第1話 彼の本質
戦いが好きだ。殺しはもっと好きだ。
斬って斬って斬って、捌いて捌いて捌いて、潰して潰して潰して、壊して壊して壊す。肉を切り裂き解体するときの感触、音、匂い…全てがボクを高揚させる。
その地域は 昼間なのが嘘であるかのように薄暗く、廃墟も同然の建物が乱立している。本来なら、小汚いホームレスや野良犬がウロつくだけの静かな場所だ。しかし、今、その地域はある種の戦場と化していた。正確に言うと、その地域にある1つの廃ビルが戦場となっている。
廃ビルの周りを、何台もの同じ塗装を施した車と、同じ黒い服を着た戦闘員が取り囲む。先にビルの内部に潜入した戦闘員と時折連絡を取り合い、戦闘員らは内部に潜む悪者達を確保しようと躍起になっている。
ボクは、自分が、その悪者の1人であるということを認識している。ボクがしていることは決して正義ではない。それでも、仕方がないンだ。
戦いが好きだ。殺しはもっとずっと好きだ。そういうふうにつくられている。
ビル中心部へと繋がる唯一の廊下を、黒い服を着た戦闘員が大軍で駆け抜けていく。しかし、彼らがビル中心部に到達することはない。先頭を走る戦闘員らは漏れなく血飛沫を上げながら、鮮やかに解体されていく。そんな惨状を見せられても怯むことなく、勇敢に、決死の覚悟で攻めたてる戦闘員達だが、たった1人の少年によって、簡単に死んでいく。
まだ6歳かそこらの少年は、楽しそうに踊るように、戦闘員を解体しいく。左右両手に持つ2本の短剣で美しい軌道を描く度に、鮮血がほとばしる。返り血1つ浴びずに殺すその様は、1つの芸術のようだ。
やがてその遊びに飽きると、少年はゆっくり廊下を後退し、ビル中心部の広間へと戦闘員らを導いた。
やっぱり自らの手で、生物を肉塊へと解体するのは楽しい。それに、身体を動かすのも気持ちがいい。でも、もっと気持ちがいいのは、いっぺんに大勢がグチャグチャになって死ぬ様だ。幸いにも、ボクはその殺し方、魔術を使った殺し方が最も好きだし得意だ。
少年は、適当に戦闘員らをあしらいながら、広間にある程度の戦闘員らが集まるのを待った。当然、少年から離れた位置にいる戦闘員らも黙ってその様子を見ている訳ではなく、あれこら呪文をとなえながら、魔術で仲間を応戦している。
でも、そんな魔法は少年にとっては取るに足らない、チンケな雑音にしかならない。彼らの魔力をいくら結集させようとも、少年の足元にも及ばないだろう。それぐらいの絶望的なまでの差が両者の間にはある。
広間が人で満ちたとき、少年は笑みをこぼした。そして、左右のうち、左手に持った短剣を口に咥え、自由になった左手を前にかざした。少年は、呪文を唱えることすらなく、ただ念じた。
『闇の化身よ、喰いつくせ』