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109話 結婚式4 襲撃


 結婚式が行われている神殿前広場に現れたネビュラの構成員たち。

 観客たちが外に向かって散り散りに逃げていく中、やつらはそれぞれの方向から一点、広場の中央にいる俺たちを目指してくる。




「姫様とサトル様の安全が第一だ!!」

「二人を逃がすことは出来そうか!?」

「駄目です、完全に囲まれています!!」


 警備の近衛兵たちは職務に忠実に姫様とその伴侶予定である俺を守ろうとする。


「っ……申し訳ありません、姫様。安全な場所に避難させたいのですが……」

「構わぬ! じゃが、やつらを絶対に近づけるでないぞ!」

「はっ、了解であります!」

 近衛兵は敬礼すると、俺とホミの身辺警護として二人は残り、それ以外は構成員たちの迎撃に向かう。




「……ということじゃが、サトル」

「仕方ないでしょうね。一点突破で逃げ出すには人が多すぎます」


 近くに近衛兵がいるため俺とホミの会話は外面を意識したものだ。


 襲撃を察知して逃げ出した観客たちだが、集まった数が多すぎるため今なお全員が逃げきれていない。戦力を集中させて一点突破して逃げようにも、人が多くて機動力を出せないし最悪市民を巻き込む可能性もある。そのため消極的な迎撃を続ける、防衛戦の選択しか出来ないようだ。

 オルトとナキナはこの効果も狙って多くの人を集めたのだろう。ネビュラの構成員の目的が俺たちだけのようで、観客を襲う動きがないのは不幸中の幸いだ。




「大丈夫……ですよね? 近衛兵だってたくさんいるんですし、練度も低くありませんし……」

 ホミが俺の服の袖を握りながら小声で聞いてくる。


「ああ、大丈夫だ」


 大丈夫じゃないな。


 ネビュラの構成員たちと近衛兵ではホミの言うとおり、一人一人の練度は近衛兵の方が上のようだ。

 しかし、相手の方が数が多く一対複数の戦いとなっていたり、また近距離ジョブを持った近衛兵には遠距離ジョブの構成員を当てられているなど相性の不利な戦いを強いられている。

 オルトとナキナによって警備の全容はあちらに流されているのだろう。そのせいで徹底的に痛いところを突かれているようだ。

 このままでは遠くない内に防衛線を突破されてここまで到達するやつらも出てくるはず。俺たちの傍に控えている近衛兵二人までが戦わないといけなくなったらもう最悪の状況になる。




 と、そのとき近衛兵たちの顔が歓喜に染まる出来事が起きた。


「おい、神殿の方から……!!」

「ナキナ様だ!」

「兵長が来た! これで百人力だ!!」


 オルト同様に今まで姿を消していたナキナが現れ、神殿の方から広場中央の俺たちに向かってやってきているのである。

 ナキナの表向きの役職は近衛兵長だ。つまり今まで近衛兵は長抜きで戦ってきていたことになる。

 ナキナの登場は戦意を向上させたし、単純にナキナは近衛兵の中でも一番強く、また戦略的にもちょうど襲撃してきた構成員を挟み撃ち出来る場所で一気に形勢逆転出来る。


 真実を知らない以上、そう思っても仕方ないところだ。




「もう隠す必要もない。この際だ、邪魔なやつらは消しておこう」


 駆けてきたナキナは構成員ではなく近衛兵に攻撃する。


「兵長、どうして敵を無視して……?」

「ぐっ……ナキナ様……何故……?」

「血迷ったか!!」


 味方だと思っていた人物の反抗。混乱する近衛兵たちだが、いち早く対応してナキナを敵とみなしたようだ。

 だが当然頼もしい援軍になるはずだった者が手強い敵になった影響は大きい。更なる窮地に陥る。




「………………」


 その様子を観察していた俺だが首をひねる。

 ナキナの動きが妙におかしい。

 やつは俺たちを殺したい立場である以上敵なのは分かっているが介入しすぎだ。


 俺とホミ亡き後、独裁都市のトップに居座るつもりなら消極的に戦って『姫様をどうにか守ろうとしたが力及ばず……くっ!』という立場を取るべきだ。

 なのに今のナキナは積極的に構成員の加勢をし過ぎている。これでは事が終わった後、こいつも反逆者だと吊されるに決まっている。


 ナキナが独裁都市に未練が無いとしか思えなくなってくるが……。




「おらっ、死ねぇっ!!」

「させん!!」


 ナキナのいる方向ばかり見ていると、その反対の方角から防衛線を突破した構成員がホミに斬りかかろうとして、しかしどうにか近衛兵が割り込み無力化した。


「大丈夫ですか、姫様!」

「うむ、大丈夫だが……」


 俺が声をかけるとホミは気丈に返すが、その腕は震えている。

 あと5mというところまで構成員に接近を許していた。全体的に包囲も狭まっている。このままでは……。




「………………」

 俺は空を見上げる。


 今日の朝は結婚式の日にふさわしい快晴の空だった。襲撃が始まった今も変わらず快晴だ。

 だから隈無く見渡すことが出来て……誰の姿も存在しないことが分かる。


 竜闘士は空を飛べる。ユウカが助けに来るととしたら、ごちゃごちゃとした地上の戦いに巻き込まれないために空中からやってくるだろう。


 ……ツケが回ってきたんだ。

 魅了スキルによる関係の構築しかしてないから、それを悪用されると手も足も出ない。

 

 今ごろユウカとリオは何をしているだろうか。

 真面目な二人のことだ。独裁都市から離れた地で、元の世界に戻るため渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めているだろう。必要なあと三つくらい簡単に……いや、この情報はホミから聞いたことだから二人には伝えられていないか。


「ははっ……何、現実逃避してるんだよ」


 状況は刻々と悪くなっている。こんなこと考えている余裕はないのに。

 ……まあいい。元々悪足掻き。本当にユウカが助けに来る奇跡が起きるだなんて思っていない。


 だったら俺に出来ることをするだけだ。






「ホミ、二人きりで話したいことがある」

「え……?」

「あの近衛兵二人をこの場から離すように命令してくれないか?」

「……はい、分かりました」


 俺は近衛兵に聞こえないように小声で伝える。

 ホミと結婚すれば将来的には俺も近衛兵に命令できる立場になるのだろうが、今はホミから命令させる方がてっとり早い。

 ホミは頷くと、ワガママな姫様として口を開く。




「そこの二人!」

「はっ、何でしょうか、姫様!」

「何でしょうかでは無いじゃろうが! お主等は余の近衛じゃろう! なのにあのような輩に接近を許して何という体たらくか!」

「そ、それは……」

「もう二度とあのようなことがないように、お主等も前線に出て行け!」

「し、しかしながら私たちも姫様の傍を離れては、もしもの時に……」

「そのときはサトルが余を守る。じゃから心配せずにさっさと行け!」


 二人の近衛兵が俺の方を見てくる。俺は安心させるように大きく頷いた。


「「承知しました!」」


 二人の近衛兵は敬礼をすると前線に向かう。




 こうして周囲には俺とホミの二人だけになった。ホミがいつもの口調に戻る。


「戦いのことには詳しくないのでよく分からないのですが……二人がこの場を離れて大丈夫だったんですか?」

「二人分戦力が補強されれば防衛線も強化されるはずだ。しばらくは敵の接近も許さないだろう」


 しばらく。つまり長い間は保たない。


「……そうですか。そうなったら……勝手言いましたけど、サトルさんが私を守ってもらえますか?」


 すがりついてくるホミも俺に戦闘力が無いことは分かっているはずだ。それでも俺が無責任に守ると言えば安心した表情を見せてくれるのだろう。


「…………」

「サトルさん……」


 だが、俺はそれに応えることが出来ず、話題を移すことで誤魔化す。


「さて。指示通り二人きりにしてもらって助かった」

「……はい。でも近衛兵が近くにいると出来ない話って何ですか?」

「それは……この状況から助かる方法についてだ」

「えっ!? 助かる方法ですか!?」


 ホミが目を見開いている。まあ絶体絶命の状況だと思っていたのに、そんなこと言われたら普通驚くだろう。




「そんなのあったなら早く実行しましょうよ!」

「はやる気持ちは分かるが話を聞いてくれ。今まで言えなかったこと、そして近衛兵をこの場から排除したことから分かるようにこの方法には難があってな。実行するかはよく考えてから判断してくれ」

「助かるならちょっとやそっとくらい問題じゃないと思いますけど……」


 ホミは口ではそう言いながらも、俺の雰囲気から察したようだ。

 俺も覚悟を決めてその問題点を伝える。




「この方法ではな……俺たち二人の内、一人しか助からない。いや正確に言うと一人の命を犠牲に、もう一人は助かる……そんな方法なんだ」


「……え?」




「了承したら俺はおまえの命を奪うことになる。それでもいいか?」





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