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「御客人」様

「御客人」様と……ざまぁ?

作者:

 秋。日中の気温や日差しは、まだ夏の名残はあるものの、収穫の季節である。

 わが村でもお米の収穫が始まった。

 とは言え、基本は収穫機で作業し、機械が入れない所のみ手作業である為、稲刈りはそんなに大変ではない。

 むしろその後の乾燥の方が大変なのだ。天日干しはもうひたすら雨が降らない事を祈るばかりだけど、所詮若輩者の私では、村の生き字引である爺様婆様達(長老ズ)の勘と、お猫様のお告げ、そしてインターネットな天気予報を頼るしかできないのだ。


 それにしても、収穫機を操る長老ズの輝く事よ。

 手作業班の若輩者達は腰を伸ばす為に時々体を起こすのだが、その際「あれアテレコするなら『わぁっはっはっはっは!』かなぁ」「いやどっちかっつったら『ヒャッハァー!』じゃね?」などと会話しつつ、鎌を片手に羨望の眼差しを向けている。

 そして若輩者たちの注目など「何の痛痒も感じんわー!」と、更に輝きを増す長老ズ。

 毎年の事なので、サポート班(束ねた稲を干す係)も温くスルーである。



 そんな日常(?)の光景に、いきなり響き渡る声があった。


「君との婚約は破棄させてもらう!!!」


 ………………………………何言ってんだコイツ。

 今、村人達の心は一つになっ……いや収穫機稼働中の長老ズ以外の心が一つになった。

 とりあえず、『御客人おきゃくじん』一名様ごあんなーい。




 ここで状況を説明すると、この村には違う世界の人間がたまに迷い込んでくる。

 一つの違う世界ではなく、数多あまたあるらしいいろんな世界の住人が突然ひょっこりと現れるのだ。人によって表現が変わるとややこしいと言う事で、異世界からの来訪者の総称を『御客人おきゃくじん』と読んでいる。ちなみに来訪の原因は不明なままであるが、今更気にする村民はいない。



 それを踏まえて。

 今回の御客人は年齢は十代後半の見た目イケメンな青年である。

 村の住民が集まっての収穫時だった為、長老達(高)・サポート班(中)・手作業班(若輩)と、各年齢層も揃っていたので、そのまま休憩所へ集合と相成った。

 興奮気味だった事もあり、異世界だと納得してもらうのに少々時間がかかったが、そこは海千山千な長老達の手(舌?)により、どうにか納得してもらえたようだ。

 戻るのは時間に任せるしかない事も納得してもらえたが、心配事があるのか憂い顔を見せ狼狽える青年は、何かぶつぶつ言っていた後ストレスが限界に達したらしく気絶。村在住の医師も問題ないと判断した為、一応看護に長老ズの中で雰囲気が柔らかい人を数人残して稲刈り作業に戻る。時間は有限であり、一日の日照時間も有限なのだ。



 本日の作業が終わり、今日は村中でまとめて夕食を取る予定だったので、そのまま集会所へ行くと、目を覚ました御客人の青年も来ていた。異世界の料理をおっかなびっくりと口に運んで美味しそうに表情を緩めるのを見て、村人達の表情も緩む。

 そのまま世間話から「アノ発言」に至る経緯を聞いた感想は、「うわぁ……」の一言だった。

 青年の世界は、西洋の古き時代の貴族文化(あくまでもイメージ)と似たような感じの文化らしい。貴族の青年には家格の釣り合う婚約者がいたそうだ。が、青年曰く「運命のひと」と出逢ってしまった、そうだ。

 何だかどこかで聞いたようなロマンチックな展開があり、まあ恋人のような間柄になったらしい。しかし彼には婚約者がいた。婚約者が恋人に危害を加えるのを看過できず、糾弾して婚約破棄しようとした瞬間だったと。


 恋愛脳な青年は置いておいて、第三者から見ると気の毒なのは婚約者である。

 そりゃ本人達はいいだろう。ラブラブなのも結構だ。と言うか日本にだってそんな話は今でもありそうだ。

 だが婚約者側はどうだろう。家格によって定められた相手に、筋も通されず勝手に恋人をつくられたと言うのは、自分達の貴族のイメージからすると「馬鹿にされてる」と思うものではないだろうか。もしくは「馬鹿にされた家」と思われない為に、何らかの対応を取らざるを得なかったか。

 心なしか、話を聞いている村民の顔にも好意的な感情は浮かんでいない。



「てかさぁ、そのコイビトとの仲を深める前に、婚約者には話をしたの?」 

「いや、そもそも行事の際にしか会う事もなかった。私は恋人に誠実でありたかったからな」

「いやそれとこれとは違うだろ。家同士の関係での婚約者つったら、いわば同士とか仲間って感じだろ?違うの?仲間に協力のお願いなりの事情説明とかしてないの?」

「い、いやそれは……」


 おっと、ここで同年代の村の青年が御客人青年に問いかけたー!


「つーか『婚約者が危害を』とかって、具体的にはどんな?」

「え?あ、あぁそれは、彼女に酷い事を言ったり、危害を加えようとしたり」

「あー。じゃなくて具体的に。どんな酷い言葉や行動?」

「そうだな……。『婚約者のいる男性に無暗に近づくものではない』と言ったり、『ご自分のお立場を分かっていて?』と言ったりしたんだ。私に婚約者がいたのは私の意志ではない。あの女にそんな風に言われる覚えは」

「あるだろ。大いにあるだろ。そのコイビトとかに出会う前まで、その人が婚約者だって納得してたんだろ。じゃあ当たり前のセリフなんじゃねぇの?」


 村の青年ぐいぐい行きます!ここで正論をぶちかましたぁっ!対する異世界青年は!?


「そう……かもしれないが!あの女が彼女にした事は!」

「うんだから『何』をしたの」

「彼女を!階段の上から突き落とそうとしたんだぞ!もし落ちていたら命にも関わったかもしれない!そんな卑劣な行為をする人間を、我が家の血筋に入れるわけにはいかぬ!!」


 ほう。うーん、個人的に暴力には否定的な方ですが……。


「うーん。まぁそれはやったらマズイよなぁ」

「マズイどころではないぞ!」

「で、証拠は?」

「証拠?彼女が言っているのだ!間違いない!」


  ………………何言ってんだコイツ。

 村人達の心は(今度こそ)一つになった。


「…………いや。いやいやいや要るだろ証拠。被害者本人の証言だけじゃ何にもならんだろ。婚約者さんは何て?」

「否定した。『有り得ない』とまで言っていた。往生際の悪い女だ!『仰る日時には違う場所におりましたし、そもそもその様な事をする必要はございませんわ』とか言っていたな」

「えーっと……」


 村の青年は困ったように長老ズに視線を向けた。それを受け、長老ズの中から柔和な雰囲気(あくまでも雰囲気)を持つお婆様が進み出て、「若い方のお話にお邪魔してごめんなさいねぇ」などど言いながら、異世界青年の横にしっかりと陣取った。


「まぁちょっと落ち着きなさいな。ほら、このお茶は今年の新茶を水出しにしたものなの。ゆっくり飲んで、喉の奥から鼻に向けて息を吐くと後味まで美味しいの。さ、どうぞ」

「え?あの?はい。……………おぉ、これは……美味い」

「ふふ。そうでしょう。……ところで、お話が聞こえてきたのだけど、基本的な事をお聞きするわ。そもそもその婚約者さんは、あなたの恋人さんに意地悪する程 あ な た の 事 を お 好 き な の ?」


 辛辣な疑問を受けた異世界青年は、ここでやっと「あれ?いやでも……」と言う表情になった。


「聞いただけで判断するのも可笑しな話だけど、あなたの言葉は恋人さんの側から見たお話だけね。婚約者さんから見るとどうなのかしら。その婚約者さんはどんな方なの?」

「……アレは、幼い時に会った頃から頭の出来は褒められていた。そう、それで父上が年頃になった時に縁組を望んだんだ。相手の家も渋っていたが結局は受け入れた。…………そうだ、その時にアレは『お互いに婚姻を望まない事情が出来たら破棄に向けて協力しましょう』って……え、あれ?いや、だが彼女は苛められたと……。そうだ彼女が……そう言って……。悪人は罰されるべきだ…………」

「あらあら、ほらこれを飲んで落ち着きなさいな」


 ちょっと混乱して様子がおかしくなりかけた青年に、周囲が警戒態勢に入る。そんな中、お婆様がすすめたのは透明な液体の入ったコップだった。それを飲んだ青年は、ぱったりと机に倒れこむ。

 用意のいい事に、倒れこむ前に青年の前から食器類は撤去されていた。


「たった一言で混乱するなんてまだまだだねぇ。……さて、矛盾の種は撒いたから、一晩寝たら多少は話の整理も出来るでしょう。疑いを持つのも実直バカみたいに信じ込むのもこの子の自由だけど、あんな乱れた思考のままで村で過ごして欲しくはないからねぇ」


 顔を引きつらせる若輩者達に、異世界青年を寝床へ運ぶように言いつけながら、お婆様はにーっこりと微笑んだ。

 コップの中身は誰も聞くことは出来なかった。



 その後、湖畔で佇んでみたり、同年代の青年達と色々話したり、農作業で輝く長老ズを遠い目で眺めたりした異世界青年は、恋人への猜疑心を抱えながらも穏やかに村の滞在時間を過ごしたらしい。

 異世界に戻ったその後は、どうなったのか気にもなるが知るすべはない。

 まぁ何らかのご縁で村に来た人間の「心穏やかな日々」を祈る位しか、こちらには出来る事はないのだ。

 さて、今日も今日とて農作業。



「ではこれで、契約(婚約)は終了ですわね」


 …………………………あれ?

いずれ修正するかもしれませんが、今の所これが精いっぱいでした……

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