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15話 旅立ちの朝

 宴の翌朝。

 これより俺たちは元の世界に戻るため、この世界の各地に赴き、渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めることになる。

 そんな旅立ちの朝にふさわしい晴れ空の下には――。


「あー……飲み過ぎた……」

「二日酔いってこんなに辛いのか……」

「うげえ……吐きそう……」


 実に顔色の悪いクラスメイトたちがいた。


「全く締まりませんね……ほら、二日酔いにも効く魔法をかけますから、一列に並んでください」

「そんなのあるんかい」


 パーティーメンバーのリオが軽く言い出したことに驚く俺。どうやら状態異常を治す魔法の一種らしいが、その中でも系統上位の魔法は二日酔いに効くらしい。それをリオは持っているというのだ。




「イールさんも言ってたけど、リオが覚えている魔法ってすごい多いみたいだね」

 同じ事を思っていたのかユウカが話しかけてくる。


「そういえばサトル君は二日酔い大丈夫だったの?」

「ああ、昨日は酒飲む気分じゃなくてな」

「私と同じだね。私の家系って下戸が多いからたぶんすぐ酔っちゃうだろうし遠慮しといたんだ」

「そうか。俺は両親ともに酒に強かったしおそらく大丈夫だとは思うが。……というか二日酔いが状態異常扱いなら、耐性があるユウカは大丈夫じゃないのか? 魅了スキルだってかかり悪くしているわけだし」


「あ、そう言われてみるとどうなんだろう……? な、なら……え、えっと……その、今度機会があったら、お酒付き合ってくれる?」

「……まあ一緒のパーティーなわけだし、機会くらいあるだろ。そのときにな」

「うん、約束したからね!」

 顔をほころばせて嬉しそうにしているユウカ。


 ……うん、まあ、あれだ。サラリーマンだった両親も、飲みニケーションは大事って言ってたしな、これよりしばらく行動をともにするわけだしその一環でユウカも提案しているだけだろう。そうに違いない。……しかし、お酒付き合ってってなんか大人なセリフだよな。






「最後の一人も終わり……っと」

「リオ、お疲れさま」

「これくらいお安い御用です。それより見てましたが、自然とサトルを誘えてましたね」

「……しょ、正直未だにすごく心臓がバクバクしてます」

「それでも誘えたなら上出来ですよ。……しかしお酒の席、酔った二人、一夜の過ちには絶好のシチュエーションなんですけど……」

「だ、だからそういう強引なのは駄目だからね!!」






「……ん、何か二人で話してるな」

 ユウカがリオを労いに向かって少し離れたので、何を話しているのか聞こえないが…………どうやら仕草から見てユウカがリオにからかわれているようだ。

「しかし、あのユウカをからかえるなんて、やっぱり大物だよなリオは……」

 俺から見るとユウカにそんな隙は無いように思えるのだが……親友の前だと違うのだろうか?




 二日酔いも治り、気を取り直した俺たちはそれぞれ荷物を持って村の広場に集合する。


「また……絶対に会おうな」

「当たり前だろ!!」


 ガッシリと固い握手を組むクラスメイトの男子二人。

 広場ではパーティー間での交流が行われていた。

 これより俺たちは8つに分かれて行動を開始する。同じパーティーなら長い間行動を共にするわけだが、それは裏返すと違うパーティーとは長い間会えないことになる。

 そのため違うパーティーに仲のいい友達が存在するようなやつらはその別れを惜しんでいるというわけだった。


 つまり。

「俺にとってはどうでもいいってことだな」

 魅了スキルで繋がりが出来たユウカとリオ以外とは未だに馴染めていない。興味も無く、所在なさげに佇んでいたところに。


「そういやサトル! おまえの魅了スキルは頼りにしているからな!」

「そうよ、ユウカの話によると女性からなら無条件に渡世とせ宝玉ほうぎょくを譲ってもらえるんでしょ?」

「すげースキルだが……俺の方が絶対集めてやるんだからな!!」


 何故か人だかりが出来ていた。

「……どういうことだ、これ?」

 ほとんどが話したこともないクラスメイトだ。なのに妙に馴れ馴れしいというか……。


「昨夜の宴でユウカが魅了スキルの有用性について説いて回ったからかもしれませんね」

 事情を知っているリオが口を挟む。 


「ユウカが?」

「ええ。村長のタイグスさんの話を聞いた後に挨拶に回ったって言いましたよね? そのときに、話の流れからユウカがサトルの力について力説して……」

「そんなことがあったのかよ。……ったく、どうしてリオも止めてくれなかったんだ?」

「それは止める理由が無かったからですわね」

「いや、あるだろ。俺の力についてあんまりアピールされるとマズいんだっての」

 女性を支配するスキルなんて、知れば欲しがるやつは出てくるだろう。その内カイのような強硬な行動を取るやつが出てきてもおかしくない。




「だからこそです。魅了スキルの強力さと同時に危うさも伝えて、なるべく言いふらさないように注意しておきました」

「なるほど……ユウカもそのつもりで」

「いえ。ユウカは子供を自慢気に話す母親のように、サトルさんを誉め讃えるだけでしたから、私が補足したところです」

「駄目じゃねえか」

 俺の感心を返せ。 


「期待してるぞー」

「頑張ってね」

「応援しているからな」

 リオと話している間にも俺に対する期待の声が集まる。


「わっ、すごい人だかり。もしかしてこれって……サトル君に対する応援!? 良かったね、サトル君!」

 ちょうど通りかかったユウカが、事態の元凶がのんきな声を上げたので俺は断固抗議する。

「いや、どこに喜ぶ要素があるんだよ。正直俺をよくも知らないのにどうしてあんなに期待できるんだか呆れる気持ちの方が大きいな。まあ言うだけなら無料ただで、俺が頑張ってくれればラッキーだからな。ノーリスクハイリターンってわけか」

「え、えっと……ずいぶん個性的な考え方だね」

 最大限にオブラートに包んだ評価。おそらくはひねくれたと言いたいのだろう。


「まあな。そりゃ俺だって元の世界に戻りたいんだ。やる気はあるが、失敗する可能性もある。期待されても困るんだっつーの」

「でも、ほら。期待されてると、それに応えてやるぞーって感じで力が漲ってこない?」

「こないな」

「全否定っ!?」

 ユウカが驚いているが、そのような楽観論に基づいた思考回路は俺の脳内に存在しない。あるのは勝手に期待しておいて、失敗したら勝手に失望するだろうウザい反応が気にくわないという思いだけだ。


「二人とも逆のベクトルなんですね。期待に対してユウカは正の面に、サトルは負の面に捉えていると」

 リオが分析した結果をつぶやく。


「みたいだな。……まあでもユウカの考え方も分かるさ。そうでもないとみんなの期待を一身に背負うリーダーなんて出来ないからな。ただ理解は出来るが、俺にはゴメンってだけだ」

「そうですね。ただ逆のベクトルとはいえ、二人とも期待に誠実に向き合っています。似たもの同士ですね」

「対極故に近しいってやつか」

「似たもの同士って……もう、恥ずかしいじゃない、リオ!」

 何故か恥ずかしがっているユウカ。似てはいるが真逆のため相容れ無いという話なのだが……分かっているのだろうか?


 おそらく勘違いしているだろうユウカは放っておき、リオに一つ質問する。

「……ところでリオ、あんたは他人に期待されたらどうするんだ?」

「それはもちろん……期待を裏切るに決まってますわ。良い方向か悪い方向はともかく、期待通りの行動なんて詰まらないですもの♪」

「ああ、あんたは期待に対して最も不誠実なやつだよ」

 小悪魔の片鱗をかいま見た。




 そんな出発直前とは思えない緊張感の無い会話だったが、時間になりみんな整列してユウカが前に立つとさすがに引き締まる。


「これより私たちは渡世とせ宝玉ほうぎょく探索のための旅に出ます。目標は元の世界への帰還、並びに世界の危機を防ぐこと。人の手に渡った渡世とせ宝玉ほうぎょくを譲ってもらうことには苦労がかかると思う。だから、みんなの尽力を期待しているね」

 ユウカの言葉に小さく、しかししっかりとうなずくクラスメイトたち。


「きっと多くの困難も待ちかまえていると思う。でも、私は信じているから。みんななら、私たちなら成し遂げられるって!!」

 ユウカの言葉は大仰であるが……異世界でその世界を救うなんて事態になっているのだ。その言葉にあうだけのスケール感はあるだろう。


「みんなバラバラになることに心寂しく思うかもしれない。でも、忘れないで。離ればなれになってもこの世界のどこかに仲間がいて、一緒に頑張っているってことを!

 それではしばしの別れを……必ずの再会を願って!!」


 ユウカが言い切った瞬間だった。


「「「うおおおおおおっっ!!」」」


 雄叫びのような声が上がる。


「……大したやつだな」

 異世界に来て力を授かったとはいえ、元の世界では高校生だった身。何が起こるか分からないこの異世界でバラバラになることに不安を持っているやつだっていたはずなのに、今のユウカの言葉がそれを吹き飛ばした。


 とはいえ、もちろんユウカの言葉だって無責任な期待だ。先ほど俺に投げられた言葉と何ら代わりやしない。

「いつか俺も人を信じて……こういう言葉に応えたいって思うようになるんだろうか……?」

 死の間際に後悔して、治そうとは思っている俺の性格。とはいえ深く根付いたそれは一朝一夕で変えられるようなものでは無いが……。


「この長くなるであろう異世界の旅路で……変われるのか?」






 それから村の外まで場所を移して。

「頑張るんじゃぞ、女神の遣いたちよ!」

「まあほどほどにな!」

「また帰ってきたときは宴を開くからな!」

 村長タイグスやその息子イール、その他村民に見守られながら。


「行くよ!」


 俺たち26名は、それぞれの目的地に向け、八つの方向に一歩踏み出した。


 旅の開始である。



一章完です。

次話から二章『商業都市』編始めます。


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