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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
小学校 編
9/43

ご拾得は計画的に

※児童虐待についての表現が出て来ます。苦手な方はご注意下さい。

小学生になりました。

当然、新入生の顔ぶれの中に誠志郎は居ません。

犬のように纏わり付く奴が居ないと、意外と淋しいものです。

放胆な少年を思い出して少々しんみりしましたが、今は出会いの季節、新しいお友達を作ろうではないですか。

滑り出しは順調、大人しいグループに入って、陰ながらクラスの安全に目を配ります。

近所の公園でも似たような立ち位置で、同じ位の年の子どもたちが遊んでいるのを、木陰で読書しながら見守るのが基本スタイルになっています。

まあ、たまに混ざって駆け回ったりもしていますが。

ええ。先陣を切っているだなんて、そんなことはありませんよ。


そんなある日、午前授業仲間と公園で遊んでいた所、隣近所では見かけたことのないベビーピンクの軽自動車が、公園入口に横付けされました。

すわ不審車か?

さり気なく注目していると、運転手が身を乗り出して助手席の扉を開きます。

突き飛ばされるようにして、小柄な体が転がり落ちました。

中からヒステリックな女性の声が投げつけられます。


「夕方まで、ここに居ろよ!」


言うが早いか、突き落とされた子どもが起き上る前に扉は閉められ、アクセル全開で遠ざかってゆきます。

僕は駆け出そうとする体を必死に宥め、息を整えました。

不審そうに聞いてくる友達には、離れて遊ぶようお願いしておきます。

うずくまったまま車を見送った人物はもそもそと起き上り、車道側を向いて公園の銘石に寄り掛かり座り直しました。

僕の座る場所から見えるのはサンダル履きの剥き出しの足だけですが、枯れ木のように色が悪くて細いのが分かります。

桜が散ったとはいえ、まだ肌寒い日もあるのに、足元だけでも真夏仕様です。

はやる心を抑え込み、もの問いたげな友人達に断りを入れてから、気付かれないようにそっと近寄って、より詳しく観察することにしました。

まずは先に目に入っていた足ですが、サンダルはボロボロ、足全体の色が悪いのは血色が悪いのもあるのでしょうが垢じみているからのようです。

眩暈にも似た怒りが込み上げてきますが、落ち付け自分。

石の陰から覗いた肩も細く尖っています。

その肩を覆っているのは、Tシャツ?と聞きたい位に襟や袖が擦り切れ穴だらけの薄汚れたボロ布です。

視界がぼやけるのを無理やり手早く瞬いて、キッズ携帯(※1)で写真を隠し撮りし、観察を続けます。

黒ずんだ緑の髪はザンバラ、ボサボサ、ベタベタ……

もう、言葉がありません。

衝動に突き動かされて、気付いたら銘石に凭れる子どもの腕を引っ張っていました。

あからさまに子どもの体が跳ね上がります。

ああ、驚かせてしまったようです、ごめんなさい。

僕は一旦手を離し、体を守るように丸める子どもと、目線を合わせるために屈みました。

が、目は合いません。

小さく「ごめんなさい」と呟きながら、おどおどと視線を彷徨わせる仕草まで、涙を誘います。


「寒くない?」


最大限、無邪気に優しく聞こえる声で話しかけました。

数秒遅れて、痩せこけてカサカサな唇が動きます。


「……べつ、に……」


不明瞭な言葉を聞きながら、今度はそおっと手を伸ばし、威嚇する肘に触れました。

びくりと震えましたが、振り払われません。

それを良いことに、体温を分け与えるイメージで少し擦ってあげます。

骨と皮だけのカサカサな感触に胸が詰まりました。


「冷たい、よ?ね、服を貸してあげるから、家へおいで」

「でも、ママが、ここにいろって、いった」

「大丈夫。家は公園のすぐ近くだから。あのピンクの車が来たら、すぐに分かるから」

「おこられ、ない?」

「怒られないよ。怒られても、僕がちゃんとお話してあげる。僕の名前は樹里子。君のお名前は?」

「……キィコ……?」

「き・り・こ。君のお名前も教えて?」

「こーたは、こーた、です」

「コータ君。よろしくね」


にこっと笑いかけて、ポケットに入っていた蜂蜜キャンディーを口に入れてあげると、萌黄色の瞳を見開きます。

それから慎重に口の中で転がし、「あまい……」と赤ちゃんのむし笑いのような顔をしました。

この子は……笑い方すら知らないようです。

意識が飴にいっている隙をついて、「笑顔の記念写真」と言いながら正面から一枚頂きます。

そして、今度はそっと引き寄せながら立ち上がると、よろける様に付いてきました。

足に力が入らないのか覚束ない足元は三歳児のようですが、受け答えから言って四~五歳位でしょうか?それにしても細く小さいです。

抱きかかえる様にして公園近くの我が家へ連れ込みました。

カサカサ具合から脱水症状も懸念されるので、ソファに座らせた少年に、室温の経口補水液をマグカップに注いで与えます。


「ゆっくり飲むんだよ。足りなかったら、これ飲めるだけ飲んでいいから」


ゆるく締めたペットボトルをテーブルに置いて示し、僕はお風呂を沸かしにリビングを出ました。

ぬるめの温度に設定して、タオル類はお風呂場にストックされているのを確認してから、着替えを取りに自室へ戻ります。

下着はおろし立てで無地の物を、ウエストゴムのズボンとトレーナーはシンプルでユニセックスな色を選択。

それらを脱衣所に置いてリビングに戻ると、補水液を飲み終えたコータは、ソファの上で膝を抱えボンヤリと窓の外を見ていました。

視線の先には公園の入口があります。

せり上がってくる何かをグッと飲み下し、


「お風呂で温まろうか」


そう声を掛けてから近づきます。

ゆるゆると僕を見上げて、少し悲しそうにクシャリと顔を中央に寄せカクンと頷きました。


※1キッズ携帯

防犯目的で渡される子ども用携帯。ワンタッチ発信キーで、あらかじめ登録した連絡先四件に簡単に電話ができる。四件以外へは最大十件登録できる電話帳から簡単に発信でき、電話帳に登録していない相手への発信はできない。また、視覚的に状況を伝えるためのカメラ機能もあり、画像は日時付きで自宅のパソコンへ自動配信される。オプションで、子どもの心拍数や体温・発汗を計測し、体調の異常や犯罪など緊急時の自動通報まで設定できる。

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