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126話 着地点




「ユウカは本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」


「…………」




 険しい表情で口を開いたサトルさんに、リオこと私はさてどうしましょうか、と半ば思考放棄していました。




 現在私たちは学園の食堂にいます。初等部から大学まで、大勢の生徒が利用する食堂です。

 私は朝の内にサトルさんとここで会う約束を取り付けていました。リオ一人だけならいい、と暗にユウカの同席を避ける発言をされたのは想定内です。

 そして午前の講義を終えて昼になり食堂に向かい、料理を持って二人座れるところを探し、落ち着いたところで先の発言をされたという流れです。




「――というわけでユウカに魅了スキルがかかっていないと思ったわけだ」


 さて、今までの流れを思い返す現実逃避を終えたところで、サトルさんがどうしてそう思うようになったかの説明もちょうど終わりました。

 どうやら近衛兵長のナキナが『状態異常耐性』のスキルを持っているのに魅了スキルにかかったことから、私の吐いた嘘が見破られたことが原因だったようです。

 ナキナと私が直接対峙していれば、そのときに相手がどのようなスキルを持っているか看破して、この事態を避けることも出来たでしょうが……そんなこといっても詮無きことですね。




「率直に聞く。リオ、おまえはユウカの事情を知っているんじゃないか?」

「……そんな、私も知らなかったんですよ! まさかユウカが魅了スキルにかかっていないなんて! 状態異常耐性スキルのせいでないとしたら一体何が理由で――」



「………………」

「――と言っても信じてもらえなさそうですね」



「ああ。今思い返してみると、状態異常耐性スキルのことを言い出したのはリオだろ。おまえはユウカに魅了スキルがかかっていることにしようと奮闘していた。つまり、そのときからユウカの事情について知っていたんだろ」

「実際にはあのときは疑い程度でしたが……ええ、今の私はユウカの事情について知っていますよ」


 誤魔化せる雰囲気ではなく、私は真実を打ち明けます。


「…………」

「軽蔑しないんですか? ずっとサトルさんのことを騙していたのに」

「そう、だな。……リオが嘘を吐いたのはユウカの事情を汲んでのことなんだろ」

「まあそうですね」

「だったらユウカが嘘を吐かせていたようなものだし……それにその状況をリオが良しとしていたのは、ユウカのためでもあるんだろうが、俺のためでもあるんだろ? それくらいにはおまえの人となりも分かっているつもりだ」

「……はい」


 サトルさんの言う通りです。

 ユウカがサトルさんのことを好きであることを私が言えなかったのは、もちろんユウカの意向もありますが、サトルさんが好意をトラウマに思っていることも考慮してのことです。

 といっても言い訳にしかならないと、罰を受けるつもりだったのですが……サトルさんは私のことを許しているようです。




「でしたらユウカは?」

「ユウカは駄目だ。あれだけ人のことを信じろって言いながら、騙していたとか無しだろ」

「まあ、そうですね」

「大体ユウカはだな――」


 そこからサトルさんがユウカに対する愚痴をつらつらと述べるのを、ほぼ全面的に同意しながら私は考えます。


 サトルさんは新たな街にたどり着く度に宝玉を手に入れるまでの道のりを私たちに指示して来たことから分かるように、状況把握の能力が高いです。

 今回もユウカに疑いを向けるや否や、魅了スキルにかかっていないとまで推理したのは流石です。


 だからこそサトルさんがその先に気付いていないことは少々不可解でした。


 ユウカは一番最初に召喚された直後に魅了スキルを暴発させた際、しっかりと効果範囲にいました。サトルさんもユウカのことを魅力的に思っていたはずです。

 それなのに失敗したとなれば……その理由は対象が特別な好意を抱いている場合くらいしかないと分かりそうなものなのに。


 ですがサトルさんはその可能性を思い浮かべることすらしていなさそうです。




 その理由は…………ああ、そうですか。


 サトルさんは魅了スキル抜きに自分が好意を向けられることは無いと……呪縛に囚われている。


 トラウマから心の傷を癒すのに使った自己否定が、サトルさんの自己評価の低さを生み出し、そのせいで『自分が好かれる事なんて無い』と思いこませている。




 その一方で。


「大体ユウカはいつも自分勝手で……聞いてるか、リオ?」

「ええ、聞いてますよ。本当苦労しています」

「だろ」

「それでこちらから質問なんですが、サトルさんは今後どうしたいんですか?」

「今後……?」

「はい。ユウカはサトルさんを長い間騙していました。ごめん一つで済む問題ではないでしょう」

「ああ、その通りだ」


 頷くサトルさんに私は吹っかける。




「ですから……そうですね、罰としてユウカは死刑とか」

「死刑!? いや、重すぎだろ!? おまえユウカは親友じゃないのか!?」

「親友だからこそ厳しく当たるんです。これまでサトルさんを騙していた罪……万死に値します……!!」

「それだとリオにも当てはまるような…………じゃなくて!! とにかく死ぬとかは無しだろ!」

「じゃあそうですね、騙していたのにのうのうとこれからも一緒に旅とかあり得ませんし、このパーティーから追放しましょう、追放」

「……いや、それも無いだろ」

「もうだったらどうすればいいんですか? サトルさんの問題なんですよ。ほら、私が手伝いますから、ユウカをどうするべきか考えてください」

「ユウカを…………俺は、どうしたいんだろうな……」


 考え込むサトルさん。

 トラウマから来る拒絶反応が出ていたとしたら、そうやって悩むことすら無かったでしょう。


 最初、魅了スキルにかかっていないことに気付かれたときは正直終わったと覚悟していましたが、どうやら状況は思っていたより悪くないようです。

 それどころかユウカとサトルさんの間に立ちはだかる問題を解決するいい機会ですらあります。


 学術都市にいる間は宝玉を手に入れることも考えずに済みますし、時間が十分にあることも追い風で、この機会に二人の関係を急接近させようと――――。




「ん、何だか騒がしいな」

「え…………あ、確かにそうですね」




 サトルさんの呟きに思考を中断すると、食堂が不自然に賑わっていることに気付きました。

 昼食時間に入ったばかりならばお腹の減った学生の歓声という可能性も考えられますが、もう十分に時間が経っています。


「え……?」


 だとしたら一体何が……と、騒ぎの中心にいる人物を見て私は気が遠くなりました。




「わあ、本物だ!!」

「講演に来てくれるのは聞いてたけど……」

「近代史に残る偉人、先の大戦を終結に導いた立役者――」


 生徒に囲まれるその人物は。


「伝説の傭兵ガランさんですよね!!」

「その通りだが…………この時間に来たのはマズかったか」


 魔神復活派コンビの片割れ、伝説の傭兵ガランその人でした。



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