115話 結婚式10 竜闘士 VS 聖騎士
7月5日追記 今日の更新は夜になる予定です。
竜闘士対聖騎士。
初動は竜闘士からだった。
「『竜の咆哮』!!」
ユウカは指向性の衝撃波をナキナに向けて放つ。
「っ……!」
ナキナは左手に装備した盾で防御をする。少し押されて後退したがダメージは無さそうだ。
勝負前に言っていたナキナの聖騎士という職。名前からして騎士の上位職だとすると、防御は得意なのだろう。武闘大会で竜闘士ガランの猛攻を粘り強く耐えたソウタのことを思い出す。
「防御は固そうね……でも、一気に勝負を決めさせてもらうよ! 『竜の息吹』!!」
追尾するエネルギーの球体をばらまいて、自身は特攻するユウカ。
「くっ……」
ナキナはその一つ一つの対処に追われてユウカの接近を止めることが出来ない。
「明確な力量差があるな……」
俺の見立てではあるがナキナはかなり強い。魔導士のリオや影使いのカイ同様に最強級の力はあるだろう。
しかし、ユウカはそのさらに上を行く伝説級の力の持ち主だ。
武闘大会では同格のガランさんに敗北こそしたものの、その敗戦によるショックは些かも感じられない。俺を守るという意志の元、気力も十分のようだ。
いわば完全体であるユウカがナキナに遅れを取るとは思えない。赤子の手を捻るように勝ちを拾うだろう……なのに。
「どうしてナキナはこの勝負を受けたんだ……?」
力量差は本人こそが一番に自覚しているはずだ。連携を取るような性格ではないだろうが、それでも複数人ではなく一人で挑むのは無謀としか言いようがない。
ならばこの状況を覆す手が何かあるというのか……?
疑問に思う間も戦況は推移する。
ナキナがブレスを裁ききったそのとき、ユウカは大分接近していた。ユウカは拳をめいいっぱい引いて『竜の拳』を放つ構えだ。
その拳が飛んでくるまでにナキナには一手ほど打つ時間はあるが、何をしようにも叩き伏せてユウカは拳を届かせるだろう。
それでも何もしないわけにもいかなく、ナキナが起こした行動は。
「『聖なる一振り』!!」
スキルの使用と同時に剣を振ることだった。
まだユウカが接近していないタイミングのため空振りするが、それでいいようだ。剣の軌跡をなぞるように半円状の光が形成されて飛ぶ。いわゆるソニックブームというものだろう。
遠距離攻撃でユウカの接近を阻止する狙い……だと最初は思ったが、それにしては狙いがおかしい。ユウカの脇を通るような軌道で光は飛んでいるため、当然ユウカは無視して接近して――。
「危ないっ……!」
「きゃっ!」
咄嗟に俺はホミを抱えて横っ飛びに体を投げ出した。
そうだ、デタラメな方向に放たれたと思われたナキナの攻撃。それが実はユウカではなく、俺たちに狙いをつけた攻撃だったのだ。
俺たちが先ほどまでいた空間を光は通り過ぎる。
「なっ……!」
「ちっ、外したか」
ユウカもその状況に気付いたようだ。驚いて振り向くユウカと舌打ちするナキナ。
「まさかあなたの狙いは……!」
「私の狙いは最初から姫様の命だ。少年の方も……別に可能ならば生け捕りするくらいにしか考えていない」
「ひ、卑怯ですよ!」
「弱者が強者に勝つためには弱点を突くしかない。『聖なる一振り』!!」
ナキナは目の前にいる隙だらけのユウカではなく、またも俺たち目掛けて光を放つ。そちらの方がさらに有利になると判断してだろうか。
「っ……『竜の翼』!!」
剣を振り終えて無防備なナキナだが、ユウカは攻撃せずに翼を生やしてトップスピードで後退する。そして今まさに俺たちに襲いかかろうとしていた光の前に身を投げ出して庇う。
「いたっ……!」
「ユウカっ!!」
「大丈夫……だから!」
衝撃に顔がゆがむユウカに俺が反射的に声をかけると、心配をかけさせまいとニッと口の片端をあげた。
「まだまだ行くぞ。『聖なる一振り』! 『聖なる一振り』!! 『聖なる一振り』!!!」
剣を振り光を連射するナキナ。その狙いは全て俺とホミに向けてのものだ。
「『竜の鱗』!!」
俺たちを守るため回避を封じられたユウカは防御スキルを発動する。しかし、このスキルは使用した後少し動けないため、反撃の行動に繋げられない。このままではジリ貧だ。
「くそっ……ナキナのやつ、最初からこれが狙いだったのか!」
格上であるユウカが抱えた一つの弱点が俺たちを守らないといけないということである。
そこを存分に突いてきている。最初ユウカの接近を許させたのも、俺たちから離すためだったのだろう。
聖騎士という職。そして使用するスキルの『聖なる一振り』
ナキナの力は聖に属するもののようだ。
なのに戦い方は弱者を狙い続けるという外道もいいところ。
だが、その手段が効果的であることは否定できない。このままではユウカはこの場を離れられないからだ。
遠距離攻撃で応戦するのは、最初の攻撃を防がれたことからして互角だろう。
ならば俺たちがここから離れて安全な場所に向かうべきかというと、それも不可能だ。
この神殿前広場に安全地帯は未だ存在しない。そこかしこで近衛兵とネビュラの構成員が戦っている最中だからだ。戦う力を持たない俺とホミが巻き込まれては危ないことに変わりない。
こうしてユウカに守られているこの場所が一番安全だと……分かっているからこそ歯痒い。
俺の想定が甘かったせいでパレードのときに近衛兵に捕らわれた。そのためユウカはわざわざ俺を助けに来ないといけなくなった。こうして助けに来てもらったその場でもまたユウカの枷になってしまっている。
「俺は……どれだけユウカに負担をかけさせてるんだよ……!」
悔しくて、情けなくて、泣きたくなってくる。
「そんなことないよ」
ユウカが防御を続けながらも背中越しに俺を慰める言葉を告げた。
「私はサトル君のことを負担になんて思ったことはないから」
「でも、こうしてわざわざ助けに来させてしまって……大変だったんじゃないのか!?」
「全然。それどころか少し嬉しかったくらいだったよ」
「……え?」
「だってあの手紙のSOSって私が魅了スキルの外で助けに来ることを想定して……私のことを信じての行動でしょ。やっと私のことを頼ってくれたって、嬉しかったんだよ」
言葉の間もナキナの攻撃が連射されている。守られている俺はユウカの表情を見ることは出来ない。
それでも声音から……ユウカが本当に喜んでいることは分かった。
分からない。どうしてそんなことで嬉しいのか。
手紙だって駄目で元々の精神で出したものだ。ユウカを信じるなんて気持ちは………………。
いや、逆なのか?
ユウカを信じる気持ちが僅かにも無ければ、手紙を出そうという手段を思いつきもしなかったはずだ。
ユウカが俺を助ける行動に何の得も、理も、意味も無かった。
それでも助けてくれるかもしれないと思って行動に移した。
これが……信じるということなのだろうか。
「それで一つ提案があるんだけど」
「……何だ?」
渦巻く感情の中、ユウカの真面目な声に俺は思考を切り替える。
「サトル君が私を信じてくれるなら……あのナキナさんを倒す方法があるの」
「どういうことだ? 俺が応援してくれるならって精神的な意味か?」
「ううん、違うって。助けに入る直前のことは見ていたよ。サトル君あの人相手に魅了スキルをかけようとしていたでしょ。避けられてたけど」
「ああ、そうだが……って、まさか」
言わんとすることを察知して、ユウカもまさにその通りのことを言う。
「私が魅了スキルをかける隙を作る。そして虜にしてしまえば、その時点でこっちの勝ちでしょ?」




