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第九話 ご近所付き合いをしましょう(後編)

 メイルが着替えたことを確認した私はメイルが履く靴を用意してそのまま玄関から外に出た。もちろん、お隣さんの鍋も忘れずに。


「それじゃあ、私先に出ているから、用意ができたら靴を履いて外に出てきてね」

「合点承知。任せておけ」


 ところどころメイルは古臭い言葉遣いを使ってくるなあ……。何だろう? もしかして異世界でも日本のことって微かに広まっているのかな? ただその知識は若干古いようだからアップデートしてほしいものだけれど。

 メイルが靴を履いて出てきたのを見て、私は隣の部屋へと向かう。

 ドアチャイムのボタンを押して私は深呼吸を一つする。普段ならそんなことはまったく必要ないわけだけれど、私としては背後に立って視線を送っているメイルのことが非常に気になる。失敗したら、面倒なことになるからだ。


「どちらさんです?」


 少しして声が聞こえた。紛うことなきお隣さんの声だった。


「大槻です。昨日いただいたごはんの鍋を返しに来ました」

「……ああ、大槻さんですか。別にそんな急がなくていいのに。解りました、ちょっと待ってくださいね」


 そう言ってインターホンは一方的に切られた。

 少し待つと、話していた通りドアの鍵が開けられ、中から大槻さんが出てきた。

 少しだけあわてているように見えた彼だったが、特に私は気にすることも無かった。


「お待たせしました」

「いえいえ、すいません。突然来ちゃって。これ鍋です。ごちそうさまでした。いや、ほんとう美味しかったですよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 大槻さんは照れ隠しのためか頭を掻いた。


「……そうだ。実はもう一つお話しておきたいことがあって。今日から私の家に友人が居候することになったんですよ」

「居候……。ああ、その後ろに居る方です?」

「ええ、メイルって言います」


 自己紹介を受けたメイルは頭を下げた。それを見て大槻さんも頭を下げる。


「そうですか。……僕の名前は佐藤エイジです。実はうちにも今日から居候の人が来ていて……」

「どうも、ルイスです」


 そう言ってやってきたのは男物のTシャツを着た女性だった。


「遠い親戚なんですよ。まあ、二世か三世なんですけれどね。それはいいとして、ただ一人暮らしはあまりさせたくないという親の命令でこういうことになっちゃって。まあ、仕方ないことですよね。だからしぶしぶ了承したというか」

「ははあ。大変ですよねえ……そういうのって」

「いやまったく。食費が要は倍になりますからね」

「ほんとうですね」


 私と大槻さんとの会話の間、メイルはずっと大槻さんのほうを見ていた。

 何か気になる点があるのだろうか。……出来ることなら目立つ行動はとってほしくないのだけれどなあ。


「それじゃ、私はこれで」


 適当なタイミングで切り上げて、私は頭を下げた。


「いえいえ、鍋お返しいただいてありがとうございました。それでは」


 そう言って大槻さんも頭を下げると、ゆっくりとドアを閉めた。

 それを見て踵を返し、私は自分の部屋へと戻っていく。


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