8、割れ物注意!?
今日はやっと、休みの日だ。学校に行かなくていいし、部活もないし、何より森野に会わなくてすむってのは、最高だね。一仕事終えて、やっとタバコが吸える感じ?……よく、分からないですね……。
「慎ちゃぁん!!お友達よ!」
友達?小橋?でも、アイツ今、塾の時間だよな。
じゃあ、誰だ??
「……まさか……な」
森野だったらって思ったけど、それはないよな。だって、普通に考えれば、来ないだろ。
……でも、アイツは普通じゃないからな。異常だからな、非常識だからな。世の中の普通なんて、通用しない……よな。
「母さん!!その人、中に―――」
「入れちゃったけど、何か悪い事でもあった?」
畜生、一足気付くのが遅かったか。……瀬川慎吾、一生の不覚だ……。
「ダーリン、休みが明けるの待てなくて、来ちゃったゾ」
相変わらずむかつく言い方だな。
なぁにが、来ちゃったゾ、だよ。ハート付けんなって、毎回言ってる気がするぞ。毎回苛立ってる気がするぞ。
「……ついでに、ついて来てしまったんですが、いいですか?」
あれ?森野だけじゃないの?誰?この子、誰?
「あ、ダーリン、紹介するね。同じクラスの、舘山香ちゃんだよ」
ちゃんだよって言われても、知らねぇんだけど。見た事もないんですけど。
「て、言う事で」
「何でそれだけで、一件落着ぅみたいな顔ができんだよ!」
「え!?どこか至らない所でも!?」
「ありすぎて困るんですけど」
「どこか、どう、どういった感じで?」
「お前の存在全てが謎なんだよ!!」
「え!?って言う事は、私の謎を解けるのはダーリンだけって事!?」
「何、嬉しそうな顔してんだよ!」
「だって、さっちゃんは嬉しいんだぞ」
「お前は銀○のさっちゃんか!」
「だって、同じキャラじゃない!!」
「だからと言って、人様のキャラをパクるでない!!」
「いいじゃない!!楽しいじゃない!!面白いじゃない、○魂!!」
「面白いよ、確かに面白い。だけど、それとこれとじゃ、全然関係ねぇんだよ!」
「あるわ!!SMな感じが!!」
「全然作品のコンセプト違うから!!」
もうそれ以上何も言えないように、ぶっ飛ばしてやりました。気持ちは晴れたんですけど、せっかくの休日がこいつに潰されると思うと、かなり悔しいです。
「ぼ、暴力はいけません!!大丈夫?森野さん」
「……香ちゃん、これは暴力じゃないのよ。ダーリンの愛のムチなの」
「愛の、ムチ?」
「そう。愛情表現が苦手なダーリンが、私に向けて送ってくれる、唯一の愛情なの」
「お前に誰が愛なんて送るか!慈悲の心だって持ってないぞ!!」
蹴り飛ばしたら、本棚の角に頭ぶつけて笑ってた。不気味というか、……簡単に言う、キモいってやつですね、はい。
「や、やめてください!暴力はやっぱり、いけません!」
「うっせぇな。黙ってろよ」
「……うう」
何故に涙目ぇ!?どこがいけなかった?どこが怖かった?何が原因だぁぁ!?
「とりあえず、今日は帰ってくれない?疲れてるから、休むには、邪魔なんだよね」
「……うぶぶぅ」
何故そこで泣く!!?確かに俺、冷たい事言ったよ!?だけど、泣くほどじゃないでしょ!?
何だよこいつ、小橋並みに繊細だな……。
「じゃ、邪魔は言いすぎだな。な、とりあえず、今日は帰ってくれないか?」
「……ううう」
泣くなってばぁ!!何で泣くの!?どうして泣くの!?何がお前の心を傷つけるの!?
「……また今度、別の日に着たら、歓迎してやるから、な?今日は帰ってくれよ」
「ホント!!ダーリン!!」
「お前は二度と、俺んちの敷地内に入ってくるな!!」
「イヤよ!!そうなったら、二度と私に会えなくなるわよ!?それでもいいの!?」
「いいよ!気持ちがスッキリするよ!お前がいると、この地球がどんどん穢れていくよ!!」
「それでも構わないわ!愛しい人と、一緒にいられるなら……」
「だから、一緒にいたくねぇんだよ!!俺は!!」
抱きつこうとしてきた馬鹿を流すと、あいつは見事にベットに頭をぶつけた。
気持ち悪い。気分も悪い。今日は、一年で、一番最悪な日かも。
「暴力はいけませんんーーー!」
「お前に暴力は振るってないだろ!てか、これは暴力じゃなくて、自己防衛だ!!」
「それでも相手は、女の子ですよぉ」
「あんなの女のうちにはいらねぇよ、メスだよ。メスブタだよ」
「メスブタ!?何なの、このいい響きは!!」
「お前はうっさい!!黙ってろ!!」
足にすがり付いてきた森野を振り払って、とりあえず避難した。やっぱキモいよ、こいつ。
「ぼ、暴言もおやめください」
「だからぁあ!!」
「……ぬぶうぅ」
泣くなぁーーーーーーーーーーーー!!
何この人!何なのこの人!何故にすぐに泣くの!?どうして泣くの!?扱いにくいんですけど!?
「……ゴ、ゴメン。だから、泣くなってばぁ」
「……ううう」
デリケートすぎるよ。小橋を超えたよ、思いっきり。
割れ物注意って、どっかに貼っとかないと、危ないよ。この人……。
「その優しい言葉を、私に向けてよ、ダーリン!」
「ヤだよ、てか、てめぇは帰れよ!」
「……もしかしてダーリン。香ちゃんに一目惚れ?」
「違うわボケ!お前がいると、イライラすんだよ、はらわたが煮えくり返るんだよ!!」
「……許さないわ、許さないわよ、浮気なんて!」
「浮気してねぇし!お前に気もねぇし!」
「え!?嘘!!」
「本当だよ!!誰がお前なんかに惚れるか!!お前に惚れるくらいなら、母さんに惚れるわ!」
「……マザコン?」
「違ぇよ、馬鹿!!例えだっつの!!分かれよ、それぐらい分かれよ!!」
「それは、お母様に失礼なんじゃ……」
「お前は黙ってろ!!」
あ!ヤバイ!やってしまった!地雷を踏んだぞ!泣くだろこれ、ヤバイよな、これ!
「……うぶうぅ」
やっぱ泣いたよ!!泣いちゃったよ!だから嫌なんだよ、泣き虫は!!嫌いなんだよ、扱いにくいから!!
「ゴ、ゴメンな。ほら、泣くなよ、な?」
「……ぬうぶぶぶうぅ」
変な泣き方だけど、やっぱり割れ物だよ、この人。割れ物注意どころじゃなくて、触るな注意だよ。
「……あれ?」
なんか、服についてない?何これ?……ってこれ!?
「あ!!それダメです!!お母さんが、お守りにってくれたんですぅ」
「……これ……を?」
「そうなんですぅ。はがさないでくださいぃ」
……割れ物注意って、ホントに貼ってあるし。しかも、それがお守り?……お母さん、分かってるんじゃないですか、娘の事。でも、お守りって……ありですか?
「……とりあえず、帰ってくれないか?」
「はい、そうします。ホントにお疲れのようなので……」
誰のせいだと思ってるんだよ。誰のせいで、こんなに神経使ったと思ってんだよ。
「アレ?慎ちゃん。お友達、帰ったの?」
「……もう、疲れたよ、パ○ラッシュ」
「パト○ッシュ?」
「……何だか、すごく眠たいんだ……」
「慎ちゃん、それって寝たら、危ないんじゃない?」
母さん、皆さん、さようなら。今回は、本当にダメかもしれません。もし、また会う事があったら、二度目の奇跡だと思ってください。もしくは、天国に逝ってからの話だと思ってください。
本当に、お疲れ様でした。