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119話 支配派


 波乱と策謀の結婚式から一夜が明けた。


 独裁都市の宝玉を手に入れたので次の町に向かうべきでもあるのだが、都市の内情に関わりすぎたのと新たに判明した事実を整理するため俺たちはまだ留まっていた。

 神殿の最上階、昨日まで軟禁されていた部屋には俺とユウカとリオ、ホミにナキナの五人がいる。




 新たな収穫というと一番は近衛兵長ナキナから聞き出した話だろう。


 やつは俺の魅了スキルによってとりことなっている。嘘を吐かず全てを話せ、という命令で今回の事態の裏側に潜むもの、ナキナが王国の工作員であったことも含めて全てが明らかとなった。

 今回逐一話を聞くため手を出せないように命令して同席させている。


「王国……ですか!?」

「ホミ、何か知っているのか?」

「先の大戦の覇者で、ここらでは一番の領土と軍事力を持つ大国です。最近また領土拡大のため怪しい動きをしているとは聞いていましたが……」



 ホミの言葉を引き継ぐようにナキナが話す。



「我が主、王の目的は全てを支配することだ。私はそのためにこの独裁都市の弱体化を狙って潜入した。結果は上手く行き過ぎたと言っていいだろう。これもあの愚かにも自身が王となろうとしたオルトのおかげだ!」


 先に話は聞いていた。オルトが自分が王になるため、ホミを執政者失格の烙印を押させるためにしたことの数々を。その過程で独裁都市の力が弱まったことを。

 ナキナの言葉に同意できるところがあるのも確かだった。


「ああ、そうだな。女の子一人犠牲にしておいて何が王だ」


 オルトがホミにやっていたことは許せるわけがない。


「サトルさん……」

「むっ……そんなことより、このままじゃ独裁都市が危ないのよね?」


 ホミが頬を赤く染め、ユウカは少々苛立ちと共に話題を変える。




「神殿の黄金化計画のために集めていたお金は、実のところオルトさんが王になった後に軍事拡大をするために残していたと。しかし、その隠し場所をナキナにも明かしてしまったため用済みとなり殺されたんでしたね」

「金は既に他に潜入していた部下の手によって運び出されている。私に命令しようとも取り返せないだろう。ありがたいことにな」


 リオの確認にナキナは腹正しいことを言ってくる。

 とりこになり俺への好意こそあるのだろうが、リオのようにコントロール出来ることは証明されているし、命令に従うと言っても心までは変えられないので王国を崇拝する気持ちは健在だ。




「オルトとナキナがいなくなった以上、これまでの愚策を撤回、新たに改革していくことで独裁都市の再建を果たすつもりではありますが……先立つものがないのは不安ですね」

「それでしたら当てが無いわけではありません」

「……?」


 ホミの不安に答えたのはリオだ。


「今回の事態を昨夜の内に早速オンカラ商会に相談したところ、商会が独裁都市に融資をしてもいいという解答をもらえました」

「本当ですか!?」

「ええ。元々独裁都市の人口は多く、大きな市場となっています。高すぎる税により一度は支部を引き上げましたが、それも後ろ髪引かれる思いだったそうです。

 都市運営が健全化するならば、新たに支部を再開してもいいですし、そのための融資も惜しまないだそうです。ただ……」

「この苦難のときに助かります! ええ、交換条件は分かっています。官が発注するものは優先的にオンカラ商会に回すようにします」

「分かりました。では返事をオンカラ商会にしておきます」


 リオはいつだって何もかも見透かしたように動いているがここまで用意周到だとは。久しぶりに会う俺も驚きだ。


「ありがとうございます、リオ!」

「いえいえ、ホミのためならばこれくらい」


 例を言い合う二人だが、どちらも名前が呼び捨てだ。信頼感のようなものも見えるが、二人ともいつの間に仲良くなったのだろうか?




「次は王国についても話しておきたいんだが」

「そうね。この世界の統一……そのために各地で動いていて……」

「他にどのような動きがあるか知らないんですか?」


 リオがナキナに問う。ナキナには俺以外の質問にも嘘偽り無く答えるように命令してある。


「知らないな。私は一工作員でしかない。情報漏洩を避けるため、他の者の動きを教えられているわけないだろう」

「……なんでこの人こんなに偉そうなんですか?」

「まあまあ、抑えろ。とりあえず分かることが一つ。こいつら、王国は渡世とせ宝玉ほうぎょくに関心は無いということだ」


 軟禁していたこの部屋に隣接する祈祷室の女神像に付けられていた渡世とせ宝玉ほうぎょく。もしナキナが求めているならば、いくらでも取る機会はあったはずだ。


「宝玉の奪い合いこそ無いですが、各地に手の者を向かわせているとなると、今回みたいにまた対峙することがあるでしょうね」

「帰還派、駐留派、復活派に続くとすると……支配派でいいか。第四の勢力だな」


 前者三つはクラスメイトだけでなく魔族も含めて実のところこの世界の外から来た者たちである。対して支配派はこの世界に元からいた者で、渡世とせ宝玉ほうぎょくも求めていないと対照的だ。




「ナキナさん。王国がガランさんに昔やった表舞台から消し去ったって話が気になるんですが、詳しくは知らないんですか?」

「断片的な情報しか聞いていない。オルトならもしかして詳細を知っていたかもしれないが闇の中だ」


 ユウカの質問に対するナキナの答え。

 同じ竜闘士として戦ったことのある身だ、気になったのだろう。俺も別れ際の言葉は印象に残っている。


『それに……個人的にこんな世界など滅ぶべきだと考えている』


 あの言葉は、その出来事が原因なのだろうか?




「ところで話を聞く限りこの人の罪はかなり重いと思うんですが、罰の方はどうするんですか?」

「それについてはまだ考慮中ですが……」

 リオがナキナについてホミに聞く。被害を受けた独裁都市の法に則って罰されるべきなのだろうが……。


「なあホミ、こいつの処遇について俺に任せてもらうってことは可能か?」



「……ナキナがしてきたことはまだ表に出していません。全部包み隠さず明かせば、王国はそんなやつ知らない、言い掛かりだと因縁を付けてきて争いになるでしょうから、どうにも慎重に協議しないといけないので。

 正直未来について考えたいことが多すぎるので、過去を引きずっている場合じゃないと頭を悩ませています。

 そういうところもあって今なら私の一存で動けますし、サトルさんが対応してくれるならありがたいですが……一体どうするつもりなんですか?」



「ちょっと考えがあってな」

 俺はボカす。




「まあサトルさんなら悪いようにはしないとは思いますが……あ、そうです。では交換条件を呑んでくれたらってことでいいですか?」

「俺に出来ることならいいぞ」

「大丈夫です。サトルさんは了承するだけですから」


 交換条件、了承するだけ。ホミが俺に求めることは何だろうかと……まあホミのことだから悪いようにはしないだろうと――。








「えっとサトルさんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?」


「……は?」



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