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美味しそうな匂いで、少女は目が覚めた。普段ならこの時間に起きてしまったのならあと三十分は寝よう、と二度寝を決め込む時間だが今日はどうも二度寝する気にならない。
のそのそとベッドから這い出て、姉が用意してくれたであろう洋服に着替える。姉からいつもいつも「寝る前にはきちんと明日のお洋服を用意しなさい」と言われてはいるが、どうしても忘れてしまう。それでもこうして用意してくれるのだから、姉はこの少女を十分に甘やかしていると言えるだろう。
とんとんとん、と階段を降りる。まだちょっと眠い。二度寝してくれば良かったかな、と少し後悔したが着替えたばかりの洋服にシワをつけたくないので(第一そんなことしたら姉に怒られる)欠伸をこらえながら朝食の席に向かうのだった。
「あらお早う、アマリリス」
「お早う」
「おはようございます」
自分より先に来ていたらしい母親と父親が挨拶をしてくる。何の変哲もない朝の挨拶。いつものように挨拶を返して、アマリリスと呼ばれた少女は席についた。
「お姉ちゃんは?」
「まだ台所。そろそろ出来上がるんじゃあないかしら」
アマリリスの家では朝食は姉が作る決まりになっている。別に母親が料理嫌いなわけでも、暗黒物質を作り出すわけでもないのだが、なんとなく姉が作っている。明確な理由は分からない。少なくとも、アマリリスが物心ついた時には既に姉が作っていた。
「はい、お父さんとお母さんの分のスクランブルエッグ……ってアマリリス、起きてたのね」
「おはようございます、お姉ちゃん」
柔らかな黄色のスクランブルエッグが母親と父親の前に置かれる。やっぱり美味しそうだなとアマリリスは思いながら姉に挨拶する。
「うん、おはよ。待っててね、トーストと一緒にアマリリスの分も取ってくる」
せわしなく動く姉。アマリリスも一度手伝いを申し出た事があったのだが姉に「お皿割ったりしそうだからまだ駄目」と断られてしまった。
お姉ちゃん。綺麗で、優しくて、ご飯も美味しくて、勉強も出来るお姉ちゃん。そんな姉がアマリリスの自慢であり、目標とする存在だった。
文章で飯テロが出来る人は正直尊敬します。