一年H組の、気になる彼等
説明回です。
分かり辛ければ、ご一報下さい。
式の後、体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下に出次第、携帯を取り出して電源を入れます。
『あとで集合』
マナー違反は承知の上で、歩きながら関係各所へ端的な招集をかけました。
この場合は誠志郎と雅臣さんと赤原先輩。
勤務時間の曖昧な雅臣さんには申し訳ないけれども、今日だけはお付き合い頂きましょう。
彼らも想定していたのか、直ぐに了承の返信がきます。
僕の前を歩く、受け持ちの生徒たちを教室に先導する人も、振り返ることなく携帯端末を操作し、直後に僕の携帯が震えました。
『体育館裏に来い、ではなくて良かったよ。優しいね、キリィ☆』
あー、その手がありましたか。
雅臣さんからの返事に、同業者が披露した鉄板ネタを見て歯噛みするお笑い芸人のような気持ちになりました。が、天弓高校って体育館は二つありますが、溜まり場的な体育館裏って存在しないんですよね。
どういうことか説明する前に、まずは校舎の配置をざっくりと。
正方形に近い学校の敷地はぐるりと塀に囲われていて各辺が東西南北を向いており、東側に正門、西側に裏門、南北に非常用門が設けられています。
その敷地を南北に三分割し、北部分に東から駐車場・駐輪場とグラウンド、中央部分に正門と第一体育館と校舎、南部分にプール・第二体育館・テニスコート・裏門と配されています。
正門と裏門の横には守衛室があり、だいたい三十分置きに守衛さんが塀沿いを巡回するので、体育館や校舎裏は守衛さんの通り道となり、溜まり場としては適さないと言う訳です。
そんな通路的な場所で待ち合わせとか、笑いを取るためだけに、そこまでするつもりはありません。
ついでですから、入学前に軽く案内された校舎も説明しましょうか。
学び舎の外観は白壁の四階建で、正面には三角屋根の時計台が乗っています。
建物を上から見るとほぼ口の字型をしていまして、敷地と同じくそれぞれの面が東西南北を向いています。その東側が正面玄関(一階に事務室・購買、二~四階は渡り廊下)、西側は渡り廊下(一階のみ調理実習室が併設)、北側と南側の一階部分が管理・特別教室、南側の二~四階がHR教室、中央に中庭があります。
中庭の西側は茶室のような和作法室と書道室があり、東側は校舎が半月形にせり出していて、一階は多目的ホール兼テラス、二・三階は講義室、四階が生徒会室となっています。
閑話休題。
紫ノ村先生を先頭に、お行儀よく列をなした三十六名が到着したH組は、一年生の最後のクラスということで、HR棟最上階の一番奥にありました。
ちなみに二年生は三階、三年生は二階です。
教室に入って廊下側から男子女子と交互に並び、出席番号順に一列六人、男女合わせて六列に着席していきます。
なので、僕の右は男子の一番、左は男子の七番の席となります。
嘘臭い笑みを湛えて教壇に立つ人は、全員が腰を落ち着けるのを見計らって自己紹介を始めました。
「体育館でも軽く挨拶しましたが、改めまして、君達の担任になった紫ノ村 雅臣です。担当教科は社会科、二十四歳、独身、教員三年目で学級を受け持つのは初めてです。新任と新入生……初めて同士になるけれども、行き届かないことの無いよう努めるので、意見・要望があったら忌憚なく、どしどしどうぞ。思い出深い良い一年になるよう、お互い頑張りましょう。よろしく」
……意外と簡潔でまともな挨拶ですね。
続いて男子の出席番号一番から、名前と出身校と一言の簡単な自己紹介をしていきます。
目を引いたのは、僕を二度見した『家田 駿介』君ではなく、いかにもスポーツ少年な『上野 翔太』君でもなく、三番目の『加藍 透也』君。
眼鏡を掛けた艶やかな黒髪の少年ですが、髪は光に透けると青にも見えるので黒に近い藍色のようです。
姿勢がとても良く、背筋に余計な力が入っていない自然体は「凛とした」というより「ひっそりとしなやかな」感じで、例えるなら優美な雅人形のよう。や、男ですけどね、彼は。
なにより注目すべきは、少々野暮ったい感のある太縁眼鏡の奥の瑠璃色の瞳です。
ハッとするほど美しい深い色もさることながら、凪いだ湖面のような穏やかで知性溢れる眼差しが……
正 統 派 眼 鏡 男 子 キタ―――――(゜∀゜)―――――!!
って感じで、もう、もうっ!!
静かに滾っていたら、ちょっと(?)おちゃらけた自己紹介に意識を引っ張られます。
「はっちばーん、橙 陽人、鳳中出身。挨拶代わりに、オレの歌を聴けーっ!」
はいぃ?
弾かれたように左斜め後ろを振り返ると、机の上に飛び乗った明るいオレンジ色の髪の少年が、ノリノリで歌い始めます。
と、そこへ……
パァン!
乾いた音が、教室の隅まで響き渡りました。
時が凍りついたように静まり返り、机上の彼に集まっていた教室中の唖然とした視線が、一斉に正面に戻ります。
出席簿で教卓を叩くという、たった一つの動作で生徒の注目を取り返したのは、我らが新米の担任でした。
絶妙な力加減でしたね、雅臣さん。
これで学級の主導権、ゲットだぜ!
僕の心の中の称賛など誰に聞こえるはずもなく、穏やかな声だけが場を支配します。
「橙君、机から降りようね?」
ニィッコリとした微笑みに押されて、クラスメイト同様キョトンとしていた橙君は、ニッと不敵に破顔して机からひょいと降り、
「とゆーわけで、よろしくー!」
悪びれることなく懐こい笑顔で締めくくって、すとんと座りました。
なかなか大物ですねー。
感心していたら、その彼とバチッと目が合います。
にこっとされたので、へらっと返しました。
「自分、どーして女子の列に座ってるんー?」
悪戯っ子の笑顔で、僕の左袖を引きながら小声で聞いてきましたけれど……
うーん、どこから突っ込めばいいんでしょう、ねっ?
取り合えず、
な ぜ い き な り 関 西 弁 風 ?
2015.2.5
・サブタイトル『一年H組の、気になるア・イ・ツ・ら』→『一年H組の、気になる彼等』に変更
・最後の一文を『なぜに関西弁風?』→『なぜいきなり関西弁風?』に変更
・雅臣さんの自己紹介に『担当教科は社会科』を追加




