113話 結婚式8 水と油
一昨日は急に休み申し訳ありません。今日から再開します。
ユウカに抱えられる形で空を飛んでいる俺とホミ。
「サトルさん。この方が……察するにユウカさんですか?」
ユウカと初対面のホミが俺に聞く。
「サトル君。この人が独裁都市に君臨するホミ姫様……でいいのよね?」
ユウカもホミのことを俺に問う。
「ああ、ホミ。前に話したとおり竜闘士のユウカだ。そしてユウカの言うとおりホミで合っている」
俺はそれぞれに肯定の返事をするが……二人ともその返答を聞いてるようで聞いていなかった。
「ユウカさんと随分と親しげなんですね」
「……ホミ? どうしてサトル君は姫様のこと呼び捨てにしているの?」
それぞれ相手の少女と俺との関係が気になった様子。
やべっ、と思ったときにはすでに遅く、二人の少女はそれぞれ相手を睨んでバチバチと火花を散らしている。
「初めまして、ユウカさん。私はホミといいます。この独裁都市の姫で、サトルさんの妻です」
「これはご丁寧に。私はユウカです。サトル君とはここまで支え、支えられて一蓮托生で旅してきたパートナーです」
「旅のパートナー……ですか。まあ私は人生のパートナーですけどね」
「残念ですが、ネビュラの構成員が戦闘中にこぼした話から聞きました。サトル君と姫様は策略のため強制的に結婚式を開かされたと。サトル君の意志を無視しているのに人生のパートナーとは…………ふふっ」
「何がおかしいのですか? 強制されたからって二人の間に愛がないとは限らないですよ」
「それを言うなら私の方が……」
ヒートアップしていく二人にどうしていいか分からず……そのタイミングで火の玉が傍を通り過ぎた。
「うおっ……!?」
地上からどうにか俺たちを打ち落とそうと放たれた魔法のようだ。
「ああもう二人とも一旦停戦しろ!! ここはまだ戦場だ!!」
「……そうね」
「分かりました」
二人ともしぶしぶという形だが落ち着いた。
俺は戦場と化した神殿前の広場を見下ろして戦況を冷静に判断する。
……変わらず近衛兵側が劣勢だな。
今までは歯噛みしながら見守ることしか出来なかったが、こちらには一人で戦況を変えることが出来る竜闘士がいる。
「ユウカ、俺たちを抱えたまま眼下の敵を倒すことは出来るか」
「そうね、あまり激しい戦闘は出来ないけど遠距離攻撃を仕掛けることくらいなら。……でも敵ってどこまでを指すの?」
ユウカの認識からすると、俺は独裁都市の姫に連れ去られて結婚するという事態になっているわけだ。つまりネビュラの構成員だけでなく、近衛兵も結婚を強制させる敵かもしれないと思ってもしょうがないところである。
「あー話すと長くなるんだが……」
「説明はいいって、一刻を争うんでしょ? 私はサトル君の言葉なら信じられるから」
「……敵はネビュラの構成員だけだ。独裁都市の近衛兵は俺たちの味方だ」
「分かった」
ユウカは確認すると戦場をつぶさに見下ろしながらスキルを発動。
「『竜の息吹』!!」
エネルギーの球体が複数個発生して、構成員目掛けて降りていく。
「っ、なんだ、あれ?」
「俺たちを追ってきて……ぐはっ!?」
「に、逃げろ!!」
武闘大会の際、同じく竜闘士のガランを相手にしていたときは軽く打ち払われていた攻撃だが、どうやらやつらには一つ一つが致命的な威力であるようだ。逃げ惑う構成員たちにブレスは追尾していく。結局避けきれず当たる者や、どうにか振り切った者もその隙を近衛兵に咎められたりしている。
この一手で近衛兵が優勢にまでなった。
「流石だな」
「す、すごいですね……話には聞いたことがありますが、竜闘士とはここまでの力を持っているんですか」
感心する俺と驚いているホミ。
ただし敵も黙ってやられるのを見ていただけでは無いようだ。
「逃さないっ! 『四方結界』!!」
下方、戦場となっている神殿前広場にいる誰かが結界魔法が発動。広場を囲むように四方から上空まで貫く結界が形成された。
「結界……これは俺たちの逃走防止か?」
「そうみたい。にしてもこの結界は……うん、やっぱりネネカだね」
「誰だ、そいつ?」
「もうサトル君はもうちょっとクラスメイトの名前を覚えようよ。ネネカ、メガネをかけた少女で、ステータスを見せてもらったこともあるけど職は『結界士』だったね。
駐留派に移ったとは聞いてたけど、結界魔法だけで見るとリオにも劣らないレベルみたい」
結界魔法……そういえば武闘大会の時でもリオが人払いのために使っていたりしたな。魔導士であるリオは様々な魔法を使えるが、その中の一分野だけでもリオに並ぶというのなら強い方に部類するのだろう。
「解除方法は分かるか?」
「術者を倒すか結界解除用の魔法を使うことだけど、リオも外で忙しいだろうし、こっちはこっちで何とかした方が良さそうね」
「そういやリオはどうしたんだ?」
「待ち構えていた駐留派と交戦中。エミとリリ相手に二対一になってると思うし、これ以上負担は増やしたくない」
「エミ……っていうとカイの彼女か」
どうやらクラスメイトが多数出張っているようだ。
逃げることが出来なくなったため、俺たちはスペースを見つけて地上に降りる。
すると近衛兵が寄ってきた。いきなり知らないやつに姫を空へと連れ去られたのだから警備担当として何事かと思うのも当然だ。
「この者は味方じゃ! 先ほどの攻撃みたじゃろう! 伝説の竜闘士一人いればここは大丈夫じゃから、みなは持ち場に戻れ!」
しかしホミが一声で疑いを晴らし、近衛兵たちは戦場や未だ避難の済んでいない観客の保護に戻る。
「……ふうん。嫌がらせに私のこと敵って言うのかと思ったけど」
「先ほど助けられた恩がありますから。それを仇で返すような真似はしません」
諍いでこじれた関係にも修復の兆しが……。
「にしても何、さっきの? じゃ、って。まるっきり子供口調じゃない」
「……そっちの方こそお子さま体形じゃないですか」
「ス、スレンダーって言いなさい!!」
「とにかくあの口調は演技です! あなたにとやかく言われたくありません!!」
「……うん、駄目だこれ」
どうしても水と油の関係のようだ。まあ二人とも魅了スキルによる俺への想いから、互いに敵対心を刺激されている側面を考えると俺にも少しは原因があるのかもしれない。
ここはあれだ、伝説のセリフ「私のために争わないで!」を切るべきなのだろうか。
と、俺も二人に引っ張られてくだらないことを考えたところで。
「ずいぶんと余裕だな」
「待ってください、ナキナさん! 話が違うじゃないですか!」
「来たのね、ユウカ……今あなたを解放するから」
近衛兵長ナキナと太った少年――おそらくクラスメイトか――とメガネをかけたネネカが俺たちの前に立ちはだかるのだった。




