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143話 魔王城会議


 魔王城、謁見の間にて。

 ユウカたちの動向を探っていたヘレスさんの報告を、王座に座って聞くサトルさんの横で。


「はぁ……」


 リオこと私は周囲に気付かれないようにため息を吐きました。




 どうしてこんなことになったのか。

 一週間ほど前からずっと思っていることです。


 学術都市で駐留派と復活派の襲撃を退け、様子の変わったサトルさんによってユウカを一人置いて連れ立ち、そこからの日々はもう大変の一言で表せないほどでした。


 先に逆スパイとして潜入させていたナキナさんの情報も使って、どうやって王国を転覆させるかをサトルさんは考え、命令して私たちに実行させる。

 裏で暗躍するのはもちろんのこと、サトルさんが持っている駒の内、魔導士の私は最強格の駒として戦闘にも参加させられる。

 王国の上層部はまあ世界征服なんて事を本気で考えている連中で腐っている人たちばかりでしたから、体制を破壊しても心こそ痛まなかったのは幸いでしょうか。


 そうして王国を制圧して少しは楽になるかと思えば、今度は内部の統治と外部への対応とさらに忙しくなって……もう本当に大変です。




 そんな折りに飛び込んできたのが、現在為されている帰還したヘレスさんによる報告でした。


 数日前、王国の支配を完了する前から先を見越してサトルさんがユウカの動向を探るために、ヘレスさんに命令していたようです。

 オンカラ会長がその場にやってきて、それ以上は嘘が露呈して調査の続行が不可能になると判断して帰還したようです。そのため報告されたものは対策会議における発言だけでしたが十分な収穫でした。


 サトルさんの言葉に惑わされていたユウカが、みんなの力も借りて前向きになり事態を解決しようとしている。

 久しく聞いていなかった親友の様子に、つい私は涙腺が緩みそうになりました。




 さて報告を終えたヘレスさんを下がらせて、謁見の間に残ったのは三人です。王座に座るサトルさん、その左に立つ私と、右に立つのは――。


「それにしても未だにあなたが殊勝に協力していることが信じられません」

「今さらだな。そろそろ信用してくれていると思ったが」


 元独裁都市の近衛兵長にして、王国のスパイだったナキナです。

 聖騎士のジョブを持つ彼女は、強さこそ私と同等のためこうして並び立つのもおかしくはないと言えますが……。


「あなたは王国に忠誠を誓っていたじゃないですか。王国を転覆させた私たちに従っているのはおかしなことです。魅了スキルの命令でも心までは操れませんし」

「それなら簡単なことだ。私も終わってから気付いたが、忠誠を誓っていたのは王国というとてつもない力に対してだったようだ。ならばそれ以上の力を持つ新たな主に従うのは自明のこと」


 そんな理屈でナキナは現在サトルさんに忠誠を誓っている。腹の内で本当はどのように思っているのかは分からないですけど。




 まあ今それは置いといていいでしょう。

 気にするべきは先ほどの報告。私たちへの対策会議とやらは、ヘレスさんによって一言一句逃さず報告されました。

 それはサトルさんが未だにユウカのことが好きであるだろうということ、ユウカが告白の返事を聞くために魔王城に乗り込むという言葉もです。




「………………」


 あの日、『囁き』がかかってからサトルさんは己の感情を全く表に出すことが無くなりました。

 表情はいつも能面のように無で、口を開くのは命令をするときくらいです。


 とはいえ流石にこの報告を聞いて何も思わないはずがありません。私でさえ少し顔が赤くなりましたし。

 久しぶりに今までのサトルさんらしい様子が見れると期待して。




「想定の範囲内だな」


 一言、つまらなさそうに言ったサトルさんに裏切られました。




「…………っ!」

 どういうつもりですか!

 反射的にかけようとした言葉が音になることはありませんでした。


 自由に動いているように見えて、私は今も魅了スキルのとりことなった身。命令によってサトルさんの胸の内を問いただすことや説き伏せようとすることを禁じられています。

 命令までしてそんなに自分が言い負かされるのが怖いんですか…………という言葉を発することも、今の私には出来ないのです。




「あのとき戦った竜闘士か」


 ナキナは偽りの結婚式の際、助けに入ったユウカと一戦交えています。


「個人としても伝説級の力を持つ竜闘士に、大陸最大のオンカラ商会と着々と力を取り戻しつつある独裁都市のバックアップ。

 王国にとって最大の反抗勢力となると思うが、どうする我が主よ」

「対処法は考えている。おまえが心配することじゃない」

「承知した」

 サトルさんの厳しい言葉にもナキナは動じた様子はありません。




「ユウカ……やはりおとなしくはしてくれないか。まあいい布石は……ヘレスによって嘘の情報も流させた」


 サトルさんが漏らしたつぶやき。

 ヘレスさんに流させた嘘の情報……確かに報告された会議の様子で私も一つ気になるところがありましたが……しかしあんな嘘を吐かせて何になるというんでしょうか……?




「………………」

 分かりませんが……私も覚悟を決めました。

 サトルさんに今まで協力していたのはもちろん命令で強制されていたというのもありますが、私が協力しなければ途中で死んでもおかしくないくらい無謀なことをしでかしていたからです。

 様子が違っていても仲間を、親友の好きな人を死なせるわけには行かせませんから。


 正直なことを言うと、現在のサトルさんの目的は分かりません。ただ渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めて元の世界に戻る……それだけで無いことは確かです。

 だって私たちの手元には今までの旅で集めてきた宝玉六個があります。元の世界に戻るためには八個必要なので残りは二個。

 それを集めるだけならこのように王国を支配するのは大がかりすぎます。適当に宝玉のある地を二つ訪れて、魅了スキルを駆使して宝玉を手に入れる方が楽です。

 ですからおそらくサトルさんは宝玉を八個以上手に入れたいのだと……それが私の読みです。


 その先に何を見ているのかは分かりませんがもう付き合いきれません。王国の支配も盤石となってきた今、私の協力ももう必要ないでしょう。


 ここから脱出してユウカたちと合流する。


 もちろんそのようなことは魅了スキルの命令で禁止されています。

 ですけどね、サトルさん。あなたの命令を一番聞いてきたのは誰だと思っているんですか?

 何度も命令無視する姿を見せた私には警戒されて今まで以上に雁字搦めな命令をされていますが……それでも抜け道はありますから。






 私が決意を新たにしているとサトルさんは次の事を考えていました。


「もう一つ対処しないといけないことがある。復活派だ。今朝各地に張り巡らさせた諜報員から、やつらと思しき二人組に宝玉を奪われたと報告があった」

「復活派……ですか?」


 私の口から純粋な疑問が漏れます。


 魔神復活派。その目的は名前の通り魔神の復活です。

 魔神の固有スキルである『囁き』。サトルさん一人にかかっただけでこんな大惨事を引き起こして……いや、サトルさんだからこそとも言えますが……とにかく魔神が復活すればこれ以上の事態になることは容易に想像が付きます。


 しかし太古の昔に虚無の世界へと飛ばされた魔神を呼び戻すには宝玉が十二個必要です。学術都市で駐留派に協力したことから、復活派の所持している宝玉は七個。

 新たに一個入手したところでまだ状況は変わらないはず。






「やつらの最終目的は魔神復活。だが当面必要な宝玉は八個のはずだ」


「……え?」






 私の思考を読んだかのようなサトルさんの言葉。


 どういうことでしょうか? 復活派も私たちと同じ八個必要?

 宝玉八個で出来ることは指定した世界に多数の存在が通れるゲートを開くことです。そんなことをして復活派に何の得が…………。




「まさか……」


「魔族レイリ。太古の昔、この世界に一人残った魔族で……別の世界にはやつと同じような魔族がたくさんいる。

 それも魔族としての種族特性として、各々が固有スキルを持っているわけだ」


「…………」


「それらを呼び出して集団となりこの世界を蹂躙して、渡世とせ宝玉ほうぎょくを奪い今度こそ魔神を復活させる。これが俺の読みだ。

 いくら王国の勢力が巨大とはいえ、固有スキル持ちを複数人も相手にするのは面倒。

 だから――」


 サトルさんが王座から立ち上がって。




「俺が出る」




 私たち支配派のブレインであり、魅了スキルにより支配を維持する要。万が一でさえあってはならない存在。であるからこそサトルさんは裏方に徹してきました。

 そんなサトルさんが直接出るほどの事態。


「ナキナ、おまえと何人かを連れて護衛しろ」

「はっ!」


 ナキナは異を唱えることもなくその命令に従います。


 ナキナの名前だけが呼ばれたということは……私は留守番をしろということでしょうか? まあトップが不在なのもマズいですし、せめて私を残しておくと。

 だとしたらこれはチャンスです。

 サトルさんがいない間に何としてでも命令を破ってユウカたちと合流して――――。




「ああそうだ。リオ、おまえにも命令がある」


「……何ですか?」


「おまえの手でユウカたちを潰せ」










 魔王君臨事件から数日。

 世界は落ち着くことなく、新たな騒動に巻き込まれていく。



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