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145話 復活派 過去2


 私とガランは更なる追っ手を警戒してすぐにその場を離れた。

 落ち着ける場所にたどり着いたところでガランが口を開く。


「君はどうして兵士たちに襲われていた?」


 当然の疑問であった。

 それを予想して既に返答は考えてある。


「それが……分からないんです。急に襲われて……」


 私の現在の姿は普通の村娘である。何か派手な言い訳をするよりも巻き込まれたとする方が信じられやすいだろう。


「……そうか」


 ガランは頷く。それが本心なのか、ポーズからなのかは表情から全く読みとれない。




「………………」

 一難去って、また一難といったところか。

 未だ枯渇した魔力は回復しない。『変身』で元の姿に戻ることが出来ない以上、この戦闘力0の村娘の姿を続けるしかない。

 だが魔族としての力を取り戻したとしても、目の前の男に敵うとは思えなかった。伝説の傭兵……話には聞いていたが、実際相対してみると想像以上に凄まじい力を感じる。

 だからといってすぐにこの男の側を離れるのも良くない。この森には魔物が出るため今の状態で襲われてはひとたまりもないからだ。


 魔力が回復するまでの間、この男に怪しまれないように過ごすしかない。

 とにかく絶対に正体がバレてはいけない。魔族だと……世界の敵だとバレた瞬間、私はそこで終わりだ。




「ところで君はどこに住んでいるんだ?」

「あ、えっと近くの村に住んで……といっても、逃げている間に森の深いところまで来てしまったんですけど……」

「そうだな……辺りが暗くなってきた。今日はこれ以上動くのは危険だろう。今夜は野宿して、明日の朝村まで送り届ける。それでいいか?」

「助けてもらう立場で文句なんてありません」

「……分かった」


 ガランから渡りの船の提案。明日の朝なら魔力も回復しているだろう。となれば今夜凌ぎさえすればいい。




 それから二人でたき火を囲み、ガランの取り出した食料を分けてもらい夕食を取る。

 意外というかガランはイメージとは違って、その間も黙ることなく私と会話を続けていた。


「そうだ、君は王国の司令について知っているか」

「えっと軍のトップですよね?」

「ああ。私は大戦の時に王国に付いていたから彼を知っているんだが」

「え、そうなんですか!? その勇ましさから民からも支持も高い有名人と!?」

「勇ましい……か」

「違うんですか?」

「まああいつが絶対に話す訳ないか。初陣の時敵にビビって、小便を漏らしたことなんて」

「ええー!? そんな一面があったんですか!?」


 取り留めもない話題で盛り上がる。




「………………」


 一体何をしているんだろうか?

 内心で自問する。


 自分の反応は考えてやっていることではない。これまでも『変身』を駆使し人間社会に溶け込んでいた経験から、化けた姿でどう振る舞うべきかはもう骨身に染みついた動きだ。

 バレたらマズい状況であるというのに、端から見れば楽しんでいるような状況に、一番歯噛みしたいのは自分自身である。




「こんな私なんかの話を聞いて面白いんですか?」


 会話が一段落したところで、私は自然とそんなことを聞いていた。

 別に事情に踏み込みたい訳ではないが、逆に聞かなければ不自然といった雰囲気になってしまったからだ。


「……ああ」

「どうしてですか?」

「そうだな……人と会話すること自体が久しぶりだからだろうか」

「人と会話を……えっともしかして、大戦の後しばらく行方不明だったことと関係して……」

「………………」

「あ、ごめんなさい」


 ガランは口を噤むが、実のところ噂レベルであれば話を聞いたことがある。

 大戦を終えて王国から何らかの勧誘を受けた。それを突っぱねた結果、故郷が報復として焼き落とされたと。

 王国に目を付けられては表舞台に出るのも難しい。またその知名度から正体がバレればすぐに騒ぎになる。


 だから人目に付かないように細々と……大戦が終わって数年も経つのにその間もずっと……この男『も』一人で生きてきたのだろう。




「………………」


 だからどうした。

 情に絆されるな。

 仲間だと思うな。


 私も彼も同じような境遇なのかもしれない。だからといって手を取り合えるというわけではないのだ。

 彼は人間で、私は魔族だ。種族の隔たりは厳として存在して、その正体がバレては排除されるに決まって――。




「さて……そろそろはっきりさせよう。君が姿を偽り何をしていたのかを」




「……!?」




 先ほどまでの雰囲気は霧散していた。

 全てを見通すような視線が我が身に突き刺さる。

 数多の戦場を制圧してきた英雄の油断も隙もない佇まい。


「な、何を言っているんですか?」


 そのプレッシャーに屈しそうになりながらも、どうにか言葉を絞り出す。


「勝手ながら『鑑定』スキルでステータスを確認させてもらった。何の変哲もない数値で……だからこそおかしい。君からは戦場の雰囲気が感じ取れる」

「……そんな勘違いですよ! いやですねえ、ガランさんも冗談が上手で……」

「とぼけ続けても構わない。世間は私を大戦を早期に終わらせた英雄、ともすれば聖人のように語るが……別にそのようなことはない。その活躍と比べて数は少ないだろうが……誰も殺さなかったわけではないからだ」

「………………」

「元々君だって助けるつもりはなかった。今さらこんなことで王国を敵に回すなんて馬鹿げている。……白状しないならば、今からでも君を先ほどの兵士の詰め所に引き渡す。そこで君がどのような目に遭おうが私の知るところではない」


 冷徹な宣告。

 それには誇張も嘘も含まれておらず、言うとおりにしなければ実行するという確信を私に抱かせた。

 故に私に出来るのは。


「『変身』解除」


 戻ってきた魔力を使いスキルを発動することだけだった。

 元の魔族の姿に戻るが、これでまた魔力が空になったため魔法一つ使うことすら出来ない。無力なのは一緒のままだ。


「その姿……頭に生えた角は……」


 呟くガランからは僅かに動揺が感じられた。失われた伝承にしかない魔族の姿を見たからだろうか。




「『変身』を見破られたのは初めてのことだ。流石は伝説の傭兵といったところか。

 私は魔族レイリ。太古の昔より生き、この世界の滅亡を使命とする魔族の一員だ」





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