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101話 正解


 気分転換に始めたはずの話がかなり長くなり時刻もすっかり夜になった。しかし、これは今後のことを考えると必要な情報だ。

 俺はホミと話を続ける。




「女神様の狙い通りにこの世界は進みませんでしたが、それでも最悪のケースとしてこの状況は想定していたようです。そのため最後の砦である女神様の遣い……サトルさんたちはこの世界に召喚されたんです」

「保険ってことか」

「身も蓋もなく言うとその通りです。女神教が廃れ、渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めて良からぬ事を企む者が現れた場合に遣いは召喚されると。

 女神教が廃れた場合の想定ですので、遣いに対する十全なサポートは望めません。そのため固有スキル『継承』で、太古の昔に『災い』を防ぐため戦った人たちの力を遣いに継承したんです」

「俺たちクラスメイトがそれぞれ授かった力か。中でも俺の魅了スキルは女神様本人が持っていた力って事でいいんだよな?」

「その通りです。女神様は分かっていました、平時にはそれらの力は更なる争いを生むと。ですから自身の末裔である大巫女にではなく、緊急時の備えである遣いに引き継がせたのです」


 ホミの言うことは……権力を得て女神教が暴走していた時代に魅了スキルがあったら、さらに面倒なことになっていただろうということか。




「そうやって期待をかけてもらったところ悪いんだが、ご存じの通り俺たちクラスメイトも二分していてな。この世界で好き勝手することをもくろむ連中もいて恥ずかしいぜ」

「いえ……正直私はこの方法に疑問を持っていました。別の世界の者を呼び出すメリットは、この世界のしがらみを何も受けないことです。緊急時に強引に事を成すにはいい方法かもしれませんが……それは呼び出された者の心情を考えていない傲慢な方法です」

「……そうかもしれないな。俺も最初召喚されたときはふざけんなって思ったし」

「ですからそのように反発する者が出てもおかしくはないと思います。そしてサトルさんも……勝手に私たちの世界の事情に巻き込んで本当にすいません」

「いやいや、何ホミが謝ってるんだ。悪いのは女神様だろ。それに俺自身はこうして異世界に来たことで、元の世界にいただけじゃ掴めなかっただろう何かを得られそうだと……感謝してるくらいだしな」


 そうだ。今も元の世界に俺がいたとしたら、毎日誰とも話さず家と学校を行き来するだけの生活を送っていただろう。

 認めるのは癪だがこの異世界に来たことで……いやもっと細かく言うとユウカとリオと旅することで、俺も変わってきている。あんな手紙を出してしまうくらいにはな。




「むぅ……」

 ホミが頬を膨れさせている。


「いきなりどうした?」

「何か他の女のことを考えている気配がしました。察するにそのユウカさんとリオさんとかいう人のことですか?」

「………………そんなことより一つ不満を言うとすると、どうして俺が魅了スキルの使い手に選ばれたのかってとこだな。普通に戦う力が欲しかったぜ」

「あ、誤魔化しましたね!」

「いやいや、考えてみろよ。恋愛アンチの俺が魅了スキルとか一番似合わねーぜ」


 ホミが糾弾してくるが強引に話題を切り替える。




「もう、仕方ないですから誤魔化されてあげますけど…………魅了スキルについてですが、女神様は引き継ぐ者にちゃんと条件を設けていたという話を聞いたことがありますよ」

「条件?」

「はい。曰く……召喚された者の中で一番愛に飢えているもの、だそうです。その方が魅了スキルを活用できると考えたみたいですね」

「……は?」

「女神様は分かっていたんですよ。サトルさんが斜に構えて恋愛なんていらないと言いながらも、心の底では愛に飢えていると」

「……いや、待て待て待て。それじゃ、何だ。俺が駄々をこねている子供みたいな扱いじゃないか」

「実際そうじゃないですか? 話を聞いた限りでは、この世界に来たばかりのサトルさんは相当面倒そうでしたよ」

「ぐっ……」


 ホミからの一撃が深く刺さる。詳細に語りすぎたな。




「それに私個人としては……サトルさんが魅了スキルの持ち主で本当に良かったと思います。だってそのおかげでこんなに好きになれる人と出会えたんですから」


 ホミが俺の隣までやってきて腕を抱く。

 部屋の雰囲気が明確に変わった。


「それは前後関係がおかしいだろ。ホミが俺を好きになったのは魅了スキルにかかっているからだ。極論、俺以外が魅了スキルを持っていた場合その人を好きになったはずだろ」


 俺はやんわりと否定しながらホミに拘束されていた腕を引き抜く。


「いえ、そんなことありません。私はサトルさんが魅了スキルを持っていなかったとしても、サトルさんのことを好きになったはずです」


 ホミは再度抱きつく。


「いや。魅了スキルが無ければ俺たちがこんな関係になることはあり得なかった」


 離しそうにないのでしたいようにさせたまま、しかし俺は明確に拒絶する言葉を吐く。


「分かりました、それでいいです。とにかく私が伝えたいのは……私は魅了スキルの効果なんて抜きに、サトルさんのことが好きになったということです」


 ホミに諦める様子はないようだ。


「だからそれは……いや、そう否定しても感情が納得しないのか。

 だったらどうして俺を好きになったんだ?

 どうせ俺に命を助けられたという恩や、この危機的状況を共有する吊り橋効果、ワガママな姫様だったときは誰にも優しくされなかったところに俺が優しくしてしまったことで、雛鳥が最初に見た動く者を親鳥だと思うような刷り込み効果が混ざった結果だ。純粋な想いじゃない」


 俺はホミの心情を分析して伝えるが。




「だとしたらどのようなきっかけで想いを抱けばいいんですか? 明確な正解があるっていうんですか?」


「………………」


「確かに私の思いの原点はサトルさんが言ったことのようなのかもしれません。ですが今の私はサトルさんのことを真摯に想い、愛したいと思っています。それも間違いだって言うんですか?」


「それは……」


 思わぬ反撃を受けて、俺はたじろぐ。

 ホミの目は真剣だ。もしかしたらとりこじゃなくても俺のことを好きになってくれたんじゃないかと……そう錯覚させるくらいには。


 だがそんなことあるだろうか。魅了スキルを持たない俺なんてゴミクズ以下だ。

 ホミだって、リオだって、ユウカだって。とりこになっているから、俺に好意のようなものを見せてくれるんだ。

 素の俺自身が好かれることなんてあるはずが……。




「そんなに自分を卑下しないでください。私が大好きなサトルさんのことを悪く言わないでください」


 ホミが背中から抱きしめてくる。


「サトルさんは自分が思っているより魅力的な人です。私が保証しますよ」




「何で……」

 こんなに思ってくれるのか。まさか……本当に俺に価値があるとでもいうのか。


「何で……」

 俺はこんなにも自分をさらけ出してくれるホミ相手に……騙される想像をしてしまうのか。全部の言葉が嘘で、本当は俺を騙して利用するためにこんなことを言ってるんだと……思ってしまうのか。


「何で……」

 俺はこんなときにユウカの顔を思い出してしまうのだろうか。




 分からない。分からない。分からない。


「………………」

「………………」


 そんな俺を優しく包むようにホミは抱きしめた体勢を維持する。


 俺は何も言えず、ホミは何も言わず、その静寂な空間に――。








「二人ともそんなに仲良くなっていたんですねえ」








 第三者の声が響いた。

 瞬間俺とホミは現実に戻され、しゅぱっとホミが俺から離れる。


「っ……オルトっ!?」


 いつの間にか部屋の中にいた司祭オルト相手に、俺は非難の意を含めた声を上げる。




「私が悪く言われるのは心外ですね。言っておきますがノックはしましたよ。どうやら聞こえてなかったようですが」


 それだけ浸っていたとでも言外に指摘されている気がする。


「っ、見ら、見られて…………っ////」


 ホミは真っ赤になった顔を手で覆ってうずくまっている。よほど恥ずかしいのだろう。




「ああもう、それで何の用だっ!!」


 俺も照れ隠しに声を張り上げる。


「話が早くて助かります、ええ。この後も予定が山積みでしてねえ。姫様の強権を最後ですからここぞとばかりに使っていますが、それでもかなり無理している計画ですから。この早さで算段が立っていることは本当に奇跡で……」


「本題に入れ」


「ああ、これはこれはすいません。ですが二人の仲がいい様子なのは良かったことです。民を欺くためどちらにしろ強制するつもりでしたが、実際そうであるほうが楽なのは違いないですし」


「…………」


 またもごちゃごちゃ語り出すオルトに呆れるが……その中に気になる言葉があることも確かだ。

 最後……仲がいい……民を欺く……どういうことなのか。




「っと、うっかりしてました。早く用件を伝えないとですね」


 疑問に思う俺を前に、オルトは思い出したようにその言葉を伝えるのだった。








「ホミ姫様と少年……サトルと言いましたか。二人には結婚してもらいます。大々的な結婚式を四日後に行う予定ですからそのつもりで」








「………………は?」



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