23、変質者、風呂に現る!?
いつも通りに、今日はロクな日じゃなかった。てか、もう、いい日なんて一生来ないと思うんだけど。絶対に。なんか、そんな自信がある。
「さぁて、風呂でも入るかな」
塾の宿題も終わったし、エロジジィの偵察もないみたいだし。一安心だな。
「……まさか、風呂に入ってたりしないよな、あの変態親父」
……ヤベ。なんか、不安になってきた。
自分で言うのもなんでけどさ、ウチの風呂って狭いんだよね。コ○シキさんとか遊びにきたら、風呂は大破しちゃうからね。あ、大体のうちはそうか。
「風呂風呂〜♪」
俺、結構風呂は好きなんだよねぇ。なんか、日本に生まれてきてよかったって、思えるんだよ。幸せの瞬間だよ、まさに極楽♪
「……いや、ないよな。きっとない」
まさか風呂に変質者がいるとは思わないけど、今はその危険性がある。だって、異常なまでの親馬鹿だぜ?だからって、……なぁ。
「……か、確認するだけの価値って、あるのかな?」
嫌な予感がするんですけど。だってさ、誰もいないはずの風呂場から、バシャバシャ音が聞こえるんだぜ?
え?奇怪現象?ああ、それもありえるなぁ……。だったら、エク○シスト様を呼ばなくちゃ。アレ○とか、ラ○とか、○田とか……。あ、でも、神○はキレると怖いから、ア○ンか○ビがいいなぁ。
……って、話それてる!!そして、それに自分でツッコんでしまった!!ヤベッ!!なんだか、恥ずかしい!!やめろ!撮るな!!おい、写メはやめろって言ってんだろぉがぁー!!
「……んな事はどうでもいいから、まず、内部の調査だな」
内部っつっても、風呂だからね。いたって普通の風呂だからね。
「……」
ドアを開けてまず目に入ってきたもの。
1、変な奴
2、馬鹿っぽい奴
3、気に食わない奴
4、大嫌いな奴
5、なぜか服着たまま風呂入ってる能無しの奴
6、溺れかけてるのに、なんか嬉しそうなMな奴
以上っ!!
バンッ!!
ドア閉めたんですけど、アレは幻覚ですよね。だって、この家にいないはずの人物ですから。いや、ゴキブリじゃないですよ。下弦でもありません。あいつは、どちらかというとSです。もっと身近で、底なしの馬鹿です。
「ないない。これはああであって、こうであるから、そういう結果になって、これはない!絶対に、ない!!」
そうそう、アレは幻覚だよ、慎吾。何を想像してんだ?日頃の疲れが、今ここに?じゃあ、今日はゆっくり休むか。そうだよな、たまには体に気を使ってやらないといけないもんな、慎吾。そうだよな、慎吾。
「アレはきっと、幻覚だ。いや、きっとじゃなくて、幻覚だ」
もう一度、ドア、オープン!!
「ギャバッ!ボハッ!クハッ!お、おぼれふっ!!おぼれふぅ〜!!」
もう一度、ドア、クローズ!!
お〜い、また見えたぞ、幻覚。しつこいぞ、幻覚。え?幻覚?幻覚のくせして、生意気に話してた気がする。てか、声を発してた。
「いやいや、いやいや!!ないないなぁ〜い!!これはそうなって、これはこうなってそれはこっちにきて、これがこうなってそうなるから、結論から言うと、それは絶対にない!!」
「ヘ、ヘルフ!エルフ・ミー!!」
エルフ!?なんじゃそりゃ!?
てか、また幻聴が聞えるぞ。落ち着け、落ち着くんだ慎吾。ここで焦ってどうする。焦るな急ぐな呻くな喚くな。とりあえず、落ち着くんだ。
この家は、誰の家だ?
俺の家だよな。瀬川家だよな。
この家は、旅館じゃないよな?
そうだよな、フッツーの家だよな。
この家にいるのは、誰だ?
俺と母さんと変態クソマヌケ親父。三人家族。ミッチェルさんは、所在不明。だから、この三人以外誰もいないよな。
ここは、銭湯じゃないよな?
そうだよ、当たり前じゃないか。フッツーの家に銭湯なんて、あるわけねぇよな。
「って事は、これは幻覚&幻聴って訳だ」
どうしたんだよ、慎吾。そんなに疲れてるのか?そうか、そうか、そうなのか。じゃあ、今週の休日はゆっくり過ごそうな。なあ、慎吾。
人のうちの風呂に、森―――。
「たふっ、たふへへっ!たふけふぇ、ダーウィン!!」
ダーウィン!?なんか違う!?なんか違うぞ!?
「ダーーーーーウィーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
いや、ないよな、ないない。今日は疲れてるみたいだ。もう、風呂はいいから、寝ようか。朝早く起きて、シャワー浴びればいいんだもんな―――。
「そこにいふんでふぉ!?だふふぇふぇふぉ!ダーウィン!!」
溺れてるわりには、はっきりダーウィンって言うな。
溺れてる?誰が?
「愛しのハニーふぁ、おフォれふぇルふぁフォ!?」
「何でここにいるんだぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
ドアをバーン!ってやって、中にいないはず(いるんだけど)の奴を睨んだ。
「あふぁ!ダーウィン!!」
「ダーウィンじゃない!!瀬川慎吾だっ!!」
「たふっ、たふ、たふ!」
「んだよ!出てけよ!どこから入り込みやがった、このストーカー!」
「たふっ、たふぇっ。たふぇふ!!」
「何言ってんだか、さっぱりわからねぇよ!てか、何人の家で服着たまま風呂に入ってんだよ!!」
「着衣水泳よ!!」
「人の家でやるなぁーーー!!」
やっと立ち上がったキモ女を、再び浴槽に静める。いっそ、このまま殺してしまおうか。
「おまえさぁ、礼儀とか親から教わってねぇのかよ!普通、人の家で服着たまま風呂に入るか?靴まで履いて!?汚ねぇ事すんなよ!」
「ブクブク!!ブッククゥ!!」
「んだと!?屋根裏から忍び込んだって?お前、プロの空き巣かよ!!」
「ブククククブク!」
「空き巣じゃない、愛の空き巣だぁ!?ウゼェんだよ、お前のその一言一言がムカつくんだよ!!腹立つんだよ!!」
「ブクッ!ブクク!ブ、ブブブクブクククククブ!!」
「ダーリンのその一言一言が生きる糧になるだと!?ダーリンじゃねぇって、何度言わせたら分かるんだよ、ストーカー!!」
「ブブクク!ブッククッブク!」
「恋の仕方が陰湿なだけ?それがストーカーがよ、馬鹿野郎が!!!」
浴槽の底に頭がぶつかるまで沈めて、何度も頭を強打する。これは、虐待ではありません。教育です!!
……はい?何で『ブクブク』としか森野は言っていないのに、話ができるかって?勘です!!ていうか、なんていうか、大体予想ができるんです!!いやだけど、非常にいやだけど!!好ましくないけどっ!!
「プッハーー!」
いくらなんでも殺すのは可哀相な気がしたんで、沈めるのをやめてみる。
「やっぱりダーリンだったのね!美咲、ずっとここで溺れて待ってたんだゾ」
「……よく死ななかったな。死ねばよかったのに」
「最後に不吉な言葉が聞えた気がするんだけど、美咲、それでも嬉しいです!」
「……何で死んでくんなかったかな?何で生きて、俺の前にいるのかな?」
「……え、あの、ダーリン。私を助けに来てくれたんじゃ―――」
「だぁれがお前なんか助けに来るかよ!!馬鹿クソ変質者!!!」
「変質者じゃないわ!!ちょっと、相手の行動が気になっただけ!!」
「それで十分だよ、十分ストーカーだよ!!」
「ストーカーじゃない!ダーリンの愛のキューピットよ!」
「キューピットだぁ?どこが、どの変が!?」
「私の存在、す―――」
「お前を母なる水に還してやるよ!!」
「ブククゥ!!」
「フハハハハハハァ!!さあ苦しめ、そして喘ぐがいい!!」
「ブクゥ〜!!」
「ハハハ!!苦しめ、苦しめ!!」
……かれこれ十分くらい沈めて。
「ブバッ!!」
「これに懲りたら、二度と家の敷地を踏むな」
「シキチ?」
「んなのも分からないのかよ!」
「だって、あたしには、ダーリンしか見えていないもの!!」
「じゃあ見るな、二度と見るな、俺の前に現れるな!!」
「イヤよ!!それじゃ、死刑みたいなものじゃない!」
「死ね死ねぇ!!お前は地獄に行って、魔王とチークダンスでも踊ってろ!!」
「踊るんなら、ダー―――」
「はぁい、何か言いましたか?」
「……言ってまふぇん」
「よろしい。では、さっさとお家に帰りたまえ、子羊君」
頬をつねって伸ばした。いい気味だ、このままずっと伸ばしといてやろうか。
「……ひとふ、いっへもいいへふは?」
「何だ?」
「……愛してまふ」
「……」
「……(照)」
「なぁに(照)だよ!何照れてんだよ!何頬赤く染めてんだよ!!死ね!お前は一度死んで、人生そのものをやり直せ!!」
「いや!!ダーリンと離れたくない!!」
「積極的に離れたいんですけど!心の底から離れたいんですけど!」
「やぁね、そんなに照れなくてもいいじゃない」
「照れねぇよ!てか、お前は出てけぇぇぇぇ!!」
殴ったり、蹴ったりして、とりあえず大人しくなった森野を、家の外に放り出す。
「いいか、二度とココには来るなよ!分かったな!!」
……もう、家、引っ越していいですか?毎晩こんなんじゃ、生きていく気力を失います。誰か、助けてください……。