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149話 支配


 現れた第三勢力。

 数人の護衛を付けた少年、サトルは上空から降りてきた。

 少年に魔法の心得は初歩的な物しかなかったはずだが……どうやら護衛の一人の魔法によって浮いているのだろう。


 ガランこと私はその真意を測ることが出来ない。


 この場所にいるのはおそらく渡世とせ宝玉ほうぎょくが盗まれた報告からだろう。王国を支配したなら、各地に監視の目を敷くのも簡単だ。私たちが魔族を呼び出すことはバレていて対応するために現れた。

 そしてピンクの光、魅了スキルを私たちを囲んでいた魔族相手に発動した。

 ならばこれから起きるのは――。




「何よいきなり現れて上から目線で……誰だか知らないけど、そういうのムカつくのよね」


 この世界に召喚されたばかりの姉様は情勢など知る由もない。

 目の前にいる少年が大陸最大勢力の王国を転覆させ、魔王と呼ばれ民から恐怖されている存在であるという事も。

 その身に宿る力の事も。




「『規律ルール』更新。そこの乱入者もまとめて殺し尽くせ!!」


「命令だ。魔族ども、味方同士殺し合え」




 姉様と少年、異なる力を源泉とする二人の命令が同時に為される。

 結果起きた光景は……。


「なっ、おまえたちどうした!? 何をやっている!! 『規律ルール』更新、同士討ちを止めろ! ……どうして聞かない!!」


 女性の魔族、とりことなった者たちが、男性の魔族を攻撃する。

 どうやら『規律ルール』でもその行動を止めることは出来ないようだ。

 予期せぬ出来事に姉様は混乱している。




「支配型の固有スキル『規律ルール』か……。馬鹿だな。当然のことだ、ルールで愛が縛られてたまるか」


「私の『規律ルール』を上書きしただと……っ!? そんなのが、そんなのがあってたまるか!!」




「優秀ではあるが……二流止まりの将か」


 一流ならばどのような出来事が起きても対応できる。今だって『規律ルール』が男性魔族には効くことに気付いて、まとめ上げれば対抗できただろう。

 だがやつは自分の『規律ルール』が絶対だと思っていた。それが崩れて取り乱すことしかできない。




「あり得ない、あり得るはずがない!」


「まだうるさく喚くのか」


 少年はそんな姉様の前まで赴く。




「な、何だおまえたち!!」


「一人だけ魅了スキルの範囲外にいたみたいだな」


「く、来るな!!」


「あっちの同士討ちの戦況も拮抗している」


「折角召喚されたんだ! 今度こそ私はこの世界で思うがままに生きる!」


「この場で魔族を全滅させる、そのためにもおまえは――」


「欲しい物全てを手に入れて、逆らう者を全て殺して……この世界を支配して……!!」




「魅了、発動」


「…………あっ」


 姉様はとりことなる。こうなってはおしまいだろう。




「命令だ、一人で死んでおけ」


「はい!」


 とりことなった者への命令は絶対。

 姉様は宙に浮かぶための魔法を切って……地上へと真っ逆様に落下していった。






 そうして私たちと少年は空中にて対峙する。


「お久しぶりです、ガランさん。あとレイリさんも」


 少年は以前に会ったときと同じような態度で、軽く私たちに挨拶した。




「変わったな」


「……よく言われます」


 少しバツが悪そうにする少年。

 その態度にはやはり変わりがない。


 直前に魔族同士を殺し合わせて、姉様に自殺を強要したその姿を見ていなければ、異常だとは感じなかっただろう。




「ところであの魔族たちはおまえら味方じゃなかったのか?」


 少年の傍らに控える女騎士――レイリの情報にあったな、独裁都市の近衛兵長にして、元王国のスパイ、ナキナだったか――が問いかける。


「やつらとは袂を分かれた。正直危ないところだった、救援感謝する」


「別にそのつもりはない。王国としても魔族たちに好き勝手されると面倒だったからな」


 ナキナが述べる言葉には本当に邪魔だったから排除したという以上の意味は無さそうだ。

 だとしたら次に排除されるのは。



「ナキナ、止まれ」



 剣に手を伸ばそうとしたナキナを、少年は制止する。


「どうしてだ、我が主よ? 竜闘士と『変身』の魔族。ここで排除するつもりで赴いたのだろう? それだけの戦力は準備して……」


「勝手に俺のことを分かったつもりか? 命令しないと分からないのか?」


「……失礼した、出過ぎた真似お詫びする」


 ナキナは手を戻して引っ込む。




「どういうつもりだ、少年?」


 わざわざ王国を支配した少年の目的は正直なところ想像も付かない。

 だが、少年の護衛として背後に控えるのはそれぞれがかなりの使い手のようだ。

 ナキナの言っていたように竜闘士と戦うことを前提にした備え。

 だというのにどうしてこの土壇場で翻すのか。


「この前、学術都市で相談に乗ってくれたお礼です。この場は見逃してあげます」


 顔を背けながら告げられた言葉。嘘だとすぐに分かる言葉。


 いや、相談自体はあったことだ。竜闘士の少女との関係に悩む少年にアドバイスをして…………そういえば、ふむ、報告には無かったから勝手に思いこんでいたが……。




「竜闘士の少女はどうしたんだ?」


 同じ事を疑問に思ったのか、ずっと黙っていたレイリが口を開く。


「ユウカとは袂を分かった。……おまえたちには関係ないことだろう。それ以上ゴタゴタ抜かすなら、先ほどの言葉は撤回するぞ」


 急に早口になりレイリの言葉を否定する少年。……そのときだけ、真に依然通りの少年の姿が垣間見えた気がした。




「おお、怖い怖い。ならばガラン、行くぞ」

「……そうだな。気が変わらない内に」


 見逃してくれるというならばその言葉に甘えておこう。

 そうして別れる直前。


「変身、発動」


 レイリがその身に宿る、固有スキルを発動した。

 何をするつもりかと訝しむ間も無く――――竜闘士の少女の姿に変身したレイリは。




「ありがとね、サトル君!」


「……っ!!」




 少年にそんな言葉を投げかけた。


「あははっ、やっぱり。ねえ私分かっちゃった」


「おまえ……っ!!」


 目に見えて動揺している少年。




「サトル君が王国を支配したのって……私が理由なんでしょ?」


「その顔で、その声で……!! これ以上、話すな!!」


「レイリ、挑発するな! ……くっ」


 一触即発の気配を感じて、私は慌ててレイリの手を引きその空域を離脱する。

 猛スピードで進んでからおそるおそる振り返るが……こちらへのプレッシャーは感じるが追いかけてくる様子はないようだ。






「どうして逃げた、ガラン」

「それはこっちのセリフだ。全くどういうつもりだ、レイリ」

「これからは使命に囚われずやりたいことをする……それに従っただけだ」


 変身を解除していつもの姿に戻ったレイリはそう調子の良いことを言う。


「だとしても時と場合を選んでだな……」

「少年のことだ、自分から言い出したことを反故にすることは無いと判断した。それに……何かあっても私の傭兵が守ってくれるという確信もだな」

「……その結果がこの逃亡なんだがな」


 呆れながらも今し方の光景の意味を考える。

 危険を冒した価値はあったとも言えるだろう。派手に動く少年のその目的は……。


「はぁ。どうやら学術都市の時以上に拗れているようだな」

「魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人が仲違いをして数日ほど口も聞かなかったという話か」

「後悔しないようにとはアドバイスしたが、その結果がこの事態だとしたら……レイリ、早急にすることがないなら、二人の行く末を見守るという方向で動きたいのだが」

「いいだろう。私も気になるしな」

「感謝する。となると少年にはケンカを打ってきたばかりだし、そうでなくとも受け入れられないだろう。接触するなら少女の方だが……この前こちらから襲撃したとなると心証は悪いか」

「駄目で元々だ。第三者の立場で追う方法もある」

「そうだな……しかし少女が現在どこにいるかだが」

「王国の反抗戦力が独裁都市に集まっていると聞いたことがある。少女がいるかは分からないが、人が集まっているなら情報収集にも打って付けだ」

「承知した、そちらの方に向かう」


 言葉を受けて進路を変える。




 復活派。『世界滅亡』を為すため、魔神復活を掲げていたガランとレイリ。


 しかし今やその胸の内には何も使命はない。


 四つの勢力の内、こうして一つの勢力が脱落していった。

























 レイリとガランが去って。


「追いかけなくていいのか?」


 ナキナがサトルに確認を取る。


「……見逃すと言っただろう、撤回するつもりはない」


「承知した……ではこの場所にももう用はないな。一応確認のために散開するがいいか?」


「ああ、そうしてくれ」


「それと先ほどの……」


「…………」


「……いやいい。作業を開始する」


 連れてきた戦力にも命令して、打ち漏らしがいないか確認するナキナ。




 一人その場に残ったサトルはポツリと。


「羨ましいな……」


 脳裏に浮かぶのは背中合わせに戦おうとするガランとレイリの姿。


「俺にも力が、自信があれば……」


 自分の手を見つめながら握ったり開いたりを繰り返す。


 そしてふと中空に視線を移してつぶやいた。




「ああ、すまん。ありがとな。……分かってる。もうすぐだ、もうすぐだから」





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