暴れん坊園児②
ようやくプロローグ時の主人公の口調に追いつきました。
そういう仕様です。本当です(涙目)
その後、暴れん坊改め黄田誠志郎が大人しくなったと、先生方には大いに感謝されました。
反面、園長先生と両親には色々とこっぴどく叱られまして……階段で大立ち回りをして、ずいぶんと心配させたらしいのです。
その点だけは反省だけれど、僕にも譲れないものがあったんですよ。
当の少年は、面倒見が良くなったことを、方々から褒めちぎられご満悦。
以来、なぜか懐かれました。
毎日のように、「きょうのおれ、どうだった?」と犬のように纏わり付き、聞いてくる始末。
甥っ子を思い出して、ちょっと遠い目をしてしまったのは内緒です。
一度手がけたからには、でき得る限り責任を持たなくては。
小利口にまとまらないように配慮しつつ、思い付く限りのアドバイスをしてあげましたともさ。
『いのちだいじに』の次のステップは『こせいだいじに』です。
良い男に育てよー。
一方で、この一件によって僕は園内で「キレたら怖い人」と認識され、一躍、園内ヒエラルキーの頂点に祭り上げられました。
主に女児からは乱暴者を成敗した英雄として、男児からはボスを操る陰の支配者として。
不名誉極まりない話です。
閑話休題
誠志郎相手の「逆・紫の上」計画を密かに始動させて、一学期が終わりました。
幼稚園最後の夏休みを満喫し始まった二学期、秋の大イベントである運動会がやってまいります。
暴れん坊の面目躍如の場です。
そりゃあもう、生き生きと走り回っていました。
逐一、僕の所へ「いまのかつやく、みていたか?」と来るのには辟易しましたが。
数度目の御用聞きは、お昼時に来ました。
なぜか親を引き連れて……
「いつも誠志郎くんがお世話になっています」
そう丁寧に頭を下げてきたのは、おっとりとしたご夫妻でした。
僕の両親が、恐縮しきりで受け答えをします。
「その節は……」
「いえいえ、こちらこそ……」
「お陰様で……」
「とんでもない……」
大人のお約束な遣り取りを尻目に、
「なーなー、キリ。それ、おれにくれ」
空気を読めないお子様が、僕の手の中で乾き始めているサンドイッチに、物理的に喰いついて来ました。
「あぁ!こら、誠志郎くん。お友達が食べている分を取っちゃ、駄目だよ」
お父様がやんわりと注意している間に嚥下まで終了させ、次の獲物を見定めて手を伸ばしていました。
僕は無意識にその手の甲を、バシッと叩いてしまいます。
「一旦、落ち着きなさい」
固まる周囲を放置して、まずはキョトンとしているバカ猿に、座る場所を指差します。
猿は猿で、素直に示された場所に座りました。
「ほら、手を拭いて」
お絞りを渡し、誠志郎が拭っているのを横目で確認しながら、水筒のお茶を紙コップに注ぎます。
「指の間を拭いた?」
コップを受け取ろうと伸ばされた手を避けて指摘しても、あくまで従順に従います。
僕が納得する仕上がりになってようやくコップを渡され、受け取ってから僕の顔を窺って来ました。
「『いただきます』でしょ?」
促せば、満面の笑みで復唱しました。
僕が頷くのを見て、一気に飲み干します。
よっぽど喉が渇いていたんですね。
二杯目を注いであげていたら、両親‘Sが、ぽかんと僕達を見ていました。
「先に食べちゃ、いけませんでしたか?」
コテンと首を傾げると、うちの両親は苦笑いを、誠志郎のご両親は感涙に咽びながら、両家合同昼食会が始まりました。
誠志郎のご両親は、ちょっとキャラ崩壊してしまったのか、食い気味に切々と語られます。
『元気の良過ぎる男の子』の扱いが分からず、持て余していた事。
親として情けなく思っていた事。
ある日を境に急に落ち着きが出始めて、とても戸惑った事。
聞くと、幼稚園で『しんゆう』が出来たと言われ、その子のおかげに違いないと思った事。
連絡帳にもそのような旨が書かれていた事。
是非とも会ってお礼を言いたかった、と締め括られた。
ご両親と僕の両手が団子状態になりながらのシェイクハンド付で。
分からないでもありません。
脊髄反射の誠志郎と、反芻してから行動するご両親。
肉食獣と草食系ご夫婦。
火の性と木の性。
相いれない上にテンポが合わせられず、噛み合わなくても仕方がないことだと思います。
ご両親には、とにかく動作を中断させ、意識を引き付けるために目を合わせてから、「分かった」と言うまで説明する事をお勧めしました。
話題の中心が自分であることに、最初は落ち着きなく聞きながらご飯を食べていた誠志郎ですが、満腹になった辺りから飽きてきたらしく、人の膝を枕にお昼寝タイムに入りやがりました。
顔も手もソースなどがベタベタのままでしたので、仕方なくおしぼりで拭ってあげてからミニ毛布を掛けてやると、幸せそうに寝腐ります。
その様をダブル両親に生温かく見守られたのは、言うまでもありません。