序
20年前に書いたお話。
いまより少しだけ、世の中がのんびりしていた時代。
こんな女のコがいました。
春の春菜の二年坂
序
「ありがとうございました、おかげさまでいい番組が作れそうです。」
衛星のテレビ局のディレクターが、ひげの間から声をかけました。
「どういたしまして、どうどす?」
女将である春菜は、心配そうに聞き返します。
「はい、お店の中やお座敷なんかも時代を感じます、なくすことは日本の損失ですね。」
「あれまあ、そない言ってもらえるんやったら、もう少しおもてなしするんどしたなあ。」
春菜は、ころころと明るい笑い声を上げました。
「いえいえ、十分ですよ。お姐さんたちにもよろしくお伝えください。」
門口で靴を履きながら、髭のディレクターはにこりと笑いました。
「おかあさんの舞子になった経緯、できればドラマにしてみたいですね。」
「そんなたいそなもんやおへんえ。」
「いやいや、たいしたもんですよ。今どきの女の子にできることではありませんよ。」
ディレクターは、きれいな標準語で答えて、玄関を出ました。
春菜は、送り出しながら花見小路につま先を出します。
おりしも、建仁寺は桜が満開。
南の風に運ばれて、桜の花びらが花見小路まで舞ってきます。
あたたかな春が、祇園に訪れたようです。
華やかな桜を見上げながら、来し方を思い起こすと夢のようだと、春菜は思いました。
あら?
むっちゃ短い?