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114話 結婚式9 対峙

遅くなり申し訳ありません。


 現れた事態の元凶とクラスメイト二人。

 近衛兵長は俺に問いかける。


「竜闘士……手紙によってこの都市を出て行った姿は部下に確認させていた。なのにどうしてこの場にいる? 貴様が何かしたのか?」

「俺がしたことはちょっとした仕掛けだけ。後は全部ユウカの功績だ」


 手紙に関係なさそうな命令を追加することで、自分の陥った現状を知らせ助けに来れる状況を作ったが、ユウカの助けたいという気持ちが無ければ全部水泡に帰していた。




「も、もう……そんな照れるよ~」

 らしくない俺の褒め言葉にこそばゆそうにしているユウカに。


「ユウカ……あなた本当に変わったわね」


 メガネをかけたクラスメイト、ネネカは歯痒い面持ちだ。


「変わったってどういうこと?」

「それも分からないようじゃ重症よ! どうしてそんな冴えない男に惚れている現状がおかしいと思わないのよ!」

「……」

「魅了スキルが全部あなたを狂わせたんだわ! 私が駐留派に入ったのは一番にカイ様のため、そして二番目はあなたを解放するというその意志に賛同したからよ!」




 おそらく異世界に来る以前のユウカと交流があったのだろう。ネネカの叫びに、俺は心の中で「さもありなん」と同意する。

 俺が冴えない男だというディスリは俺自身が認めるし、そんなやつに惚れさせられてる状況を見れば助けようという気持ちは分かるところだ。

 俺だって魅了スキルが解除出来るなら今すぐにでも解除を………………うん、まあ。




「そうね、私が魅了スキルにかかっているってことを考えればネネカの気持ちも納得出来る」


 心の中で言い淀んでいると、ユウカは正面からネネカを見据えていた。


「でもね。それを差し引いて考えても……他人の想いを否定する権利なんて誰にもあるわけが無いのよ!」

「だからそう思っていること事態が魅了スキルの影響だわ!!」


 ユウカの主張は納得できる。しかし、俺の魅了スキルはその想いすら変えてしまうため、ネネカの主張も否定できない。




「……ごめんね、ネネカ。私が悪いのに心配させて。本当は事情を明かすべきなんだろうけど、今のあなたとは対峙する立場だから……」


 ユウカが何かぼそっと呟くが聞き取れない。苦渋の表情を見るに自嘲の言葉だろうか。




「そんなことよりナキナさん! オルト司祭はどこに行ったか聞いていないか! あの人が警備の誘導をしてわざと穴を作る予定だったはずだ! なのにその仕事を放棄したせいで、部下が想定以上に損耗している!」


 太った少年がナキナに食ってかかる。


 その言葉におれも結婚式始まってからずっとオルトの姿を見ていないことに気付く。

 同じ陣営なのにこのタイミングで聞く少年からして、俺たちの前には三人一緒に現れたがちょうど合流直後で話す時間が無かったというところだろうか。


 少年の激しい剣幕も何のその、近衛兵長は涼しい顔して衝撃の言葉を吐いた。




「オルトか……やつは死んだぞ」

「……なっ!?」

「正確には私が殺した、だがな」

「ど、どうして……」

「さあな。事情を教えることは契約に含まれていないはずだ」




「……」

 独裁都市とネビュラが一枚岩ではないとは思っていた。しかし、ナキナがオルトを殺したとなると独裁都市内も一枚岩では無かったようだ。

 ナキナはこれまでに何人も殺しを行ってきた。それが今さら一人増えたところで驚くことはない。

 だが、どうしてオルトを殺したんだ? 付き従っていたのはフリなのか? 裏切るにしてもどうしてこのタイミングで……?


 考えても分からないことばかり。そしてナキナも説明するつもりは無さそうだ。




「竜闘士の乱入は予想外だったが、やるべきことは変わりない。姫様、あなたの命を貰い受けます」

「ひっ……」

 ナキナの殺気にホミは短く悲鳴をあげて、俺の後ろに隠れる。


「いや、俺を盾にされても庇いきれないんだが……」

 おそらく俺ごと貫かれるのがオチだろう。


「そ、そう言われましても……!」

 震えるホミが後ろから抱きついてくる。それだけ恐怖を覚えたのだろうが、動きにくい上に……。


「ねえサトル君、よく分からないけど敵の狙いって姫様なんでしょ。今からでも差し出して逃げようよ」

 ユウカがじとーっ、とした目で見てきて何とも罪悪感を刺激される。その言葉は冗談のはずだ…………本気じゃないよな?

 戦場でいちゃついてるとも取れる行動に怒っているのが半分、もう半分はヤキモチだろう。




「何を言っている。私の狙いはそちらの少年もだ。魅了スキル、その規格外の力に我が主の覇道が邪魔される可能性を摘んでおくためにもな」


 ナキナが俺にも殺意を向ける。監禁していた間は構うのも面倒だから殺すという感じだったはずだが、今は明確に俺相手に殺意を向けている。

 我が主……殺されたオルトではないはず。一体誰なのか?

 ナキナに何らかの背景があることは間違いない。色々と聞き出してみたいが……。




「どういうことですか、サトルを殺すって!?」

 その発言に敵対する陣営であるはずの太った少年の方が動揺していた。


「何言ってるの、デブ。どうせあいつは魅了スキルの力でユウカに命令していかがわしい行為をしたに違いないわ。汚らわしい……そんなハレンチなやつ、死刑よ、死刑」


 メガネをくいっと上げ、俺を見下すネネカ。

 全くの濡れ衣なのだが、思春期の少年が異性を好き勝手出来るとあって何もしていないと主張しても信じられないだろうことは理解している。


 しかしあのデブが動揺している理由は……そうか、やつはおそらくカイと同じ目論見なのだろう。俺の魅了スキルを手に入れて女を好き勝手支配したいと。

 だからナキナに俺を殺されては困ると。


「……いいだろう。可能ならばあの少年は生け捕りにする。ネビュラに借りを作っておけば今後も便利だろうしな。交渉は後ほどだ」

 ナキナはそれを汲み取ったのかは分からないが、方針を変更した。




「さっきから勝手なことを。サトル君を殺すだったり、生け捕りにするだったり……そんなことさせるわけないでしょ!」

 ユウカが激高する。俺を守るように前に立って絶対に退かない覚悟のようだ。


「二人とも下がれ。少女の方は結界の維持に努めろ。やつらに逃げられたくない。少年はその護衛だ」

 ナキナもデブとネネカの前に立つ。


 どうやら一騎打ちの様相のようだ。




 ユウカが拳を構える。ナキナが剣を構える。

 緊張感が高まる中、ユウカが口を開いた。


「構えを見ただけで分かります。厳しい鍛錬を積んできたことと相当な強さを」

「竜闘士に言われると皮肉だとしか思えないな」

「あなたの力は正道の物です。なのにどうしてこんなに人を殺して……邪道なことをしているんですか!?」

「知りたければ勝ってこの身を拷問にでもかけろ。吐くつもりは無いがな」


 ナキナが冷たく言い放つ。会話はここまでのようだ。




「分かりました。その行動には納得行きませんが、力に敬意を表して名乗りを。竜闘士のユウカ、参ります!!」

「……いいだろう。聖騎士のナキナ、参る!!」




 こうして竜闘士と聖騎士。この独裁都市の運命を賭けた一戦が始まった。



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