136話 同盟
ブクマが急激に増えました。感謝です。
今回短めなので、明日朝も投下します。
カイら召喚者を中心に犯罪結社ネビュラのバックアップを受ける異世界駐留派。
伝説の傭兵と魔族からなる魔神復活派。
両者が手を組んだという事実は――。
「考え得る限り最悪の事態ですね」
いつの間にか俺たちの隣に姿を現したリオの言う通りだ。……って、あれ? 本当いつの間に?
「リオ……やっぱり覗いてたんだ」
「すみません、叱責は後からいくらでも聞きますから」
「……まあ、探しに行く手間が省けたと見るべきかな」
ユウカとリオのやりとりから、リオはユウカの告白をどこかに隠れて覗いていたということのようだが、そのことに構っている余裕も無い状況だ。
「復活派と手を組んだことは分かった。だけどどうしてどちらも宝玉を求めているはずのおまえたちが組めたんだ?」
俺は質問する。
「君の言うとおり、僕らも彼らも宝玉を求めている。君たち帰還派と違って必要な宝玉の数が多いことから、獲得した宝玉を分配する条件にしたとしても折り合いが付かないだろう。
だが、僕はふと思い直したんだ。僕たちはそもそも何のために宝玉を求めているのか、とね」
カイはジェスチャーを交えながら話している。かなりの上機嫌のようだ。
「僕の目的は君を道具として魅了スキルを自由に使えるようにすることだ。そのために君の側を離れない邪魔な竜闘士、ユウカを一時的にでも排除するために宝玉で悪魔を呼びだそうとしていた。
つまり宝玉の収集はただの手段でしかないんだよ。別に竜闘士をどうにか出来るなら、悪魔を呼び出す必要も宝玉を集める必要も無い。
そう考えると……おあつらえむきにユウカを圧倒した存在がいることに気づいたんだ」
「まさか……!」
「それが伝説の傭兵と呼ばれる彼さ。試合形式とはいえ武闘大会ではユウカに勝ったことから実力は十分。彼に協力してもらえるなら、僕らはもう宝玉も必要ない。
だから僕らが現在持っていた宝玉四つ全てを差し出すという条件で、この場でだけ手を組んだというわけさ」
説明されてみると何とも簡単な発想の逆転だ。
一つ問題点があるとしたら。
「復活派が宝玉を集めきり魔神が呼び出されこの世界を滅ぼされるのはおまえたちだって避けたいことのはずだろ。
なのにその復活派はおまえたちが宝玉を譲ったせいで今や7個所持している。俺たちが持つ6個も奪われたら12個のラインを超えて魔神が復活するぞ」
「ああ、そうだけど……まあそのときはどうとでもするさ」
「…………」
一瞬カイとガランの間の空気がピリッとする。完全な一枚岩では無さそうだが、突き崩すほどの隙では無さそうだ。
「そもそもその問題は君たちが宝玉を奪われた場合の話。僕のこの場での目的は魅了スキルのみだ。
どうだいユウカとリオ。サトル一人置いていけばそれ以上は追わないと約束するよ。宝玉を持って逃げてもらえると面倒が無いんだけどさ」
「そういえば私がサトル君を見捨てるとでも?」
「舐められたものですね」
カイの提案にユウカもリオも乗るつもりは毛頭も無さそうだ。何とも頼もしい。
「はぁ……これだから虜になった人たちは厄介だ」
「影使いの少年よ、ここは想定通り正面突破しかないだろう」
「そうだね、ちょうど二人の準備も終わったようだし」
カイとガランが視線を向けた先。
ダッ、ダッ、と何か打ち付けるような音……壁を走って登りこの屋上にやってきた二人が現れる。
「警備室の攪乱は終わったよ、カイ」
「これでしばらくは介入できないだろう」
ギャルのエミと魔族レイリ。
それぞれカイとガランのパートナーとも言える二人が加わり、敵の人数が四人となった。
「ご苦労様、エミ」
「全員揃ったか」
復活派はレイリとガランの二人のみだが、駐留派には他にも多くのクラスメイトとネビュラの構成員がいるはず。しかし、この地に赴いているのはカイとエミの二人のみのようだ。
それは助かる一方で、やつらの言葉が正しいとすれば、魔法学の権威であるこの学園に常駐する腕利きの警備員の助けも望めないようである。
「戦力として私とガランさんが互角で、リオがレイリさんと互角……」
「そこにカイさんとエミの二人も加わるわけですから……かなりきついですね」
「戦いに付き合う必要もないし逃げの一択だけど……」
「それすらも許してもらえないでしょうね」
ユウカとリオの戦力算用。聞けば聞くほどに絶望的だ。
さらに気を使っているのか、二人は俺の存在に触れないでいる。戦闘中お荷物でしかない俺を庇いながらという条件も加わると…………これは、もう。
「なあ二人とも……ここは俺が……」
「駄目だよ、サトル君。自分を犠牲にするのは」
俺の提案は最後まで言う前にユウカが遮る。
「そうですよ、サトルさんを引き渡せばそれ以上は追わないと言いましたが所詮口約束です。守るとも思えません」
「サトル君を危険な目に遭わせる訳にも行かないからね」
「でも……」
それでも申し訳なさが振り切っている俺に。
「大丈夫、私がサトル君のことを絶対に守るから」
ユウカは宥めるように言って。
そして機は熟したようだ。
「さあ、やろうか」
「了解っと」
「少々心が痛むが……これも使命のために」
「ちょうどいい、先ほどの借りも返させてもらおうか」
駐留派、復活派混成チームと。
「サトル君しっかり掴まっていて!!」
「あ、ああ!」
「サポート出来るときはしますが宛てにはしないでください! それと無理しすぎないようにですよ!」
俺たち帰還派三人。
各勢力の中枢メンバーによる決戦……絶望の戦いが始まった。




