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春の春菜の二年坂  作者: とめきち
17/20

ー舞妓ー壱ー


「舞妓試験、八月晦日やにゃて?」

 お母さんの声に、女紅場から帰ったウチは、うなずきました。

「ああ、なんちゅうこっちゃ、あと一ト月やないか、しかも間には八朔も大文字もあるし、もう少し先の試験にするか?」

「そんなん、いつやってもいっしょやさぁ。普段稽古してまんにゃさかい、その日だけ上手言うこともおへんやろ。」

「また、あんたはそないあっさりと。」

「そやし、練習以上のことは、本番ではでけしまへんもんどす。お母さん、いっつも言うてはるやないの。」

「ああもぅ、そない言うたかて!」



 お滝はもうやるせなさそうに身をよじって、冷や汗を浮かべています。


「あはは、まるでお母さんが試験受けはるみたいやないの、ちょっとは落ち着きよし。これでも、学校に居てたときは、模擬試験荒らし言うくらい、試験受けてたもんどす。試験やら言うたかて、なにほどのことがおす?試験受けるときは、ビビったもんから落ちるんどす。」

 お母さんは、あきれたようにため息をつきました。

「そやし、ホンマにそれでええんか?」

「よろしおす。まあ、みとうみやす、ちゃあんと結果は出して見せます。」

「はあ、なんやあわてたあてが、アホみたいやないの。」

「そんなことおへん、お母さんがしんぱいしてくれはるさかい、安心して仕込み続けられるんやもん。」

「そうか?」

「そういうもんどす。」


 そのとき、どたどたと廊下を走る音がしました。


「うひゃ~!お姉さんお姉さん!たいへんどす!舞妓試験の日程が発表されてます。」

「マリカちゃん、もうはい知ってますえ。」

「あれ、そうどすか?」

「だいたい何やのん?舞妓ちゃんの仕込みさんが、廊下をどたどた大きな音で。」

「へえ、すんません。」

 マリカは叱られた仔犬のように、うなだれてみどりを見上げました。

「まあ、ウチのこと心配してくれはったんやから、あんまりきつう言うても、せんないなあ。いま、お母さんと相談してたところどすにゃわ。」

「そやったんどすか?ほな、あわててしもて、ウチ・アホみたいやさあ。」

「そんなことないえ、おおきにマリカちゃん。」

「お姉さん…」


「あんたがウチのこと、真剣に心配してくれはったのは、十分わかってますさかい、そう気落ちせェでもええんよ。たまたま、今回はウチのほうがはよぅ気がついただけどす。」

「へえ、そうどすか?」

「さて、そしたらしっかりおさらいして、この一ト月でイチからしなおっしゃ~。」

「姉さん、そら大阪弁ちゃいます?。」

「あらまあ、をほほほ」

「はあ、試験や言うのに、まあ嬉しそうに…」

 お母さんは、ため息をつきながら、コップの麦茶を持ち上げました。

 グラスには、たくさんの水滴が付いて、からりと氷が音を立てました。

 祇園祭の期間、花見の小路にはたくさんのカメラ小僧(小僧言うても、おじさんおばさんやねんけど。)が、甲部の前に陣取っています。

 まあ、華やかな絵を期待してのこととは思いますが、WINSから流れてくるお客さんと入り混じって、とんでもない混雑を起こしますし、トラブルも起こります。


 そやし、なるべくなら、万亭さんの前くらいでシンボしてくれへんかなあ?


「みどりちゃん!舞子試験やてぇ?」

 いきなり小さいお姉さんが、飛び込んできました。

「へえ、そうどす。いま、おさらいの計画を…」

「計画どころやないわ、今度の試験は鳥追いやて、みんな言うてはるえ。」

「そうどすか?鳥追いなら慣れたもんどすなあ、こら安心や。」

「あほやな、そう言うときはたいがい、逆のことが多いねんよ。ウチの時なんか、鳥追い言うウワサやったのに、いきなり松の木やったもん。」

「そうなん?まあ、ざっとみんなおさらいしとけば、なんとかなりますやろ。」

「ええ~、みんな呼んどいで、練習しよ!」

「へえ、ほならこれから?」

「そや!はよしぃ!」

 思いがけず、小さいお姉さんがやる気になって、しのぶちゃんや紘子ちゃんも呼んで、おさらい会をすることになりました。



「へ?大瀧の若旦那さんが、風邪?」

 ウチは、突然の電話に間抜けな声を出していました。

 電話の主は、いづみちゃん。

 どないしてか、彼女は大瀧の若旦那さんの情報を手に入れていました。


「ほんで?どねぇにしようと?祇園郵便局でスタンプ押してもうたら、治るもんちゃうの?」


『イケズ言わんと、助けてェな。ウチ、お料理やら、したことないんやもん。』

「料理て…なにをするつもりやのん?大瀧の若旦那さん言うたら、ホテルなんとちがうの?」

『ちゃうねん、なんや集中して仕事が来た、言うて、五条川端のマンスリーマンションに居てはんねんて。』

「ふうん、よう知ってはるなあ。ほんで?手鍋下げて行かはんの?」

『下げてくナベがあらへんねん!なあ、みどりちゃん、どないしょ?』


(下げていく鍋がない⇒お料理ができないと言うことどす。)


「へえへえ、わかりました。他ならぬ、いづみちゃんのことやしな、どこで?」

『ああ、おおきに。やっぱ、みどりちゃんやなあ。』

「そやし、お料理やったら、洋子ちゃんのほうが上手やねんよ。なんせ、お母さんいてヘンくなってから、ずっとやもん。」

『そらそうやろけど、彼女、大瀧の若旦那さんのこと、知らへんやない。』

「ああ、そうか…ほな、待ち合わせは、烏丸三条やね?」

『そうそう、今から出るよって、よろしゅうね。』

 あらまあ、やけに積極的やねえ。ま・いづみちゃんも、新しい恋に進む気になっただけ、進歩しはったんやなあ。

 ウチだけが、頑固に残ってる。

 まあええわ、大瀧の若旦那さんやったら、いづみちゃんとことは、釣り合いが取れてはるやろ。

 さて、そんなこんなで、五条川端を東に入った所にある、意外と静かな三階建てのマンション。

 二階に上がった東端の部屋に、大瀧の若旦那はんは、寝込んでいました。


 ドアを開けると、病人くさい。


 大瀧の若旦那さんは、無精ひげをはやして、薄い布団に包まっていました。

 かなり熱が高いらしく、はあはあ言いながら、震えています。

「あれまあ、ホンマに寝込んではるわ。こら、エライこっちゃなぁ。」

「みどりちゃん、そんな悠長な。」

 がらんとした、家具も無いような部屋の、すみに敷かれた布団の中で、英一郎さんはうなっていました。

「三十八度九分?こらあかんわ。お医者さん呼ばはったん?」

「いや、わからないから…」

「あかんし、ウチお医者さん呼びに行ってくるよって、いづみちゃん・様子見ててくれはる?」

「わかった。たのむし。」

 ウチは、あわてて外に飛び出しました。

「どないしよ、大瀧さん、なにか食べたいものはありますか?」

「うー、のどが渇いた…」

「あ・あ、お水…」

 いづみちゃんは、コップに水を注ぐと、枕元にとって返しました。


「どうぞ、お水。」

「ああ、ありがとう…」

 英一郎さんは、いづみちゃんに支えられて、どうにかこうにかお水を飲むことができました。

「なにか食べることできたらええねんやけど、口に入るもんあるやろか、そうや、メロンでも買うてこか?」

 英一郎は、苦しげな息をしながら、布団で横を向いています。

「センセ、こっちどす。早ぅ早ぅ!」

 今時珍しい、黒い往診鞄をかかえて、みどりは医師を先導してきました。

「みどりちゃん、そねぇに慌てンでもええがな。」

「そねぇに言うたかて、ひどい熱なんやもん、ほら足下気ィつけて下さい。」

 医師を押し上げるようにして、階段を上がったみどりは、大瀧の若旦那はんの部屋に飛び込んできました。

「若旦那はん・生きてはる!センセ来てもうたえ。」

「いま、お水飲んで寝たとこ。」


 先生は、さっそく枕元に寄って、若旦那はんの診察を始めました。


 ウチは、台所に立って、ネギを刻み始めました。

「みどりちゃん、なにしはるの?」

「あ、うん、おじやでも作ろうと思って。」

「そう?ほな、ウチ果物買うてこうと思うねんけど。」

「あ、ほなら、モモカン買うてきて、小さいのんでええから。」

「モモカン?」

「かぜひいたときは、モモカンが決まりやねんよ。口が味ないときでも、ちゃんと甘いよってな。」

「ふうん、ほなそうする。」

「そやね、縄手通の藤村屋さんとこで、買うてくるとええねんけど、まあその辺で買うても、味は変わらへんやろ。」

 いづみちゃんは、慌てて外へ飛び出していきました。

「センセ、体拭いてもええ?」

「アカン、もう少し熱が冷めてからな。そやし、パジャマは着替えさせた方がええな。」

「へえ、わかりました。」


「ほな、あとで薬局行って、この薬出してもらい。」

「おおきに、ほな後で、おあし持って参じますよって。」

「おう、明日でええからな。」

 先生は、来たときと同じく、ひょこひょこと帰って行きました。

「さて、ほな汗もかいたし、パジャマ着替えしよかねぇ。」

「じ・自分でできるよ…」

「まあ、ふらふらしてはって、手伝いくらいさせてもらいますがな、男はんが遠慮なんてせんといて。」

「そうは言ってもだね、君は大事な仕込みさんなんだから、変なウワサでも立ったら…」

「そう思わはんにゃったら、さっさと着替えて、さっさと寝ておくれやす。だいたいやねえ、夏風邪やなんて、アホがひくもんどすえ。」

「ちぇっ、ひどいなあ。」

 そう言われて、しぶしぶパジャマを着替えた、大瀧の若旦那はんは、もぞもぞと布団に潜り込みました。


「若旦那はん、おじや作ったにゃけど、食べはる?」


「うん、朝からなにも食べてないんだ。」

「よかった、卵と九条ネギだけやけど、ええ?」

 ええも悪いもないわなあ、それしかないし。

 枕元に、小さな土鍋を持って行くと、幾分顔色も落ち着いた感じで、起きあがりました。

 少し手を貸して座れるように、背中に座布団を挟みました。

「まあ、お薬飲むにしても、少しは胃に入ってはったほうが、ええもんねぇ。」

 そこへ、いずみちゃんが戻ってきました。

「も・モモカンって、これでええ?」

 差し出したものは、五〇〇グラムの缶詰。

 ウチは軽く頷いて言いました。

「ええよ。ほな、ウチは薬もうてくるよって、しばらくたのむし。おじや、食べさしてあげて。」

「わ・わかった、これやね。」

「熱いよって、気ぃつけてね。」

「うん、みどりちゃんも、気ィつけて。」



「少し時間がかかるよって、よろしゅうね~」

「うっく」

 あはは!まあ、相手は風邪ひきさんやし、なんにもでけへんよって、つまらんかもせえしまへんけどな。

 おっと、これはオバハンやったかいなあ?

 ウチは、ぽくぽくともと来た道を戻りました。

 ついでに、お母さんにも電話しておかなあかへんし、マリカちゃんのお三味線見てあげる約束やったし、こら忙しいなあ。

 便りのないのは良い便り言いますけど、大瀧の若旦那さんには、えらい便りになってしもたもんどす。

 ウチは、薬局に入ると、先生の処方箋を出して、薬を頼みました。

 ついでに、薬を待つ間に、携帯で連絡を取っておきました。


「そら難儀やなあ、まあしっかり食べさして、あんじょう精つけて、そやし消化のええもんやないとあけしませんし。」

「へえ、まあしばらくは『おじや』くらいしか入らしまへんわ。」

「そうか?ほな頼んだえ。大事なお得意さんやしな、あんじょう頼みます。」

「へえ、賜りました。」

 川端五条を上がって、薬局で薬を出してもらって、松原橋から仏光寺のコンビニへ向かいました。

「あれまあ、みどりちゃん、ようおこしやす。」

「おかみさん、ご無沙汰どす。」

「なんや、舞妓試験に合格しはったそうで、おめでとうさんどす~。」


 いや、おかみさん、それまだどすて~。それでも、せいだい話を合わせておきます。


「へえ、おおきにありがとうございます。せいだい、きばらせてもうてます。」

「そやにゃ~、店出しはいつごろになりそう?」

「へえ、年末までにはなんとか…」

「あれまあ、気の長いハナシ。」

「そんなんすぐどすて。」

 話しながら、冷凍庫の氷を取り出します。

「ほなこれを。」

「へえ、こんなに?」

「病人がいてますにゃ。かぜひきさんどすけど。」

「あれまあ、お大事に~。」

 あいかわらずのんびりしたおかみさんの声に送られて、コンビニを出ました。

 この五条川端を少し入ると、ちゃんこ鍋のおいしいお店があったのですが、今は二条に移ってしまってありません。

 ついでに、や○ざの事務所などもあって、少し物騒な処でもあります。

 どうせやくざな商売なら、建設的に生きればええもんを…って、やくざな商売に建設的もないもんやな、あはは。

 それでも、東山の界隈はまだまだ秩序と言う物がちゃんとあって、ここでアホするとどうなるかは、みなさんよくわかっていらっしゃるようです。

 ましてや、舞妓ちゃんが傷でも付こうもんなら、どんな賠償がかかるやらわからんくらいの土地柄どすし、タクシーの人なんかは、舞妓にぶつかるくらいなら、高島屋に突っ込むと言うくらい。


 そんな川端を下って、もと来た道をたどってきました。


 本町四丁目から耳塚前へ、雑多なビルや家屋、間を走る電線と、込み入った風景の中を歩くと、懐かしさがこみ上げます。

 もともと、ここから五条通(一号線)をはさんだ北側の、宮川筋五丁目の狭いアパートが、ついこの間までの私の住処でした。

 八坂高校に入学した頃は、仏光寺にあるやはり狭い、二間のアパートでした。

 人の流れるさまは、加茂川の流れよりも速く、桂川のように曲がりくねっているものだと、つくづく思います。

 それでも、ウチはまっすぐに、自分の信じた道を行くことに決めました。

 透吾ぼんの戻る日まで、祗園でがんばります。

 ウチを支えてくれる、友達やお母さん、お姉さんたち。

 姉小路のおとうさん、おかあさん。

 ウチは、石にかじりついてでも、ここで生き抜いて行きます。



 アパートの玄関に立つと、黒い革靴がありました。


「ただいまぁ、いづみちゃん、だれか来はったん?」

 ウチは、氷を下げて、中に入りました。

 枕元には、中年のおじさまが座っていました。

 白いものの混じった、ごま塩頭をオールバックに整えて、きっちりサマースーツを着込んでいます。

 ウチは、氷を脇に置いて、そっと三つ指をつきました。

「初めまして、ウチは祇園の松本屋で、舞子の仕込みをしております、倉橋みどりどす。よろしゅうお頼の申します。」

「大滝…栄作です、息子がお世話になりました。」

 低い、塩辛声でした。

「いいえ、ウチたちも今日、聞いたところで、あわてて寄らしてもうたんどす。なんや、勝手にいろいろしてしもて、かんにんどすえ。」

「いや、若い娘さんに大変な手間をかけさせて、申し訳なかったね。」

「いいえ、どういたしまして。これ、お薬どす。」

 ウチは、薬を枕元に置きました。


 いずみちゃんは、枕元で固くなっています。

「こちらは、橘重工業の娘さんで、橘いづみさんどす。」

「ほう、あなたが…橘さんも、こんな立派な娘さんがあって、頼もしいですね。」

「いやもう、ずんべらぼんで…」

 いづみちゃんは、自分でも何を言っているやら、わかっていないようです。

「お父様がいらっしゃったのなら、もうウチらおじゃましてもあかんし、おいとまさせてもうてもよろしおす?」

「ありがとうございます。あとは、私が…」

「へえ、ほなお大事に。あ、これ、氷枕の氷どす。」

 ウチが、コンビニで買ってきた氷を渡すと、お父様は黙って受け取りました。

 アパートを出ると、日差しも斜めに傾いて、あたりは茜色に染まっていました。



「あ~どきどきした~。みどりちゃんも居てへんし、ウチどないしよかと思ったわ。」

「どないしたん?」

「とりあえず、冷蔵庫から麦茶出して、そんだけ。」

「ごあいさつは?」

「こんにちは。」

「はあ…あんた、エエとしして…」

「わあ~ん、礼儀知らずやて思われたらどないしょ~!」

「そら、してまったもんは、しょうおへんやろ。」

「そんなこと言うな~。」

「あはは!まあええやん、まだ子供なんやし。ウチらみたいに、仕事で付き合ってはる訳やなし。気楽にしてはったらええやん。」

「はう~。」

 川端通りを上がって、四条通に出たウチらは、南座の前で右と左に別れました。


 いつか、ええお話が聞けるとええなあ。

 ウチは、祇園に向かって歩きながら、そんなことを考えていました。

 ま・それから三日ばかり、いづみちゃんは大瀧の若旦那さんのとこに通って、世話してはりましたけど、どないなったんやろ?

 早ぅ報告に来ぉへんぁなあ?


 い~んでこだいもんじ、だいもんじ~がと~もった…


 大文字に火がともって、暑い夏にも終わりがやってきます。

 今年は、友美ちゃんの一周忌、母親の百カ日、お盆はいそがしい。

 しんみりと思い出に浸る暇もなく、祗園のお盆は走り抜けます。

 川床に、お座敷に、芸妓・舞妓は大忙し。

 いきおい、ウチら仕込みはお手伝いで、てんてこ舞い。




 それでも、姉小路へ足を向けると、やはりいづみちゃん、洋子ちゃん、可愛ちゃん(売れっ子アイドルさん)は、お線香を上げにやってきました。

「久しぶり、みどりちゃんが舞妓さんになるなんて、考えてもみなかったわ。」

 可愛ちゃんは、サングラスをかけながら、ウチに言いました。

「そやにゃ、ウチもそねえに思います。そやし、透吾ぼんが帰ったとき、一番に来るのは祇園どすさかい。」

「あんた、そのためだけに、祗園にいるの?ほんとに?」

 可愛ちゃんはきれいな標準語で言って、目を開いてウチを見つめました。

「うん。」

 ウチは、おおきくうなずいて、笑い返しました。

「信じられない。」

「そうどすか?ウチは、男はんは透吾ぼん一人と決めましたんどす。そやし、ゆれることはおへんのどす。」

「みどりちゃん、それでいいの?」

「ええんどす。ウチはこれで。こう言うのんが一人くらい居ててもよろしおすやん。」

 ウチは、まっすぐ顔を上げて、可愛ちゃんを見つめました。

「参りました、降参です。」

 可愛ちゃんは、両手を上げて言いました。


「あ、ウチ姉小路の旦那さんにご挨拶してきます。」

「ああ、透吾ンち?あたしも行くよ。」

 いづみちゃんも洋子ちゃんも、一緒に暖簾をくぐりました。もちろん可愛ちゃんも。

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