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150話 リオ

新展開スタート。


 時を少し遡る。

 レイリとガランが魔族たちを召喚したその少し前の頃。

 独裁都市の神殿の一室にて。




「はぁ……」

「そんなことしていると幸せが逃げちまうよ」

「あ、チトセ」


 ユウカこと私は訪れた姉御肌のチトセに声をかけられた。


「それにしても何だい? 随分と腑抜けている様子だねえ」

「そんなこと無いって。今すぐにでも魔王城に突撃して、サトル君のところに向かいたいくらいだから……でも準備が終わるまで駄目なんでしょ?」

「会議でも言われただろ。竜闘士といえど一人で王国を相手出来るはずがないって。準備も順調なんだから、少しくらい待っておけって」

「分かってるからこそ、こうしてすること無いなーって暇してため息を吐いているんでしょ」


 はぁ、ともう一回ため息を吐く。


 魔王君臨対策会議から少し経って。

 合流したオンカラ会長は商会総出でバックアップをしてくれることを約束してくれた。

 ホミさんも周辺地域を回って協力を募っているため現在は不在。

 各地に渡世とせ宝玉ほうぎょくを寄越せと宣戦布告紛いの通達をしたことによる混乱や、単純に王国を転覆させたという力への恐怖ということから、王国をどうにかしたいという気運は高く、協力は順調に取り付けられそうだ。


 とはいえ誰かと戦うような段階ではないため、竜闘士の力も役立つところがない。一人の少女として大人しくしているしかないというわけだった。




「あーでも、こういうときリオだったら何か色々して準備を早めたりしたんだろうなー」

「リオか。そうだねえ、交渉事とか得意そうだし」


 チトセが同意する。チトセは元の世界にいたときからリオとも知り合いだ。


「いや、こういうことはあろうかもって既に準備を完了させているまであるね」

「分かる、分かる」

「こっちの世界に来てからずっと頼りにしていたし……いや、それは元の世界でも同じだけど」

「そういやリオとユウカはいつからの知り合いなんだい?」

「高校になってからかな。妙に波長が合ってすぐ仲良くなって……考えてみれば一回もケンカとかしたことないかもなあ」

「それは仲良いことで」

「あ、でもこっちきてからはずっと恋愛相談に付き合ってもらって……煮え切らない私にもしかしたら不満が爆発する寸前だったかもしれないけど」

「まあこの前みたいな沈み方に毎回付き合っていたとしたら、本当その苦労は相当なもんだろうよ」

「その節はごめんって」


 チトセに平謝りする。




「それにしてもリオは今頃何してるんだろう……」


 サトル君と決別したあの日、リオはサトル君に命令されて連れて行かれた。それ以来、一度も会っていない。

 魔導士で戦う力もあるわけだし、サトル君の命令で王国を転覆させる手伝いをさせられただろう。


 それも完遂した今、サトル君だったら何をさせるか?

 リオだったら何が出来るか?

 その力と頭脳を見込まれて、おそらく何らかの重要な命令を任されているに違いないだろうけど…………。




 コン、コンと。

 そのとき部屋の扉がノックされた音が響いた。




「鍵なら開いてます、どうぞ」

「失礼します!」


 声をかけると同時に扉を開けて入ってきたのは神殿に勤める職員だ。ここまで走ってきたのか少々の息切れを整えることもなく入ってきて……焦っている様子が見えるけど。


「何かあったんですか?」

「独裁都市と王国の境界線上の詰め所から連絡です!! 重要警戒対象の『魔導士』が現れました!」

「……っ!! 分かりました、場所を教えてください!!」

「アタイも行くよ!!」


 端的な報告で全てを理解する。

 部屋を飛び出し駆けながら、職員が見せてくれた地図でその場所を確認する。


 そして神殿の外に出て。


「私は現場に早速向かいます! 『竜の翼ドラゴンウィング』!! ほら、チトセも掴まって!」

「『浮遊フロート』!! あんがとね、頼むよ!!」


 後の対応を職員さんに任せて、私とチトセは空を飛び現場に向かう。

 チトセのジョブは『癒し手ヒーラー』だ。回復魔法の使い手だが、初歩の浮遊魔法は使える。それで浮いたところを私が手を繋いで引っ張っているという形だ。




「ほう、これは速いねえ!」

「現場には十五分もあれば着くと思う」

「そうかい……にしても本当に現れたねえ。『魔導士』……リオが」

「…………」


 サトル君、王国にとってこの独裁都市は反抗戦力を集めている目下の問題勢力として捉えられているだろう。

 だからこの前はヘレスさんを使って状況を探りに来て……今回はリオを差し向けた。


 もちろん予想はしていた。だからこそ重要警戒対象と呼ばれたのである。


 サトル君は私がこの地にいることを分かっている。それなのにリオを向かわせた理由は……。




「分かっているだろうけど、一応言っておくよ」

「……うん」

「リオが魅了スキルにかかっているのははっきりと分かっている。アタイたちと敵対するサトルの支配下にある以上、どんなことがあっても敵だよ」

「大丈夫、油断はしないから」


 魔導士と竜闘士。

 力の差ははっきりとしている。

 リオがもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事。

 情に訴える騙し討ちに引っかからないように気をつけて……。


「着いたみたい、降りるね」

「ああ!」


 目的のポイントであることに気付いた私は高度を下げてそのまま着地する。

 そこで。




「あ、ユウカ! この人たちをどうにかしてください! さっきから話も聞いてくれなくて!」

「動くな! 大人しくしろ!」




 兵士に取り囲まれ、両手を上げて反抗の意志がないことを示すリオと久しぶりに出会ったのだった。




「…………」


 目の前の親友は魅了スキルによるとりこである。

 サトル君の命令に従うしか出来ないはずだ。


「ユウカ!」


 王国と反目している私たちとは敵対している…………そのはずだ。



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