プロローグ
これは2007年12月31日、午後11時59分59秒、
気象衛星ひまわりが捉えた映像である。
「さあ、今年も残すところあと30秒。
皆さん、準備はよろしいですかぁ!?」
ラジオ、テレビ、インターネット。あらゆる媒体から流れてくる、新年を待ちわびる人々の声。
そんな声も、この空間にまでは届かない。
どこまでも続く暗闇、その間で薄く輝く星々。
そして気象衛星ひまわりの眼下に広がるのは、青く輝く星、宇宙でもっとも美しいとされる、地球。
今はその半分が暗闇に包まれているけれど、命の存在を誇示するように、人々の灯す光がここまで届く。
そしてこの人工の光が、この星でもっとも集まる場所、日本。自らが発する灯りで、その小さな島国の全貌が見てとれる。
美しい。この気象衛星に心があったならば、きっとそう感じたであろう。その灯りが、例え星自身の命を燃やし続けている結果であろうとも、外から見ればそんなものは関係ない。美しいものは美しいのだ。きっとここではない、どこか遠く存在しているであろう世界の住人たちも、この星とこの灯りを見れば同じように感じてくれるに違いない。
その光輝く島国の中心「東京」に、小さな、とても小さな光が灯った。最初、それはとても小さな白い点であったが、時間が経つと共に徐々に大きな点となっていった。
「カウントダウン、行きますよー!10!」
人々が新年を迎えるために声を張り上げ始めたとき、
「9!8!7!」
その声に呼応するように、光は急速に大きな広がりを見せた。
「6!5!4!」
やがてそれは「東京」全体を包み込み、
「3!2!」
限界を迎えた風船のように一度大きく震えたあと、
「1!」
破裂した。
気象衛星ひまわりが捉えたのは、白い線であった。
東京から立ち上る、一本の白く輝く細い線。
それはどこまでも伸びるような錯覚を覚えたが、その先端が月にまで届くと一際大きく輝き、やがて徐々にか細くなり、儚げに消えた。
「A happy new year!」
こうして、人々の喜びの声と共に2007年は終わり、世界は新たな時代を迎えた。
門が開いたのだ。