26、変な先生登場!?
漸く一日が終わり、部活の時間。剣道部と、演劇部は場所が全然違うから、あの馬鹿に襲われる……いや、出くわす心配がない。良かった、良かった。
「じゃあ、素振りから初めるよぉ」
「はい!」
う〜ん、久しぶりに清々しい返事だ。懐かしいよ、この瞬間だ。いつも怒鳴ってばっかだもんな。
「……の、前に、一つ話がある」
いつの間に!?いつの間に来たんだよ、コーチ!!あんたは忍びか!?
「今日から、俺の一緒に剣道を教えてくれる、江堂先生だ」
「どうも、よろしく」
お〜。なんかカッコいい先生が来たなぁ。女なのに、コーチよりカッケェ……。
「俺より、江堂先生がカッコいいと思った奴、外周十周な」
「なっ……」
「ん〜?どうした、瀬川。もしや、今俺が言った事、そのまんま思ってただろ?」
「いえ!そんな事は、全くもってございません!!」
全くもってございます!!てか、バッチリ当てられて、かなり心臓に悪かったんですけど!?
「まあ、いい。じゃ、一年生に江堂先生についてもらうから、頑張れよ」
「はい!」
俺ら一年、一応返事をした。
……ああ、みんなもそうだったんだな。カッコいいって、思ってたんだな……。
「私が教える剣道は、ただの剣道じゃないわよ」
え?ただの剣道でいいんですけど……。
「江堂流、最強剣道よ!」
「おぉ〜」
いやいや、みんな!?これ、感心ちゃいけなくね?江堂流って、本当にあるのかよって、疑った方がよくね?
「まずは、私が見本を見せるから」
いやいや、見本とか、そうゆうのいらないから。ホント、フッツーの剣道でいいから。
「はいっ!」
みんな〜〜〜!『はいっ!』じゃ、ねぇよ!!『え!?』だよ!!
「まずは、構える」
それ基本だよ、当たり前だよ。
……てか、先生!?なんてポーズしてるんですか!?構えるって言ったのに、脅え越し!?
「さ、みんなも!」
「はい!」
『はい』じゃねぇぇぇぇ!!!『いいえ』だ馬鹿ヤロォーーーーー!!!
やるのかよ?マジでやるのかよ、みんな。これ、どっからどう見てもおかしいだろ?剣道じゃねぇよ!?何だよこれ、負け犬か!?
「みんな、負け犬の気持ちになって、もっと腰を低く、申し訳なさそうに!」
「はい!!」
だからーーーーーーーーーー!!!これ、キョヒるところーーーーーーーーーー!!!
「瀬川君!何やってるの!?もっと、腰を低く!誰にも手出しされないように!!!」
いやいや、手出しされないよね、きっと。でもさ、何で負け犬!?
「金子君!!そこはもっと、低く!!こうよ、こう!!!」
いやいや、腰低いって言うか、もう土下座?
「はい、先生!!」
おいっ!何故に返事!?
「いいわ、その調子よ!」
いやいや、もう見るも無残な光景だよ?何これ?番長にやられて、手も足も出ないヘボですか?
「もっと深く、頭をさげるの!!」
いやいや、さげすぎてもう地面にめり込んでるよ??額に土がついてますよ??
「そう、そう!それでいいの!!もっと激しく、もっともっとよ!」
いやいや、激しすぎて、頭痛くなってきてるよね、みんな。先生、周りをよく見よう。地面に馬鹿らしく頭ぶつけてる、マヌケな連中が見えてくるから。
「もう、瀬川君!?何突っ立ってるの?あなたもやりなさい!!」
「はあ?」
あ、ヤベっ!!先生に対して、敬語使うの忘れた!!!
「Sのちょっとしたプライドなんて、捨て去りなさい!!Sを忘れて、Mとなるのです!!」
絶対、いやだぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
俺がSを捨てたら、この物語、どうなると思ってんの!?この物語から、Sという存在が消えたら、どうなるか分かってるの!?
「さ、あなたも構えなさい」
いやいや、それ、構えるって言うけどさ、逃げるためじゃね?
「……さあ、どうしたの?Sを捨て、Mとなりなさい!」
だーーーかーーーーーーらーーーーーーーーーーーーーーー!!!!(激怒)
聞けよ先生、心の中で言うけど、聞けよ?
この物語から、Sを消そうとするな。Sがなくなったら、ただの馬鹿の集まりだよ?Mが世界を制する、不気味なものにはや代わりだよ?世界中がMで溢れるよ?それ、ある意味恐怖でしょう!?世界恐慌再びだよ!!!
「ちょっと、境さん?Mっ気が足りないわよ!もっと、すまなそうな目でSを見つめ、追い詰めなさい!」
「は、はい、先生」
やらんでいいわぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
何、何なのこれ?一種の宗教ですか?コシヒクー教ですか!?
「片瀬君!いいわ!!とってもいい!!さあ、みんなも片瀬君を見習って、腰を低く、すまなそうに!!」
なんだよそれぇぇえぇーーーーーーーー!!
腰が低ければ、それでいいのか!?すまなそうにしてれば、それでいいのかよ!?
てか、片瀬ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!お前、Mだったのか?Mだったのかよ!!何故にそんなに嬉しそうにやってのける?ある意味すごいぞ!?
「みんな、基本は身に着けたみたいだから、秘伝の技を伝授するわ」
いえ、結構です!!そのまま墓まで持っていってください!!一生のお願いです!!
「私を良く見て、真似てみて」
……いや、積極的に、真似たくないんですけど。
「はい!!」
お前らはいい加減に目を覚ませ!!その目を見開け!!!目の前の現実を受け止めてはいけない!!!!目を覚ますんだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「瀬川君、ぼうっとしてないの!!先生を―――」
「もう、剣道部やめますわ」
「え?」
「さよなら、みんな。さよなら、M馬鹿先生」
「Mじゃないわ!!ドをつけて!!」
そんな叫びを背中で聞きながら、俺はその部を去って、帰宅部となりました。
……この選択、正しかったよね?