高校入学式
※月経に関して、個人的な見解を述べています。特定の人物を誹謗・中傷する意図は全くございませんが、ご不快に思われる方はご注意下さい。
精神的にも脱皮した卒業式を経て、明けて四月、僕は高校生になります。
麗らかな天候に恵まれた今日、高校の入学式です。
真新しい制服に袖を通して鏡を見れば、白シャツに明るい紺色のブレザーを羽織り、校章がヘッドの臙脂色のループタイを下げ、グレー地に紺と臙脂のタータンチェックのボックスプリーツスカートをはいた僕の姿。このループタイは校章さえ中央に据えれば、ただ垂らしても蝶結びにしても良いらしいです。
それにしても、上衣が男女共通なので違和感が少ないですね。
相変わらず短い青髪と平原な胸元に、溜め息を吐きそうになりましたが飲み込みます。
窓の向こうは、満開の桜が良く映える澄んだ青空。
ハレの日に、辛気臭い吐息は似つかわしくありませんよね。
入学手続きに伴う制服や指定ジャージ、教科書などの購入は中学ごとに済ませてあります。
クラスは貼り出されず、入学式の受け付けの際、座る位置を教えられて判明します。
なので、本日初めて式場である体育館に、新一年生たちの顔が全て揃います。
僕は比較的早めに会場入りし、クラスの誰よりも早く一年H組の女子の先頭、舞台に向かって左端に座りました。
お陰で後から会場に入ってくる同期生たちの顔は、ほとんど見れません。ですが、背後で取り交わされる囁きが段々と大きくなってきているので、続々と入場しているのは分かります。時折混ざる「キャー」とか「ヤッター」などの高い声は、合格発表の場のようですね。
他人事のようだった僕にも、声が掛かります。
「ジュリジュリ、初めて同じクラスだね!よろしくー」
「おはよう、菜穂ちゃん。よろしく」
同じ制服に身を包み、セミロングの黒髪をポニーテールにした彼女は、お馴染の『渡辺』菜穂ちゃんです。
席に着いてから挨拶だけに来てくれたらしく、あっさりと「またねー」と手を振りながら女子の一番後ろへ戻ります。
僕の事を「ジュリ」と呼ぶのは、メールなどを送る時に「キリコ」と入れるより「ジュリコ」の方が変換しやすかったからだそうで、今ではそれが呼び名になりました。
「おはよう、キリ君。一緒のクラスで嬉しいわ。よろしくね」
「涼ちゃん、おはよう。僕も嬉しいよ。こっちこそ、よろしく」
涼ちゃんも、わざわざ寄ってくれたようです。
彼女は『長谷部』なので後方の席に、灰色のストレートロングの髪を靡かせて滑らかに座ります。「君」呼びは小学校から一緒の涼ちゃんならではですね。
ちなみに、女子の友人達が僕を呼ぶあだ名は、「ジュリ」と「キリ君」で半々でしょうか。男連中は、一部の例外を除き圧倒的に「青野」です。
閑話休題。
お隣の出席番号一番の男子は、涼ちゃんと話している間に着席したので名前を聞けませんでしたが、知った顔ではなかったので別中学からの子でしょう。なぜか彼は僕を見て、後ろを見て、自分の座席を確認して、また僕を見ていましたけれども、なにが気になっていたのでしょうねぇ。あ、ようやくスカートに気付いて、バツ悪そうに目を逸らしてます。口にしないだけ紳士ですね。初対面での誠志郎なら、「座る所を間違えてるぞ」くらい言いそうです。
そういえば全く音沙汰ありませんが、彼はどこの高校へ行ったのでしょうね。
「ただいまより、皇紀2690年度、皇都立天弓高等学校入学式を挙行いたします」
開式の言葉に、ざわめきに満ちていた会場は静まり返り、僕は背筋を伸ばします。
身長に伴って座高も高くなりますから、意識しないとどうしても猫背気味になってしまうんですよね。ええ、決して足が短い訳ではないですよ。自分で言うのもなんですが、むしろ長いくらいで……外人体型っていうんですか?スラリとして、足が長い。スラリと……フッ……物は言いようですね……欲を言えば、もう少し女性らしいメリハリラインが欲しいです。でも、ココだけの話、まだ女の子のアレがきてないんです……さすがに、そろそろ病院で検査してもらった方が良いかなー。ホルモン異常とか遺伝子的ななにかだったらどうしよう……その場合は治療するなり方向性を決めるなりするしかないんだけど……まあ、言うほど深刻に悩んでいるわけじゃないですよ。こればっかりは個人差ですから。体格と成熟度は比例しないのが厄介ですねー。
益もないことをつらつらと考えながら、姿勢はビシッと顔はキリッとさせて国歌を斉唱し入学許可宣言を受けます。
が、
「入学者代表宣誓。第396期新入生代表、一年A組、黄田誠志郎君」
「はい!」
立ち上がり壇上に登る襟足の長い金髪の彼を見て、脳が停止しました。
文言など頭に入ってくるはずも無く、風格さえ漂わせて宣誓を朗々と読み上げる幼馴染の雄姿を、ただ茫然と見詰めます。
音信不通であった一年間で幼さは抜け、偉丈夫と言って差し支えないほどの堂々とした体躯と男性的な整った顔立ちは、会場中の女性の目を奪い蕩けさせているようです。
淀みなく読み終え、新入生を見渡した琥珀の瞳が少しさ迷い、僕の視線とかち合いました。
その瞬間、悪戯が成功した悪ガキの顔でニヤリと笑いやがります。
後 で 絶 対 と っ ち め る
悩ましい女性たちの吐息と熱い視線を一身に受けながら澄まして自席に戻る横顔に、邪念を送りつけてやります。憎らしいことに、それすらも涼しい顔で受け流してくれました。
そんな、ささやかな攻防の間も式は滞ることなく進み、学年団と担任紹介に移ります。
そこで僕のクラスの担任として呼ばれた名前に、酸っぱいものを口に入れられた気分になりました。
クラスの先頭である僕の前に立つ、長い紫髪をゆるく縛っているにこやかな人物を、思わず胡乱な眼で見てしまいます。
ええ、確かに高校の先生になったとは聞いていましたよ?そして、どこの学校かは教えてもらえませんでした。
ってか、この状況って、
二 年 前 か ら 仕 込 ん で た ?
口から魂が抜けかけている間に、お偉いさん方の祝辞が耳を素通りしていきます。
そして、
「在校生歓迎の挨拶。生徒代表、赤原悠馬君」
「――はい」
ステージへ上がるマイクのりも良い低音で長身の人物に、白目をむきそうになりました。
先 輩 あ な た も か っ
2015.3.9
・誠志郎の件を追加・修正しました。
・雅臣さんの描写を追加しました。




