰ぐらいの大きさがあり、自身の意志を持って蠢いている姿は中々に恐怖だ。


「比較的魔物が現れにくい道だという話でしたが……」

「まあ低いというだけで出てもおかしくはないだろ。安全な道って事だからおそらく弱い魔物なんだろうが……」

「それでも戦う力を持っていないサトル君にとっては十分な脅威……ってことか。うん、分かった、私がやっつけるからね!!」

「たち、です。一人で突っ走らないでくださいね、サポートはします」

 スライムに意気揚々と向かうユウカに、リオはため息をついて魔法杖を掲げる。


 予想通り弱い魔物だったため、この世界でもトップクラスの力を持つ二人に一瞬で狩られるのだった。




 それからしばらくして。

 魔物とはその一回しか遭遇していない。順調な旅路。

 ただ、徐々に問題が現れ始めた。


「はぁ……はぁ……」


 そう、疲れである。

 インドア派の俺にとって、数時間ぶっ続けで歩く機会はほとんどない。足が棒になるとは、比喩でもなく本当にあることなのだと実感していた。


「大丈夫、サトル君?」

「結構歩きましたものね」

 息絶え絶えな俺に対して涼しい様子の二人。


 最初こそ女二人が音を上げないのに俺だけ泣き言言ってられるかと頑張っていたが、そもそも異世界に来て力を授かった二人とは体力が違うことを忘れていた。魔法使いのリオでもある程度は体力にブーストはかかっているようで俺以上の体力である。ユウカに至ってはそれ以上のブーストで、俺を振り返りながら後ろ向きに歩いたり、時にはスキップをしていたのに息も切れていない。




「ちょっと確認します。『世界全図ワールドビジョン』発動」

 リオが魔法を発動するとその前方に地図が表示される。見慣れない地形はおそらくこの異世界の地図だからだろうか。となると一カ所だけ光る点があるのは現在地ということだろう。

「ずいぶんと便利な魔法だな……」

 ようはGPSってことか。旅で迷う恐れが無くなるのはとてもありがたい。




「どうやらこのペースですと商業都市までは……あと一時間といったところでしょうか」

 リオが今までに歩いてきた距離とかかった時間から、残りの道のりを踏破する時間を算出する。

「一時間……か」

 既に数時間歩いたのだ。あと一時間だけと考えるべきか、まだ一時間もあると考えるべきか。……ああ、駄目だ。まだ一時間もあるとしか考えられねえ。


「はぁ……」

 あとどれだけ歩かないといけないかをはっきりと自覚したことで、どっぷりと疲れが沸いてきてしまった。




「サトルさん、少し休みますか?」

 俺を思いやってリオが甘美な提案をしてくる。

「……いや、今のペースでも目的地にたどり着くのが夕方になる。そこから宿も探さないといけないんだ。これ以上遅れるわけにはいかないだろ」

 それを俺は尋常ならざる意志で断った。そうだ、理屈では分かっているんだ。ここで弱音を吐いている場合ではない。頑張れ、俺!!

 どうにか奮起して歩く覚悟を決めたところで。


「あ、そうだ。それくらいの距離なら行けるかも」

 ユウカがポンと手を打った。


「行けるって、どういうことだ?」

「それは……うん、説明するよりやってみた方が早いかも。ちょっと失礼するね、サトル君」

 説明を求める俺の言葉を無視して、ユウカは行動する。具体的に言うと、少しかがんで俺の腰と膝裏に両腕を伸ばして。

「やっぱりこの世界に来て力強くなってるなあ……軽いね、サトル君」

 いわゆるお姫様だっこで俺を抱えたのだ。




 ……いや、男がお姫様だっこされるって普通逆だろ!? ってか、何する気だよ!? とりあえず嫌な予感しかしないぞ!?

 渦巻く思考から出てきた言葉は。

「ちょっと待――――!!」

 とりあえず魅了スキルによる制止の命令を出そうとする。

 だが、それよりも一瞬早く。


「じゃあ行くね。……『竜の翼ドラゴンウィング』!!」


 ユウカの背中から可視化されたエネルギー体、竜の翼が生える。俺の身体を抱えたまま宙に浮くと、そのまま猛スピードで進み始めた。


「あははっ、速い速ーいっ!!」

「ひぃぃぃぃっ……!!」

 生身で空を飛ぶ初の体験に楽しんでいるユウカとビビっている俺。あとで聞いたのだがジョブの副次効果として、スキルを熟練した技術として扱えるようだ。そのためで飛ぶことに対して恐怖を覚えなかったらしい。

 対して俺は初体験でただでさえ恐怖だというのに、お姫様だっこは存外不安定な態勢だということがそれに拍車をかけている。ちゃんと落ちないように掴んでくれているが……不安は拭いきれない。




 一方、ユウカの突然の行動に地上に置いてかれたリオは。

「……気軽にお姫様だっこなんてしていますが……まあ、疲れているサトルさんを助けたい一心で一時的に羞恥心を忘れているということでしょうか。後で思い返して顔を真っ赤にしそうですね」

 ユウカの大胆な行動を分析して。


「さて、私も追いつきましょうか。発動『妖精の羽根フェアリーフェザー』!! 『一陣の風ストレートウィンド』!!」

 身体を極限まで軽くする魔法と風を起こす魔法で疑似的ではあるがリオも空を飛ぶ。魔法をかけ続けないといけない分消費が大きいのだが、自分の豊富な魔力なら歩いて一時間の距離なら十分に保てると感覚で理解していた。

 ユウカの方は『竜闘士』の歴とした飛翔スキル。複合魔法の私よりも消費は少ないはずですので、サトル分の重量を抱えていても持つでしょうね。

 と、前方を行く二人を見てみると。


「危ないっ!」

「ひぃっ!!」

 木を避けるために旋回するユウカと、その挙動に悲鳴を上げるサトル。


「まあ魔力が保っても、サトルさんの精神が持つかは少々不安ですが…………」




 結局歩いて一時間合った距離を、ショートカットで十分で突破できたようだ。空から進入しては騒ぎになるということで、目的地の商業都市周辺に降り立った三人だが、そのときにはすでにサトルも騒ぐ元気がなくなっていたという。


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