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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
34/43

先輩の卒業

誠志郎にその旨をやんわりと伝えると、先方も何かと忙しくなるそうで意外にあっさりと了承を得ることができました。

一応、先輩と雅臣さんにも連絡しておきます。


『了解』

『今度は二人きりで遠出しようね☆』


それぞれに快諾してくれましたので、一年近く続いた合同勉強会は晴れて解散と相成りました。


新・勉強会は当初、菜穂ちゃんと洸の三人でスタートしましたが、気付くと部活仲間も加わり、今はちょっとした規模になっています。

その影響か、お礼と称してバレンタインには女子達からチョコレートを頂きましたけれど……数、多くないですか?勉強会の参加人数を大幅に上回っている気がするのですが。ってか、お姉さま方や後輩からも頂いているって……僕が女子なの、皆さん分かっていますよね?ねっ?

不本意ながら校内の男子諸君には、女子のチョコレートを赤原先輩と洸と僕の三人で独占しやがって、とやっかまれてしまいますし。逆恨みも甚だしいです。

そんなことより、


 返 す の 大 変 な ん で す け ど


思春期特有のいざこざよりも、重要かつ切実ですよ。

解決策として、鼻血噴きそうになりながら食べたチョコへのお返しは、母と洸と三人でクッキーを作ることにしました。

家内制手工業張りのチームワークを発揮し、洸と僕の二人分のお返しを夜なべして作り上げ、配り歩いたのですが……何故か、貰った人数より多く配った気がします。余裕を持って用意したクッキーの小袋が、一つも手元に残らなかったことからも明らかです。まあ、瑣末な事はどうでもよくて。


僕はもう疲れたよ。なんだか、とても眠いんだ……(byネロ)


そんな精も根も尽きた一日の終わりに、追い打ちをかけるような心当たりのないお返しが届きました。


 さ す が ホ ス ト ( 確 定 )!


車で送っただけなのに住所を控えるとは……細やかな気遣いにドン引きしそうですが、来年は贈ってあげましょうかねー、はぁ。

疲れ荒みかけた心を慰めてくれたのは、母と共作のチョコケーキのお返しとして貰った、父からのマフラーと洸からのクッキーです。洸ってば、僕と母の分は、別にこっそり用意してくれていたんですよ。お礼に撫でくり返してあげました。


ホワイトデーの一週間後に迎えた卒業式。

卒業生代表は赤原先輩、在校生代表は不肖ながら僕が務めさせて頂きます。

送辞と答辞の言葉を交わしつつ思い浮かぶのは、まだ中一の時の先輩です。


全てに拒絶されたと感じ、全てを拒絶してやるとまで思い詰めていた彼。

繊細で多感な少年が、溜め込んだ鬱憤の捌け口を求め、苦しみもがく。

そして進みかけた、間違った道。

寸でのところで出会えて良かった。

僕の言葉が、取るに足らない糸口の一つだったとしても、届いて良かった。

澄んだ眼差しが未来を見据え、堂々と真っ直ぐに立つ今を見ることができて、本当に良かった。


おかんな気持ちで朗々とした低い声に聞き惚れていたら、その姿がどんどん滲んでゆきます。

でも、これは惜別の涙ではないので、恥じることなく流しましょう。

口元には絶えず微笑みを湛え、俯くことなく先輩たちを見送ります。


「ご卒業、おめでとうございます」


鬱屈からの脱却、自己の壁の打破、本当に、おめでとうございます。


感極まって嗚咽が漏れそうになったので、ハンカチで目元を抑え誤魔化します。

と、狭い視界の端に靴先が映りました。

慌てて視線を上げれば、赤原先輩です。

まだ喉が震えているために上手く言葉を紡げないでいると、先輩が先に口を開きました。


「今日、この場に立てたのは、全てはキリ、青野のお蔭。ありがとう」


過分な言葉に、情けなくも泣き崩れそうになってしまいます。


ここに居る貴方は、一心に努力した結果です。僕はただの、きっかけでしかないのです。


そう伝えたいのに、緩く首を左右に振ることしかできません。

心の声が伝わったのか、あまり表情を変えることのない先輩が、微かに笑んでくれました。

そして、学生服の第二ボタンを外し、こちらに差し出してきます。


「青野はオレの心臓も同じ。受け取ってくれ」


瞬間、周囲が盛大に沸きかえった気がしますが、なぜか僕だけ静寂の中に居ました。

人間、激しく動揺すると現実味を失うようです。

他人の目を通しているような浮遊感の中、辛うじて立っている僕の右手が、面持を苦笑に変えた先輩によって掬い上げられました。

ボタンを乗せられてもまだぼんやりしていると、両手で包み込むように握らせてくれます。


「高校で、待ってる」


掌の温かさと低い囁きが僕を優しく引き戻し、ようやく頭が働き始めました。

確か先輩の進学先は天弓あまゆみ高校、偶然にも(・・・・)僕の志望校です。

瞬きで涙を切ってから、ゆっくりと頷きました。

顔を上げた時、目に飛び込んできたのは晴れやかな先輩の笑顔で。

一瞬、面喰ってしまいましたが、後からじわじわと喜びが湧き上がってきて。


「すぐ追いかけます。ですから、先輩はそのまま真っ直ぐに進んで下さい」


先輩は力強く笑みを深め、そして学び舎を旅立ってゆきました。


後で思い返せば、ずいぶんと乙女な反応をしたものです。

菜穂ちゃんを筆頭に、友人たちにも盛大にからかわれてしまいました。

何故か洸はひどく拗ねていましたが、親しい先輩でも卒業したのでしょうか。

誠心誠意慰め、励まし、春休み中は蜜月な如く一緒に居たら落ち着いてくれました。

しきりに「ボクも勉強して天弓に行く」と言っていたので、美術の先輩を追う気なのでしょうかね。


明けて四月、僕は最高学年になりました。

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