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 ホミ姫様との話は続く。


「魔神を封印した理屈は分かった。それで魔神を失った魔族は敗走したって話だけどどうなったんだ?」

「形勢が悪いと見た魔族はどうやら持っていた渡世とせ宝玉ほうぎょくを使って、自分たちが元いた世界へのゲートを開き戻ったそうです。魔族が別世界の住人だって事は先ほど言いましたよね」

「……そういうことか。あのレイリって魔族が『この世界に唯一残った魔族』って言った意味は。その元の世界に戻る際に、一人だけこの世界に留まったって事なのか?」

「おそらくそうでしょうね。しかし太古の昔から今までその存在がバレずにいたとは……」

「あいつの固有スキルのおかげじゃないか? 絶対に見破られない隠蔽スキル『変身』なら、普通の人間に紛れることくらい簡単な話だ」


 細かいところだが、魔族はあいつ一人が生き残っているわけじゃなくて、この世界にはあいつ一人しかいないけど違う世界には何人も生き残っているってわけか。




「そうして平和を掴んだ世界ですが……女神様はそれが恒久的に続くものではないことを分かっていました」

「まあ平和とは戦争と戦争の間の休憩時間だ、みたいな言葉もあるしな」

「『災い』は人間が一致団結することでどうにか凌ぐことが出来ました。女神様が女神教の設立に協力したのも愛を尊ぶ教えを広めることで、また何か起きた際に団結できるようにという考えだそうです。

 そして物理的にも『災い』が再来しないように、魔神を呼び戻すことが出来るアイテム、渡世とせ宝玉ほうぎょくを各地の教会が分割管理することで、簡単には集められないようにしたんです」

「だから渡世とせ宝玉ほうぎょくはバラバラに…………でも……」


 そうだ、集められないようにバラケさせたはずの渡世とせ宝玉ほうぎょくを俺たちが集めさせられているのは……よっぽど事態が逼迫しているからだ。




「しかし女神様の思惑とは裏腹に物事は進んでいきました。多くの人に愛を知って欲しいという意図で広められた女神教は大勢の信者を抱えすぎたんです。教会の考えで多くの人が動くとなれば、そこに権力という甘い蜜が生じ魅入られた者により内部組織は腐敗していきました。

 中には女神様の教えを守ろうと人々によびかけたいた敬虔な人もいたようですが、そのような人にも不祥事が発覚したりと、とにかく事態は悪化する一方でした。

 結果このように女神教は廃れてしまったのです」


 ホミの話は武闘大会本戦前日の昼食会で町長から聞いたことがあった。あのときはそうなのか、と納得したが……あの魔族という存在を知ってその裏側が見えてきた。




「ホミ、そう悲観ばかりするな。確かに組織が巨大になりすぎた女神教の内部に、女神様の教えではなく自身の利益を優先して動いたやつがいるだろう事は俺でも想像できる。だが、全員がそうではないはずだ」

「私もそうだと思いたいですが……そのような人でも裏ではとんでもないことを……」

「いや、違う。そいつらは不当に貶められただけだ」

「えっ……?」


 ホミが目を丸くする。




「魔族レイリは言ってたんだ。『教会の力を削いだことにも意味があったというもの』と。そのときはあまり深く考えてなかったが……あとから『変身』という固有スキルも含めて考えた結果理解した。やつは女神教の関係者の姿に化けて、不祥事を起こすことで教会の評判を地に落としていったんだ」


 町長が『あるときを境に女神教に関わる者の不祥事が相次ぎ、そのせいで信心が離れていった。不祥事を認める者もおったが、多くは『身に覚えがない』『私はその日その場にいなかった』ととぼけるものばかりじゃったな』と言ってたのもその裏付けだ。偽物が起こした不祥事だから本当に身に覚えがなく、その日その場にいなかったのだと。

 あの魔族、見た目の派手さの割に、地味で嫌らしい暗躍をコツコツしていたようである。


「そう……ですか」

「昔のことでその人たちの評判を取り戻すことは難しいだろう。だが、俺たちだけでも知っておくことで少しは救いに……」

「いえ。もうすっかり年老いたでしょうが、まだ生きている人もいるはずです。詳しく話を聞いて、その汚名を雪ぐことが大巫女の役割でしょう」

「……そうか」

「何にしろこの危機を脱してからのことですけどね」


 ホミは自分が危機的状況でも他人のことを思いやれるとは分かっていたが……まだまだ認識が甘かったようである。




「話を戻しましょう。渡世とせ宝玉ほうぎょくについてですが……」

「女神教がしっかりしている間は教会がそれぞれに宝玉を管理して簡単に集められない。だが、逆に女神教が廃れてしまうとそれぞれの宝玉が管理されないままバラバラに散らばっていることになるから、悪いこと考えているやつが集めやすいってことだろ」

「はい。一カ所に集めた方が管理こそしやすいですが、渡世とせ宝玉ほうぎょくは数を集めることでその力が増します。簡単に悪用できないようにバラバラにしたんですが、いざというときに弱いんですよね」

「集中管理しにくい物質は面倒だな。……ていうかずっと疑問だったんだが、そもそも渡世とせ宝玉ほうぎょくをどれだけ集めれば俺たちは元の世界に戻れるんだ?」


 俺はずっと疑問になっていたことを聞く。有名な竜玉は七個集めれば願いが叶うという話だった。何個集めればいいのか分からず集め続けるのは正直辛い。


渡世とせ宝玉ほうぎょくは二つあれば他の世界に渡るゲートを開けます」

「本当なのか!?」

「はい。ですがそれではサトルさんの願いは叶わないでしょう」

「えっと……どういうことだ?」

「世界とは数多に存在すると先ほど説明しましたよね。宝玉二つ分の力では開けるゲートがどこの世界に通じるか指定できないんです」

「なるほど……」

 地球のある元いた世界に戻るのが俺たちの願いだ。別の変な世界に飛ばされてはたまったもんじゃない。




「二つでは完全にランダム、四つでようやく繋がる先の世界にどれだけの力があるのか、繁栄しているのかを指定できるでしょうか。六つで繋がる先の世界を指定できますが力が足りずゲートが不安定になるので、渡れる人間は一人か二人が限度でしょう。八つでゲートが安定して多数の人間でも通れるようになるはずです。十で高位存在も呼び出せるように、十二で神と呼ばれるような存在もゲートを渡り呼び出すことが可能になります」




 ずいぶんと段階がある。宝玉の説明にあった『数を集めることで力を増す』という文言その通りのようだ。


「そうなると……俺たちは宝玉を八つ集めればいいのか」

 六つ集めた時点で元いた世界へのゲートは開けるようだが一人か二人しか渡れないのでは意味がない。いや別に俺は俺だけでも帰れればいいのだが、ユウカやリオ、他の帰還派の連中がそれを許さないだろう。


「ええ。悪魔を呼び出そうとしているその駐留派は十で、魔族たち復活派は魔神を呼び出すために十二集めないといけないでしょう」


 他の派閥の必要数も明かされる。どちらも俺たち帰還派より多いが、駐留派は背後にいるネビュラの力で強引に集められるし、復活派は『変身』が役立つ上以前から宝玉を集めていたと思われるので現時点でリードしていてもおかしくない。拮抗した勝負になりそうだ。


 何にしろ目標が分かったのは大きい。

 現在俺たちは、リーレ村、商業都市、観光の町、そしてこの独裁都市で手に入れた宝玉と、帰還派に属する仲間のパーティが手に入れたので合計五つ持っている。

 後三つ手に入れれば元の世界に戻ることが出来るというわけだ。



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