139話 魔王
祝連載開始一周年!!
開始当初はこんなに長くなると思っていなかったこの話もいよいよ最終章ということになりました。
最後まで付き合ってもらえると幸いです。
独裁都市。
支配から開放されたホミ姫により復興が急ピッチで進むこの都市の中心、神殿最上階の執務室に。
ユウカこと私はいた。
「ありがとう、ホミさん。こんな場を用意してもらって」
「いえ、こちらも詳しい状況を窺っておきたかったですから。対岸の火事でもありませんし」
この場の主催者、ホミさんに礼を言うとお気になさらずと返される。
「ヘレスさんも参加ありがとうございます」
「会長からはオンカラ商会の持つ全ての情報の提供、ならびに必要ならば物資の準備もするように言われています。遠慮なさらずに」
私たち帰還派をバックアップしてきたオンカラ商会からは会長秘書のヘレスさんが参加している。元はスパイであったがサトル君の魅了スキルにより暴かれた結果今は改心している。
「他のメンバーが集まるまでは時間がかかりそうだけど……近くにソウタ君とチトセだけでもいて助かったよ」
「え、えっと……期待に応えられるように頑張ります!」
「正直アタイはまだ状況も掴めて無くてねえ……まあ足を引っ張らないよう頑張るよ」
気弱なソウタ君と姉御肌なチトセ……武闘大会で共に戦い、その途中でカップルとなった二人がこの独裁都市の近くにいるということで集まってもらった。他の帰還派メンバーが集まるまで待ちたかったが、その時間ももったいない事態だ。
私、ホミさん、ヘレスさん、チトセ、ソウタ君で五人。
それぞれが帰還派、独裁都市、オンカラ商会の代表者で、今の私に集めることが出来る最大の勢力。
これでどうにかしてサトル君を止める方法を考えないと。
「それではこれから現在大陸中を騒がせている世紀の事件、俗に魔王君臨と呼ばれる事件への対策会議を始めます」
司会進行は主催者ということもありホミさんが取るようだ。
「まず時系列から確認しましょうか。この事件の首謀者……サトルさんが学術都市にて敵対する駐留派、復活派に襲われたのが八日前でしたよね?」
「うん」
「その後ユウカさんを置いて行方をくらまし、次に表舞台に現れたのが一週間後の昨日。王国を乗っ取り、自身が王になると大陸全土に対して宣言しました」
未曾有の宣言からは一日開けているが、それでも騒動による混乱は収まっていない。
「宣言と同時に女神教の教会があった土地に対して渡世の宝玉を引き渡すように要求がありました。要求に応じない場合いかなる手段を取ることも辞さないとも同時に記されています」
ホミさんから大筋の説明が終わる。
「順を追って確認したいねえ」
チトセが手をあげて発言する。
「まず学術都市での襲撃ってやつだけど……駐留派の目的、魅了スキルを手に入れたいってのは分かっている。襲撃をどうにか凌いで、なのにどうしてユウカが置いてかれたのかい?」
「サトル君自身の発言が根拠だから確証は無いけど、自分自身に素直になるスキルってのをかけられたみたいで。宝玉を集めようとすることで傷つく私が見ていられなくて、自分一人で宝玉を集めるから私は追いていくって」
「……はぁ? 意味分かんないねえ。そんなに大事なら隣で守ってやればいいじゃないかい」
「まあまあ抑えてください」
憤るチトセをソウタ君が宥める。
「で、それから一週間後の昨日に王国の乗っ取りを宣言したと。でもそんなこと有り得るかい?
王国の強大さは異世界の情勢に疎いアタイでさえ知っていることだ。リオとその戦術科の生徒たちってのを連れて行ったとはいえ、一週間で攻略できるはずないだろ。何かの間違いじゃないかい?」
「そうかな? 私はサトル君なら可能だと思うよ。さっき言ったスキルの影響のせいで、今のサトル君は魅了スキルを使うことに躊躇しないから。全ての女性、世界の半分を支配できる上に、サトル君の指揮があれば簡単なことだよ」
今まで宝玉を手に入れるため率先と私たちを導いてきたサトル君の力について今さら疑うところはない。
「加えてナキナ……元この独裁都市の近衛兵長にして王国のスパイに、魅了スキルを使って逆スパイをさせて王国の情報を探らせていました。ユウカさんと別れた後コンタクトを取り、その情報も使って攻略したのでしょう」
ホミさんが補足する。
「……二人ともサトルへの評価が高いんだな。まあやるときはやるやつだったか」
チトセも納得したようだ。
「で、サトルは王国を支配した……けど、なんでそんなことをしたんだい? 王様になりたいなんて願望を持つやつじゃなかったと記憶しているけど」
「サトル君の目的は簡単だよ。渡世の宝玉を集めること。でもこれまで通りわざわざ教会の跡地を訪れて探すなんて面倒でしょ。だから王国を乗っ取り強大な武力を嵩にして各地に宝玉を差し出すように言った」
「ああ、そうかい。それが宣言と一緒に為された要求ってやつか。…………ってことはなんだい? 宝玉を集めるためにわざわざ王国を支配したと。何か目的と手段の大きさの違いがえらく歪だねえ」
言われてみればそうだけど……そんな手段もやすやす取れるくらい今のサトル君には力がある。
王国を、支配派を乗っ取ったサトル君は今や帰還派、駐留派、復活派に一人で肩を並べる存在になったのだから。
「まあ概要は分かったよ。アタイからの質問は以上だ」
「では、次は私から」
納得した様子のチトセに代わって、今度はホミさんが手を挙げる。
「先ほどユウカさんはサトルさんに何らかのスキルがかかっていたと話しましたが、実際いつどこで誰にどんなスキルをかけられたんですか?」
「えっと……言われてみると私も疑問ばかりで。いつなのかって言うと駐留派と復活派との戦闘中だと思う。でもサトル君を守るために背負いながら空中で戦っていたから、簡単にかけることは出来ないはずなのに……いつの間にかって感じで」
「戦闘中で警戒度MAXの竜闘士にも気付かれずですか。俄には考えにくい事態ですね」
「その直前にサトル君は独り言を呟いていたんだけど、何か関係あるのかな?」
「独り言ですか。分かりませんが…………あ、ちなみにそのスキルの名前は何ですか?」
「言ってなかったね。『囁き』ってスキルなんだけど――」
「『囁き』ですか……!?」
ガタン!! と、ホミさんはイスを弾き飛ばしながら立ち上がった。
スキルの名前を聞いただけでこの反応。どうやら何か知っているみたいだけど…………でもそんなに驚くほどのことなのか?
「知っているの、ホミさん?」
「当然です! だってそれは――魔神が持っている固有スキルなんですよ!?」
「「「「っ…………!?」」」」
ホミさん以外の四人が息を呑む。
魔神。
太古の昔にこの異世界を滅ぼしかけた存在。女神様によって別の世界に飛ばされ封印されたはずの存在が……どうしてサトル君にスキルを……?
同時にホミさんが知っていた理由も納得する。彼女は女神教の大巫女。女神様にまつわる情報についてはこの世界で一番知る存在だ。
「私も自由を取り戻してようやく訪れることが出来た神殿の地下に秘蔵されていた書物から得た知識なんです。だからサトルさんにも話していなくて……」
「今後のためにも魔神について知っていることを教えて欲しいんだけど」
「いいですよ。しかしちょっと待ってくださいね、私も整理してから話さないといけませんから」
ホミさんは言うと思案顔になって、少し経って口を開く。
「魔神と呼ばれる存在。その始まりはこの大陸の小さな農村の平凡な夫婦、その間に生まれた一人の女の子だったそうです」
語り出したその内容は、最初から私の前提を破壊した。
「女の子……え、でも? 魔神って……あれ、もしかして……」
この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。知性を持たない獣で、度々人間に被害を及ぼす存在だ。商業都市近郊で戦ったドラゴンもその一種と言える。
だから魔神とはその親玉、得体が知れず破壊を振りまくモンスターだと思っていた。復活派が世界を滅亡させると言っていたこともそのイメージを補強した。
しかし……考えてみればそうだ。神と呼ばれる存在……女神様だって元は人間。だったら魔神も――。
「はい。魔神も元は偶然固有スキル『囁き』を授かった人間の女の子なんです」




