22、ドメスティックバイオレンス!?
「頂きます、慎吾」
「……俺を食おうとするな」
箸を持って引っ付いてくる変体親父の弁慶を、容赦なく一蹴り。
「痛いぞ、慎吾」
涙声で、親父はそう言った。ざまぁみろ!この、クソ変態が!!
「美味しいなぁ、慎吾」
「……そうだね」
「うまいなぁ、慎吾」
「……さっき似たような事言った」
「幸せだなぁ、慎吾」
「……俺的には不幸だよ」
「幸福だなぁ、慎吾」
「……だから、似たような事言ってるっつの」
「このテレビ、面白いなぁ、慎吾」
「……ニュースのどこが面白いんだよ」
「このテレビ、映り悪いなぁ、慎吾」
「……買い換えろよ。てか、そこまで悪くねぇだろ」
「慎吾」
「……んだよ」
「なぁ、慎吾」
「……んだっての」
「慎吾、慎吾、慎吾ぉ」
「あ゛あ゛〜!!ウザい!!ドメスティックバイオレンス!!」
持っていた茶碗を、実の親(馬鹿な父親)に向かって一球投げました。もう、ストライクっすね。だって、顔面にヒットだもん。あ、それはちょっと違うか。ま、いっか。
「どうしたんだい、急に。そんなにパパの事が好きなのか」
「……誰が好きになるか、こんな親父」
「そうか、そうか。そんなに好きなんだな。なら、今晩は一緒に寝ようか」
「……やめてくんない?マジで、やめてくんない?部屋に入った直前に、参考書投げつけるよ?」
「参考書?ああ、愛のか?」
……何なんだよ、この親父。ちょっとした森野だぞ?ていうか、森野っぽいぞ。森野ってるぞ。
「……そんなんじゃねぇよ。普通の参考書だよ」
「普通の?普通って何だ?愛の参考書がブナンだろ?」
どこが、どのへんが、どのように!何でそうなるんだよ、どうしてそっち方面へレッツ・ゴー!!何だよ!!何がどう狂ったら、そんな方向へもっていけるんだよ!!
「じゃあ、パパとその参考書、開こうか」
「……ゼッテェに、イヤだ!!近付くな触れるな見つめるな!!」
「何でだい、慎吾。パパはこんなにも慎吾の事を愛しているのに」
「……オーバーなんだよ、全てが。もう、手に負えねぇんだよ」
「そうか、パパの愛情がまだ足りないんだね。よし、じゃあ明日は学校を休んでドライブに行こう。気分転換っていうのも、必要なんだぞ」
「……じゃさ、早く会社に帰れ。そして、俺が一人暮らしになるまで帰ってくるな」
「何!一人暮らしだと!!許さんぞ、パパはそんな事認めません!!」
「……いいよ、勝手に出て行くから」
「そんな事はさせないぞ!ハリー・○ッターみたいに、鉄格子で窓を固めて、何重も鍵をつけてやる!!」
「……いいよ、ロ○みたいな友達に助けてもらうから。その家で、仲良く生きていくから」
「駄目だよ!!パパ、絶対に許さない!!パパ、泣いちゃうよ!!!」
「……泣け泣け、泣けばいいさ。思う存分泣いて、ミイラと化してしまえばいい」
「そんな冷めた事を言うんじゃない!!パパ、本当に泣いちゃうん……グスッ」
体ゴツイわりに、何その泣きかたぁぁぁ!!ムカつくんですけど、異常なほどにはらわたが煮えくり返るんですけど!!
「あ゛あ゛〜!!もう!!!!ドメスティックバイオレンス!!!!!!」
鮭を丸まる一切れ、無理矢理そのウザい口に突っ込んでやりました。ああ、俺の好物が……。こんな事に、無駄に使うんじゃなかった……(泣)
「どうした、慎吾?泣いているのか?」
もう、俺の心は号泣だよ!崩壊寸前だよ!!ベ○リンの壁だよ!!
……あ、良く考えれば、もう崩壊してた、それ。
「泣くな慎吾!パパが、抱っこしてあげるから!!」
「やめろ!寄るな!!このクソエロジジィ!!」
顔面にグーパンチ。あ、遂にやっちゃった。ノックアウトだよ、もう真っ白に燃え尽きたよ。
あ、そうそう。一つだけ言っておきます。俺は、産まれた頃から反抗期です。親父に対して。多分、これからもそうだと思うんで、その辺、覚悟お願いします。
「効いたぞ、慎吾の愛のムチ。こんなにもパパを愛してくれてたなんて、パパ、知らなかったぞ」
そりゃそーだろーな。だって、一ミクロンも親父の事愛してないからな。現在進行形で。
「……愛してねぇし。……ご馳走様でした」
「もう行っちゃうのか、慎吾。まだ、パパと一緒にいたいだろ?」
「……いや、いたくねぇよ。どちらかと言えば、とっととこの部屋を去りたい」
「嘘をついても駄目だぞ?」
「……嘘なんてつかねぇよ。吐きたくもねぇよ」
「本当はもっと一緒に居たいんだろ?」
「……だから、いたくねぇえっての」
「分かってる、分かってるよ、パパは。離れたくないんだよ、慎吾!!」
「それって、お前自身の事じゃねぇかぁ!!!!!」
「パパをお前呼ばわりか!せめて、パピーと呼びなさい!!もしくは、パパで!!」
「イヤに決まってんだろ!!この、クソエロ変態ホモ親父!!!」
洗剤で泡立った水をぶっ掛けて、抱き付いてきそうになったモンスターを撃退しました。てか、退治しました。
「いいか、よく聞けよ、キモ親父!俺の部屋に一歩でも入ってみろ、二度と口利いてやんないからな!!」
ドタドタと親父の横を通って、リビングのドアを開ける。その時、足をつかまれた。
「放せっ、薄らハゲ親父!!」
「ハゲてない!パパ、まだ健康だよ、毛根も、体も!」
「精神的な面がハゲてんだよ!!もう、国民的アニメのサ○エさんの○平さん並なんだよ!!」
「そんなのいやだぁ!!イヤだけど、放したくないぃ」
「甘えた事言ってんじゃねぇよ!それでも副社長かよ!大人かよ!!」
「永遠の18歳だよぉ!!」
「それは妄想だろ!!!」
「行かないでくれよぉ!!慎吾ぉ!!!」
ズルズルと廊下まで引きずってきて、階段に頭をゴツゴツぶつける。でも、離れない。
畜生!このクソ親父め!!いい加減にしねぇと!!塾の宿題ができねぇんだよ!!
「もう、俊さん。慎ちゃんが困ってるじゃないですか。放してあげないと、本当に口利いてくれなくなっちゃいますよ?」
「麻理〜。どっちもイヤだよぉ」
おお、神様!!どうか、この馬鹿を説得してください!!
「なら、どっちか一つ選ばなきゃ。ね?」
ね?って、それは俺に対してなのか?そうなのか?いや、この親父だよな、うん、きっとそうだよな。
「ね?慎ちゃん」
「え!?」
「ウフフ。そんなに驚かないで。どっちか決めてくれたら、俊さん、許してくれるよね?」
いや、あの、許すも何も、かなり重度に許したくないんですけど。できれば、この世から消えて欲しいかも。
「じ〜ん゛〜ご〜」
「触れるな!それ以上、這い上がってくるな!!」
引っ張られて悲鳴を上げている服を救うため、汚いあの手を振り払ってやりました。
「い゛がな゛いでぐれ゛〜」
濁音多すぎ!!逆に読みず……じゃなくて、言い辛い!!
「さぁ、俊さん。放してあげたんですから、また口を利いてくれますよ」
「ぼんどうに?」
「ええ、慎ちゃんは、根は優しい子ですから」
嬉しいけど、母さん。それは間違ってるよ。自分で言うのもなんだけど……。性根、腐ってるからね、俺。もう、ボロボロだよ?真っ黒だよ?
「じゃあな、慎吾。また、はなじてづれよ」
……まだ、泣いてる……。
「じゃあね、慎ちゃん。あ、寝る時は、歯、磨くのよ」
……それよりも前に、風呂はいるからね、母さん。そして、寝る時に歯は磨かないよ。寝る前に、歯は磨くけど。
「慎吾!アイ・ラブ・ユーー!!」
「……死ね」
そうして、子離れできないクソッタレジジイは、母さんに連れられて大人しく部屋へ戻っていきました。一件落着ぅ……なのかな?