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141話 返事


「ほう……告白かい」

「お、思い切りましたね」

「…………」

「青春ですね」


 私がサトル君に告白したと明かすと、チトセとソウタ君はなるほどと頷き、ホミさんは顔を伏せて表情を窺えなくて、ヘレスさんは暖かい眼差しになっている。




「で、返事はどうだったんだい?」


「それがね、本当ちょうど返事をもらえるってときに駐留派と復活派が襲撃をかけてきて」


「ああもう酷いタイミングだねえ」


「で、さっきも言ったようにその戦闘中にサトル君は『囁き』にかかったんだと思う。それで戦闘の後、サトル君は私に言ったんだ。

 私が傷つく姿を見たくない、宝玉は自分が全て集める、私の隣にいる資格がない、告白は無かったことにしてくれ、私の気持ちは他の人のために取っておけ…………って」


「………………」


「私は……サトル君に拒絶されたんだよ」




 この一週間何度も思い返したサトル君の言葉。


 資格なんて必要ない。ただ隣にいてくれるだけで良かった。

 一緒に居れるなら私はどれだけ傷ついても構わなかった。


 なのに、サトル君は私を一人置いていった。


 私とサトル君が通じ合えていると……そう思ったのは幻想だったのだろうか?




 この会議に参加しているのも異世界を混乱させている事件に対処しないといけないという義務感から行動しているだけで、特に何か思いがあるわけでもない。

 大事な会議で個人的な悩みを打ち明けたこと、未曾有の事件にどうにか頑張ろうとしているみんなに対して冷めている私。

 何だか何もかもが申し訳なくて謝ろうとしたそのとき。






「えっと……それはノロケかい?」

「……え?」


 チトセが顔を赤くして、頬をかきながら言ったことに理解が追いつかなかった。

 気付くとソウタ君も同じで、いつもクールなヘレスさんでさえ少し赤くしている。


「いやだから、ユウカとサトルはこれだけお互いのことを思い合っている……って自慢なんだろ?」

「ど、どうしてそうなるの!? 私は真剣に悩んでいるんだよ! サトル君に拒絶されたって!!」

「いや、その拒絶っていうのも…………ああもう、アタイには無理だ! ソウ君頼んだ!!」

「ええっ!? 僕ですか!?」


 今にも顔から火を噴き出しそうなチトセがソウタ君にバトンタッチする。


「どういうこと、ソウタ君!!」

「え、えっと……どう説明すればいいんでしょうか。……そうですね、仮にですけどユウカさんはサトルさんが傷付く姿を見たらどう思いますか?」

「そんなの見たくないよ!」

「じゃあそのための手段があるとしたら?」

「迷わず実行する!」

「それと全く同じ事をサトルさんもしているんですよ」

「…………え? あれ…………そうなるの?」


 好きな人の傷付く姿なんて見たくない。当然のことだけど……あれ、もしかしてサトル君も同じで……。




「そして確認なんですけど実際サトルさんはユウカさんのことを置いていった。それは事実なんだと思いますけど……そのとき別に一緒にいたくないだとか嫌いだとか言ったわけじゃないんですよね?」

「う、うん。俺には隣にいる資格が無いって言っただけで……告白の方も気持ちは嬉しいけど、無かったことにしてくれって」

「いや、もう答え言ってるじゃないですか。気持ちは嬉しいって……嫌いな人から好かれて嬉しい人なんていませんよ」

「……え? ……えっ!? で、でもだったらどうしてその気持ちは他の人のために取っておけなんて言ったの!?」

「そのとき既にサトルさんは魔王になる決心をしていたんだと思います。魅了スキルをフル活用しても茨の道であることは想像が付くその手段。結果的に成功しましたけど、途中で倒れる覚悟もしていて……そのときに好きな人の気持ちをずっと自分に縛り付けたくないからそう言ったんだと…………ああもう、解説する僕の方が恥ずかしくなってきたじゃないですか!!」


 珍しく声を荒げるソウタ君。チトセ同様顔から火を噴き出しそうなくらい真っ赤だ。




「ってことは……サトル君はそれだけ私のことを好きだってこと!?」


 そう思うだけで、私の心は小躍りしたくなるくらいに舞い上がる。






「はぁ……どうしてこんなことも分からなかったんでしょうか?」

「……あーそういえば、ユウカは元々恋愛においてはクソ雑魚メンタルだったねえ。事あるごとにリオに相談していたけど……でもサトルはリオも一緒に連れて行ったんだろう? そのせいで外から指摘する人がいなかった」

「なるほど……ってことは、リオさんはずっとこんなことしてきたんですか」

「ということだろうねえ。今度会ったら労ってやろうか」

「ですね」


 呆れた様子のソウタ君とチトセが何か言っているけど、私の耳を素通りしていく。






「なるほど指摘はもっともかもしれませんが……現実問題として、ユウカさんがサトルさんに置いて行かれた事実は変わりませんよね?」


 そのときずっと黙っていたホミさんが口を開いて……その言葉は素通りしなかった。私は突っかかる。


「聞いてなかったの、ホミさん? サトル君は私が好きだからこそ置いていったんだよ」

「ただの推測でしょう。本当はユウカさんに呆れて置いていった可能性だって否定できません。サトルさんは優しいですから言葉をオブラートに包んだだけです」

「そっちこそ推測じゃない。サトル君は私のことが好きなの。それが決定事項なの」

「告白に答えてもらえなかったのに、ですか?」

「ぐっ……それは……」


 言い詰まる私に、ホミさんはさらりと言った。




「結局サトルさんから直接言葉にされていない限り、状況証拠でしかありません。確証にはなり得ません。

 ですからさっさと告白の返事をもらってきてください」




「……え?」

「ユウカさんがさっさとフラれないと私がアタックしにくいじゃないですか」

「で、でも……サトル君は告白を無かったことにしてくれって」

「そんなの聞こえなかった、って無視すればいいんですよ」

「ご、強引すぎない……?」

「大体乙女が勇気を出して告白したのに、答えない方が悪いんです。サトルさんが100で悪い上に勝手なこと言ってるんですから、こっちだって勝手なこと言いましょう」

「…………」

「何ですか、黙って」

「えっと……ありがとね」

「礼を言われる筋合いはありません。私は私のために動いているだけです」


 ホミさんはそう言ってのけるとプイと顔を背ける。






「あれ、姫様ってもしかして……」

「あーそういえばあいつら独裁都市でも騒動に巻き込まれたって言ってたねえ。何か支配されてた姫様を助け出したって話も」

「そのときにサトルさんが姫様に惚れられた……ってことでしょうか?」

「状況的にそうなんだろうよ。何とも罪作りな男だねえ」






「……うん、そうだね。私、決めたよ! サトル君に告白の返事をもらいにいく!! そのため王国に、魔王城に乗り込む!!」


 決意新たに私は宣言する。


「まあ前向きになったことはいいことだよ。ただ、一人で乗り込むなんて言うんじゃないよ」

「そうですね。今のサトルさんは王国の全てを掌握しています。いくら竜闘士といえど正面突破出来る勢力ではありません」

「そのためにも準備は整えないと、ですね」

「オンカラ商会もバックアップ出来ると思います。サトルさんの宣言以降、各地で起きている混乱は早めに静めたいところですから」


 チトセ、ソウタ君、ホミさん、ヘレスさんの四人もそう言ってくれるのだった。



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