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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
37/43

後悔、先に立たず②

その背に付いて行こうとした体が引き留められます。

顔を向けると、いまだに洸は長身の後ろ姿を睨みつけていました。


「なに、話してたの?」


彼にしては低い声で聞いてきます。


「なに」って、会話らしい会話をしていたでしょうか。

先輩が勘違いして、僕が訂正して、新しい環境は不安だろうから頼れと言われた。

同性に『兄貴』と慕われる人物らしい、義理堅さと気遣いですね!


それをどう伝えようか逡巡していたら、探るように僕の顔をじっと見詰めていた萌黄色から険が取れてゆきます。


「ま、いいや。だいぶ待たせちゃってるから、ホント、早く行こ?」


一転して、いつもの無邪気な笑顔で僕の手を引きます。

ひとまずその誘いを断って、軽く顔をすすいでから校門へ向かいました。


待ち合わせ場所には、キラキラしいオーラをダダ漏れにさせている人物が混ざっているようです。

遠目に見ても分かるその姿に、驕慢の象徴を見たかのような錯覚を得ます。

悔恨に囚われそうになっていると、繋がれた手に力が入りました。

手のひらから伝わる存在感に、意識はそちらへと流れます。


二人が顔を合わすのは、昨年の正月以来なはずです。

一年以上も会っていないのに警戒するとは、苦手意識が強いのでしょうか。

あまり人見知りしない子に育ったと思っていたのですが……って、いかん、いかん。

癖で中学生らしからぬ見方をしています。洸は可愛い弟であって、養い子ではないのです。

僕は中学生。四月から高校生になる、中学三年生。

その年頃の女子は、色気過多男を見てどう反応するのが正解なのでしょう。

雅臣さんを取り巻く女子たちの反応を窺う限り……千差万別……だと……?


①頬を染め、ポーっと見詰める

②顔を赤らめ、はにかみ俯く。そしてチラ見

③赤い顔で、しきりに身づくろいをする

④チラ見しながら友人と盛り上がる

⑤しげしげと観察しニヨニヨする。赤原先輩が雅臣さんに近付くと、色めき立つ

⑥テンションが上がり過ぎて、うれションする犬のよう

⑦胡散臭そうに見遣る

⑧ただひたすら観賞している

⑨無関心


よし。僕は⑦で行こう。

ありがとう、涼ちゃん。君の冷静さを、僕は見習わせてもらうよ!

蛇足だけれど、菜穂ちゃんは②です。女子として見習うべきは、彼女のような可愛らしい反応なのでしょう。けれど、雅臣さん相手に顔を赤らめることができない僕では、顎を引いてガンを飛ばしているようにしかならないので、無理でした。


結果として、知り合いの不審者を見るような目で合流します。

僕に気付いた雅臣さんは、愛想笑いを華やかなものに変えて花束を差し出してきました。


「卒業おめでとう、キリィ。今日は花で我慢するけれど、誕生日プレゼントは私を贈るね」


罪悪感すら吹っ飛ばす発言に①~⑤は黄色い「きゃー」、⑥からは不満そうな「えー」、⑦は語尾上がりの「はぁあ?!」、⑧は「ほぅ」と声が上がります。

僕はいつものように脊髄反射で答えることができず、かといって涼ちゃんに倣うにはタイミングを逃してしまいました。

態度を決めかねている僕を、心配そうに洸が見上げて来ます。


「おや。戸惑うキリィも新鮮だけれど、日頃の勢いはどこへいったのかな?」


()りげに花を渡すことで、洸から離して両手を塞ぎ、泳いでいた僕の視線を定めさせました。

そうしてから、両頬に手を添えて上向かせてきます。

普段の煙に巻く雰囲気は無く、澄んだ眼差しで覗きこまれました。

醜い僕を見透かすような、紫がかった灰色の瞳。

僕は身の置き場を失くし、目を閉じるか彷徨わせるかの二択を迫られます。

しかし、いくら真剣な目をしているからといって、相手はあの(・・)雅臣さんです。

目を閉じるのは自殺行為でしょう。

わずか0.05秒でそう判断を下してソロリと逸らした時、目線の反対側の頬に「チュッ」と濡れた衝撃が落とされました。

周辺から歓声とどよめきが上がります。

次の瞬間には、棒立ちする僕は洸に、笑みを湛える雅臣さんは先輩に、それぞれ引き取られていました。


「誰になにを言われたのかは分からないけれど」


羽交い絞めにされているにも関わらず、柔和な笑みのままの雅臣さんはそう前置きして続けます。


「キリィが私に後ろめたい気持ちを抱く必要など、一切ないからね」


何故それを?!

声に出さずに目を剥くと、蕩けそうな笑みを向けられました。


「卒業生に対して最後の鬱憤晴らしをする、大人げない下衆がこの中学校には居るみたいだけれど、戯言に囚われるなんてキリィらしくないねえ」


ハッと息を飲んだ先輩と洸の手から力が抜けます。

背後の人物へ振り返り、その胸に軽く拳を当てて雅臣さんは身を離しました。

洸も抱きつく場所を、僕の背中ではなく腕に変えています。


「キリィ、これだけは知っておいて欲しい。私は、いや恐らく私たちは、キリィの言葉と行動だけに救われたのではないということを」


首を傾げると、ケーキにシロップと蜂蜜を掛けて砂糖をまぶしたよりも甘い笑みが返ってきました。


「少なくとも私は、キリィと会うだけで救われ続けているよ。だから、自分を卑下することだけはやめてくれないかな。今さら遠慮などされたら、普段の威勢の良い返しがくるまで、おちゃらけちゃうゾ☆彡」


あれ?良い事を言われていた気がしたけれど、最後で台無しだよ雅臣さん。


2015.2.26 雅臣のセリフの一部を変更

      「お決まりの啖呵が返ってくるまで」→「普段の威勢の良い返しがくるまで」

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