116話 結婚式11 竜闘士 VS 聖騎士 2
遅くなりました。早速ですが次の日曜の投稿も夜になると思います。ご了承ください。
竜闘士対聖騎士の現状はユウカが決め手を欠いている。
ナキナが俺とホミを狙って攻撃するという邪道な策を使っているからだ。
そのせいで防御に回らないといけないユウカは接近出来ず、遠距離攻撃の撃ち合いはやつの防御能力の高さからどうしてもジリ貧になってしまう。竜闘士は近距離攻撃の方が火力が高いのだ。
その足りない火力を補うためにユウカが提案したのが、魅了スキルをかける隙を作るというもの。
「本気か?」
「うん。私的には一対一のつもりだったけど、先にサトル君を巻き込んだのはあっちの方だから。……といってもサトル君が反対するなら他の方法を考えるけど」
「……ちょっと考えさせてくれ」
成功してナキナを虜にすれば、武装解除、降伏を命令してたちまち勝利が確定するだろう。
しかもそれだけでなく、勝負前に言っていた気になる情報についても「嘘を吐かず俺の質問に答えろ」と命令して聞き出すことが出来る。
一石二鳥の策。
ただしそれが成功するかどうかと言われると微妙だ。
魅了スキルの条件、効果対象である『魅力的な異性』にナキナが当てはまるかというとギリギリだが大丈夫なはずだ。やつが俺たちを脅かしていた敵だとか、何人も殺してきた大罪人だということからは必死に認識の外に追いやろうと先ほどから努めている。
問題なのはやつが魅了スキルを詳細まで知っているため警戒していること。先ほどユウカが助けに来る直前に発動したときは、光を見てから効果外に出るという身体能力の高さも見せられた。
ユウカが隙を作ったとしても、そんな相手に魅了スキルを当てられるだろうか?
それだったら他の策……例えばこっちもやつの弱点、結界を張っているメガネのクラスメイトを攻撃するとかはどうだろうか。結界を解除させればユウカが俺とホミを抱えて飛んで逃げればいい。そもそもこちらに積極的に戦わないといけない事情はないのだから。
だが……ナキナは気にせず俺たちに攻撃を仕掛けてきそうでもある。俺とホミと違って、あちらのデブとメガネのクラスメイトは戦闘能力があるという点も違うしな。ユウカの攻撃くらいなら耐えられるだろうと考えるとますますその可能性は高くなる。
そしたら攻撃の隙を突かれてさらにユウカが不利になるだろう。却下だな。
「……」
他にも色々考えてみるがいい方法が思いつかない。
これまで宝玉を手に入れる方法などの行動方針は基本的に俺が決めてきた。
だがユウカは竜闘士の力と同時に戦闘センスなども授かっている。そうでなければ普通の女子高生がここまで戦えるわけない。
だとしたら戦場において従うべきは俺の方で、ユウカの提案に乗るべきなのだろう。
別にそのことに異論は無い。気になっているのは……。
『サトル君が私を信じてくれるなら……あのナキナさんを倒す方法があるの』
俺がユウカを信じられるなら……信じることが出来るのだろうか?
自分のことなのにまるで他人事であるかのように想像が全く付かない。
だが、ナキナの攻撃は激しさを増す一方でおちおちと考えている余裕は無さそうだ。対案も出せないのに否定するのは良くない。
「分かった、ユウカ。とりあえずその提案の中身を聞かせてくれ……」
「うん、えっと……」
そのためまずは話だけでも聞こうとしたところで。
「のんきにおしゃべりとは……その余裕無くしてやろう」
ナキナは剣を腰に構えて体を大きく捻った。大技を放つつもりであることが俺でも分かる。
「あれは…………でもチャンスかも! サトル君、よろしくね!」
「よろしくって……いや、まだ俺了承してないし、何をするかも聞いてないんだが!?」
「大丈夫、大丈夫! サトル君なら察せるって信じてるから!」
そんな無責任なことを言うとユウカは正面のナキナを見据えて相手の動きを窺っている。その集中を崩すわけにもいかず、どうやら抗議の機会は失われたようだ。
「ったくマジかよ……俺が合わせられなかったらどうするんだよ。何考えてるんだ?」
「何も考えてないんだと思いますよ」
俺と同じくユウカに守られているホミが口を開く。
ユウカとホミは犬猿の仲だ。そのため悪態を吐いたのかと思いきや、ホミの顔は真剣だった。
「ホミ……どういうことだ?」
「分かるんです。ユウカさんはサトルさんが合わせられなかったときのことを考えていません。何故ならサトルさんなら絶対に合わせられると信じているから」
「本当に無責任なんだな……」
「ですが信じるということはそういう面も含みます。誰も信じず一人ですることは良く言えば全ての責任を自分で負うということでもあります。信じて誰かに託すということは悪く言えば誰かに押しつけるということでもありますから」
「……そうだな」
ホミの言葉がストンと俺の胸の内に入ってくる。
自己責任。思えばその言葉が俺は好きなのだろう。
俺のトラウマ。からかわれて本気になって告白して玉砕して、心を守るために自己否定から恋愛アンチとなった。
別の選択肢もあったはずだ。あの子のことを心の中で悪者に仕立て上げて『あいつが思わせぶりだったのが悪い、結局悪意を持って騙してたんじゃないか、くそっ死ね』と悪態を吐くことで心の均衡を保つことだって出来たはずだ。
なのにそうしなかったのは……もうそういう気質なのだろう。他人ではなく自分に重荷を背負わせると。
「俺は誰も信じない。そうやって今までも……そしてこれからも生きていくんだ。だってその方が誰にも迷惑をかけないだろ」
「……そうですね。誰にも迷惑はかけないかもしれません。でも何かを成せるとも思えませんね」
「え?」
「私の母は立派な執政者でした。この都市を常に良くするように考えていて……しかし何もかもを自分でしようとはしていませんでした。今思うと自分一人で出来ることなんて、たかがしれていると分かっていたからでしょう。
だから人を信頼して色々と託す。そうやって大きなこと、この独裁都市の運営をやっていたんだと思います」
「そ、そうかもしれないが……別に俺は偉くなるつもりなんてないし……」
「サトルさんの意志がそうでも、現実は向こうから困難がやってくることもある場所です。今だってユウカさんが一人でナキナに勝つことが出来るんだったら、サトルさんを頼りにしたりはしなかったでしょう」
「で、でも……俺がユウカの期待に応えられるか分からないんだよ! そしたら迷惑がかかるだろ!」
「いいじゃないですか、迷惑かけたって」
「は?」
「そもそもユウカさんに信じられて勝手に頼りにされて、サトルさんは既に迷惑がかかっているじゃないですか。だったらサトルさんだってユウカさんに迷惑かければいいでしょう」
「そんなことしたら……」
「二人はそれくらいで壊れる関係だって言うんですか?
迷惑をかけるユウカさんのことサトルさんは嫌じゃないんですか?
ユウカさんが迷惑をかけられたくらいでサトルさんのことを嫌いになると思うんですか?
サトルさんは……本当に一人で生きていくつもりなんですか?
少なくとも私は本当の自分を誰にも明かせず、ワガママな姫様としてひとりぼっちで生きてきたこの二年間はとても寂しくて辛かったですよ」
「……」
ホミの言葉に俺は惑い。
「食らえ!! 『聖なる全振り』!!」
そのときナキナは限界まで体をひねり蓄えた体のバネを一気に解放。
剣がこちらまで聞こえるほどの風切り音を発しながら振られ、その軌跡に形成された先ほどまでとは比べものにならないほどの大きさの光が俺たちを押し潰さんと迫った。




