66、心配性の変態親父!?
久しぶりに、あの変態さん登場でぇす。
「ただい―――」
「慎吾ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
飛び掛ってくる変態をしゃがんでかわす。
「おわっ」
狩燐も同じようにかわす。あ、狩燐はバック持ってきてくれてます。
その結果、あのアホストーカーは、ドアにダイレクトアタック。ああ、ドアが可哀相……。
「お帰り、慎ちゃん」
「ただいま、母さん」
あの馬鹿クソ変態親父のせいで、途中までしか言えなかった台詞を言う。
「えっと、……あの」
らしくねぇなぁ。狩燐が戸惑ってみろ、なんか恐ろしい。
「こんばんは、狩燐君。あ、ちょっと待っててね」
「……」
「どした?」
「なんか、謝る隙を与えてくれねぇなぁと思って」
「電話で謝ったんなら、それだけでいいんじゃねぇの?」
「慎吾っ、慎吾!お前の美脚がぁぁぁ……」
「うるせぇな、変態。しばらく黙ってろ」
いい大人が号泣って……しかも、美脚ってなんだ。
「……容赦ねぇな」
「お前もだろ」
「俺は手加減してるぞ?」
「あそ」
「おまたせぇ。はい、これ」
狩燐に何か渡す母さん……。そ、それは!!
「……何これ」
思うよな、そう思うよな!なんたってそれは、ミッチャルさんのお土産だもの!
「母さん、何渡してんだよ」
「お菓子がなかったから、これでいいかなあって」
そんな適当な理由で、悪魔を呼び出す儀式に使うような仮面を渡しますか!?あ、この怪しい仮面の正体を忘れた方は、10話目を読んでみてくださぁい。
ていうか、その仮面とってあったんだ……。
「……一応、もらっておきます」
「あ、バック重かったでしょ?有難うね、狩燐君」
「いえ。じゃあ、車待たせてるんで……!!」
「帰らせん……帰らせんぞ!今夜はみっち―――がはぁっ!?」
飛び蹴り。実の親に、本気で飛び蹴り。松葉杖を軸にして、怪我してない方の足でやれば、簡単簡単♪
「じゃあな、狩燐」
「おう、またな」
で、狩燐は帰って……。
「!?」
「帰らせん……私の大切な、大切なBABYを傷付けた貴様を、帰らせるかぁ……」
その前に、狩燐の足からその汚ねぇ手を放してやれ。そして、BABYと呼ぶな。
「……すみませんでした」
謝らなくてもいいのに、狩燐。
「土下座しろ!」
お前がな!!てか、
「いい加減に……しろやぁぁぁぁ!!」
「い゛っだあ!?」
渾身の一撃、松葉杖で、弁慶にダイレクトアタック。クリティカルヒットだったようで、足を抱えてもだえてます♪HAHAHA、ざまあねぇなぁ……。
「……俺、帰っていいんだよな」
「ああ」
「……仮面、持って帰るんだよな」
「頼むわ」
「……俺、ホントに帰っていいんだよな」
「もち」
「……じゃあな。お邪魔しました、おばさん」
「はい、じゃあねぇ」
おっとり手ぇ振ってるけどさ、母さん。お前の夫はこのまま放っておいていいのかい?
「……慎吾ぉ……」
キモいな。鼻でもへし折ってやろうか。
「怪我、大丈夫?」
「あ?……大丈夫だよ」
危ない危ない。害のない母さんにも冷たく当たりそうだった……。
「そう、よかったわ。怪我したって聞いた時、母さんびっくりしちゃった」
「そ。でさ、ここで話さないで、せめてリビングとか行かない?」
「ああ、そうね。俊さん、そんなところで寝てると、風邪引きますよ」
そこで眠らしたの、俺だけどね。
「慎吾ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「のわっ!」
ヤバい!反応が遅れた!それよりも、
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇ!!」
足!足、足!足ぃぃぃぃぃぃぃ!!踏んでる!踏みつけてる!!潰されてる!!
「慎吾!どうしたんだ!!」
「……お前なんて、死んじまえ!!」
顔面にグーパンチ!!容赦なしに。親父が吹っ飛んでくれたおかげで、潰されてた足が救われた。……あ〜、痛かった……。
「パパになんて事するんだ、慎吾!」
「お前こそ息子に向かって何すんだよ!」
「感動の再会を、心から喜んだだけさ!」
「怪我した足を悪化させるような事しやがって、許さねぇぞ!」
「何!?あの子か、あの子がいけないんだな!」
「狩燐は関係ねぇから!」
「今からパパ、ちょっと行ってくる!」
「地獄に逝け、地獄に!」
「パパはなぁ、パパはなぁ、……グスン」
だから、その厳つい顔で、その泣き方はやめろって言ったじゃねぇかよ!気持ち悪いんだよ!気分が悪くなるんだよ!!
「ほらほら、慎ちゃんも俊さんも、そんな所で話してないで、こっちにいらっしゃいな」
「麻理ぃ」
「……」
あの番犬ケロベロスめ。一体幾つになったら、子離れしてくれるんだ。
「慎吾」
「……なんだよ」
「慎吾ぉ」
「……なんだって」
「慎吾」
「……るせぇなぁ」
「慎吾」
「……」
「慎吾ぉぉぉぉ!!」
「近寄るな、変態親父!!」
松葉杖で、変態の顔面を強打。これやるの、何回目やら……はぁ。
「ほら、俊さん。慎ちゃんが嫌がってるでしょ?」
「嫌がってないよ、麻理」
……かなり嫌いなんだけど。嫌がってるどころじゃないんだけど。
「でも、慎ちゃん疲れてるんだから」
「そうなのか!?そうなのか、慎吾!」
「まあ、疲れてるっちゃあ、疲れてるんじゃね」
「ならパパが―――」
「今日はもう寝るわ。おやすみ、母さん」
「おやすみぃ」
「パパには言ってくれないのか!?」
「……何を」
「パパには、パパには『おやすみ』を言ってくれないのかい!」
「永遠におやすみ」
「それはずっと一緒にいてくれるって事か!?一人暮らしとか、そういう悲しい事はしないでいてくれるって事か!?」
一人暮らしが悲しいって……。それ、お前の事だろ、変態。
「死んでくれって事かな、じゃ」
「そんな悲しい事言わないで、もうちょっとパパと一緒にいてくれぇ!!」
「ヤダね。俺は寝るんだ」
「添い寝してあげるから!」
「もっとヤダ」
「子守唄歌うよ!」
「お前のは子守唄っていうか、地獄の賛美歌じゃねぇか」
子供に聞かせちゃいけない歌声だぞ。危ない電波飛ばしてるぞ。それを聞いて俺は育っちまったから、こんな人間になっちまったんだよ、クソジジイ。
「慎吾が歌ってくれるなら、天国の賛美歌だ!」
「歌わせるつもりだったのかよ」
「お前が居ないと寂しいんだよ、悲しいんだよ」
「キモい」
「慎吾!」
「!!」
だから、その厳つい顔で、急に叫ぶな!心臓に悪い!てか、急に真面目な顔になるな!!
「実の親に向かって、キモいとはなんだ!パパかダディーと呼びなさいと、会う度に言っているだろう!」
パパかパピーの間違いだぞ。ま、どっちにしろ呼ぶ気はねぇけど。
「返事は!」
「ヤダ」
「せめてさ、パパと、パパと呼んでくれ!」
「バーカパパ」
「それは、バー○パパの間違いじゃないか!?」
「気にするな、ハゲるぞ。もう30後半なんだから」
「まだきてない!まだきてないから大丈夫なんだよ!」
「そう油断してると、いつからか始まってるぞ?ハゲは気付かぬうちに始まるもんだ。……ホラ、もうすぐそこに……」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いもしない敵と戦うために、席を立ったのはいいけど、勢いあまってすっこけるのはやめてくれ。情けなくなるから、惨めになるから。
「……」
これ、チャンスじゃね?逃げるチャンスじゃね?
「どさくさに紛れて、どこへ行くんだ、My Baby!!」
「ベビーじゃねぇよ。……てか、ホントに寝させてくれよ」
もう、ホントに頭くらくらするんだよ。一人でさえウザい変態親父が3人くらい見えるんだよ。
「じゃあ、パパも……」
「来るな」
「なんで!?」
「来るな」
「いいじゃないか!」
「来るな」
「歯を磨くだけかもしれないぞ!?」
「来るな」
「じゃあ、せめて、部屋の前まで」
「来るな」
「階段のあたりまで」
「来る―――」
「慎吾ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
叫ぶな、五月蝿い。
「大丈夫か!?大丈夫なのか!?」
えっと、状況を説明すると、めまいがして倒れそうになっただけなのに、抱き上げられてしまった、瀬川慎吾13歳です。てか、軽々と持ち上げられると、ちょっと悲しいぞ……。
「ダイジョブだからさ、降ろしてくれない?」
「いや、ダメだ!立っちゃダメだ!」
「何故に」
「これ以上お前の美脚が、お前の美肌が傷つくのを見とうない!」
だから美脚ってなんだよ。てか、美肌って増えてるし。そこまで綺麗じゃねぇだろ、俺の肌。てか、どうでもいい!
「降ろせ」
「このままベッドまで運ぶから、安心しなさい」
……親父だと、安心できねぇんだけど。
「あらら、どうしたの?」
「私の大切な慎吾が、倒れ掛かったのだよ、麻理!」
「あら、じゃ早く寝かせてあげないと」
「じゃあ、慎吾を部屋まで運んでくるよ」
「落としたりしないようにしてあげてくださいね。あと、慎ちゃん、ちゃんと寝させてあげてくださいね」
……一人で歩けるのに。てか、この人が俺の部屋まで来るの、すっごい嫌なんだけど。
で、無駄に抵抗してみたものの、無駄な抵抗だったので、そのまま部屋まで運ばれてしまいまして、地獄の賛美歌を何十年ぶりに聞かされました……。