132話 探偵
どうもみなさんこんにちは。名探偵のリオです。
「……なーんて、ユウカを馬鹿に出来ない思考してますね」
女子寮のベッドに大の字であおむけに寝転がりながら、私は随分と失礼な言葉を吐きます。
とはいえ私の功績を思えば名探偵と呼ばれてもおかしくないはずです。
魔族レイリが宝玉を狙っているという事を知った私は、研究室長にセキュリティの強化を進言しました。
その結果、研究室は物理的な出入りを禁止して、中で研究員は泊まり込みで作業をすることになりました。元々渡世の宝玉の反応を一日中見るために研究員は二交代制で働いていたため、そこまで反対は多くありませんでした。
そして内部での魔法発動の痕跡を記録する装置をセットして、仮に誰かが魔法を使って盗んだとしてもすぐにバレるようにして。
完璧な密室が出来上がりました。
一抹の不安があるとしたら固有スキルの発動は判別出来ないことくらいでしょうか。魔族が変身で既に研究員として潜り込まれていても見抜くことは出来ません。
それでもこの警備の中盗むことは不可能だと……私は確信していて。
今朝、宝玉がすべて盗まれていることに気付きました。
すぐに研究員を全員集めた結果、一人の研究員の姿が見当たりませんでした。
しかし研究室の物理的閉鎖は解けておらず、魔法使用の記録も確認しましたが怪しい点は何も見つかりません。
つまり人一人と宝玉が忽然と密室から姿を消したのです。
騒然となる現場。それは私も例外ではありませんでした。
一体、何が起きているのか。どうやって姿を消したのか、変身を使ってもこんな芸当は出来ないはず。
考える私に対して、室長はそのいなくなった一人がどうにかして宝玉を持ちだし逃げたのだと判断してその人の行方を追います。
私もその捜査に加わるべきと思いながらも……何か引っかかるところがあって……そして推理が繋がりました。
結論から言うと宝玉は研究室から持ち出されていなかったのです。
魔族レイリは宝玉を研究室の中の見つからない場所に隠し、研究員一人の姿を消させてそいつが持って逃げたのだと外に注意を向けさせて、ほとぼりが冷めた頃に宝玉を持って逃げるつもりでした。
さて、一人姿を消させるといっても密室からどうやって姿を消したのかという話です。
簡単なことでした……魔族レイリは最初から一人二役を演じていたのです。
二交代制の表の時間で働くAと裏の時間で働くB。どちらも魔族レイリが変身した者でした。
そうです、消えた人間は一人ではなく二人だったのです。
危うくAという最初から存在しない幻像を追い続けて騙されるところでした。
私がそれに気づけたのも思えばAとBが一度も同じ場所に姿を現して無いことに気付いたからです。見事な探偵っぷりでしょう。
そして魔族レイリを追いつめて、渡世の宝玉をどこに隠したか吐き出させて……事件の解決です。
武闘大会の時は『変身』スキルに煮え湯を飲まされましたが、今回はしっかり見抜くことが出来ました。
魔族レイリの悔しげな顔は、思い浮かべるだけでご飯三杯いけそうです。
ユウカが帰ってきたら武勇伝として今日の顛末を聞かせることにしましょう。
「さて……」
研究もちょうど終わったようで、元から研究室が持っていたのも合わせて宝玉六つが私たちの手に戻りました。
これで元の世界に戻るまであと二つです。
明日にでも次の目的地に向かうとして……しかし、まだ問題があるとすれば……。
「失礼する!!」
「わっ! サトルさん!? ちょっとノックくらいしてくださいよ!」
そのとき突如として部屋の扉が開いてサトルさんが入ってきました。
私はあわてて起き上がります。
「あ、すまん……ちょっといてもたってもいられなくて……」
「全く私が着替えでもしていたらどうするんですか」
「ごめんなさい……」
「それで何か用ですか、サトルさん……あ、そういえば宝玉についてですが、ちょっと騒動があってその話も……」
自分の活躍を誰かに自慢したかった私は話を切り出そうとして。
「すまん、話は後で聞く! それよりユウカはいないのか!」
「ユウカですか? ええと……分かりませんね」
サトルさんの質問に私は周囲の気配を探ります。
事件に立ち向かう私のところを訪れたユウカは、自分に『不可視』の魔法をかけてほしいということで、合間の時間で対応しました。
そのためサトルさんの近くに姿を消しているのだろうと思ったのですが……見当たりませんね。
「そうか、じゃあどこに行ったのか心当たりはないか?」
「すいませんちょっと分からないですけど……しかし、いきなりどうしたんですか? そんなにユウカのことを気にして。あ、もしかして何かヤバいことが起きたとかですか?」
「いや、個人的な用事なんだが……そうか、いないならいいんだ。他を探してみる」
サトルさんはぽりぽりと頭をかくと踵を返そうとします。
「――!」
私のセンサーにビビッと来るものがありました。
ユウカとサトルさんは魅了スキルにまつわる嘘で対立していたはずです。
それなのにサトルさんからユウカのことを探して……いてもたってもいられない様子……個人的な用事……これはもしかして……もしかすると……!
「ユウカはたぶんそろそろここに戻ってくると思います」
「そうか。なら待っていた方が」
「いえ、サトルさん。察するにユウカと大事な話をするつもりではありませんか」
「……本当鋭いな、リオは」
図星だったのか苦笑するサトルさん。
「だったらこの場所はマズいでしょう。女子寮の部屋はあまり防音も良くないですし、話を他の人に聞かれるかも知れません」
「いや、でもそんな聞き耳立てるような人いるわけ」
「ですから人が来ない場所に……そうです、校舎の屋上に場所を移しましょう! ええ、そちらの方がムードがあります!」
「あー確かに人は来なさそうだが……ムード?」
「とにかくサトルさんは先に行ってください! ユウカが帰ってきたらそちらに向かうように伝えておきますから!!」
「え、あ、いや……まあ、はい。じゃあ頼んだ」
サトルさんは釈然としないながらも私に伝言を託して部屋を去ります。
「まさかいつの間に……何がきっかけで……しかしチャンスであることには……」
私が事件に挑んでいる間に何かあったのでしょう、見逃したのは残念ですが……いえいえ、メインイベントはここからのはずです。
「ねえ、サトル君ここに来なかった!?」
そのときちょうどユウカが扉を開けて部屋に戻ってきました。
「ええ、来ましたよ」
「やっぱり! ……あれ、でもいないけど」
「ちょうど入れ違いになったみたいですね。サトルさんもユウカを探していたようで……ですから校舎の屋上で待っておくように言っておきましたよ」
「屋上ね! 分かった!」
ユウカは事情を尋ねることなく、居場所を聞くとすぐに再び出て行きました。
「ずいぶんと急いでいましたが……どうやらユウカにも何か心境の変化があったみたいですね。となれば、何か起こるのは確定でしょう」
だとしたら私がするべき事は何か。
大事な話をするとしたらそれを覗くのは無粋な行為です。
それくらい私だって分かっています。
事の顛末は終わってから二人に聞くべきです。
だから私はこの部屋で大人しくして………………。
「……。……。……。そういえばちょっと散歩したい気分ですねー……何か誰にも見られたくない気分ですし、姿を消していきましょうかー……『不可視』!!」
魔法を発動して姿を消します。
散歩の目的地は当然、校舎の屋上です。
……いえ、別に他意はないんですよ。今の時間夕日が沈むところが見られる絶景スポットですし、散歩コースに最適です。……そこに誰かがいたとしても私には関係ないですしね、はい。




