召喚に次ぐ集結、そして集合
二学期期末考査前の日曜日のことです。
朝から麗らかな小春日和で、布団でも干そうかなー、なんて呑気に思っていた僕の携帯が、穏やかな空気をぶち壊しにする壮大な着信メロディーを奏でました。
ちょっと!誰ですか、僕の携帯を勝手に設定したのは!!
表示を見れば『誠志郎』……微妙にマッチしている曲なのが憎いです……
しばらく眺めていましたが、諦める気配がありません。
しぶしぶ通話ボタンを押すと、言葉の洪水がどっと押し寄せてきました。
曰く、試験前の日曜日なのに十時過ぎても僕が来ない。電話を掛けても僕はなかなか出ない。今すぐ来い!とのこと。
「前回、約束しなかったよね?」
『恒例なのだから、必要無いだろ。早く来い!』
「僕にだって都合というものが……」
抵抗を試みても無駄でした。とにかく「来い」の一点張り。
溜め息吐いて終了ボタンを押します。
顔を上げると、支度の済んだ洸が僕のコートを差し出しながら立っていました。
「今の黄田さんだよね?どうせ『集まるのが当然、来い』とかなんとかごねられて、行くんでしょ?」
声真似に感心しつつ、頷きながらコートを受け取ります。
「なんで分かったの?」
「着信、彼専用だから」
設 定 し た の は 君 で す か
いえ、それ以外の誰だと聞かれたら困るのですが。
ちなみに僕の携帯の着信設定は、誠志郎は例の尊大な曲で、先輩は重低音のメタルバラード、雅臣さんはひたすら軽いくせに緻密な曲、菜穂ちゃんは彼女の好きな曲にしてくれたそうです。
閑話休題。
妙に手際のよい洸と連れ立って、本日は弁当なしで勉強会へ赴きました。
僕が顔を出すと、どこからか先輩が移動してきて、雅臣さんが通りすがりに腰を下ろします。
結局、この面子ですか。確かに恒例デスネ。
お昼は近くのファミレスで誰が払うかで揉めましたけど、最終的には割り勘で落ち着かせました。メンドクサイ。
解散も、恒例の名に恥じない安定っぷり。追い込み受験生の先輩はもう少し残って頑張り、雅臣さんは駐車場へ向かい、誠志郎とは駐輪場で別れます。
今回も集中できたから、良しとしましょう。一夜漬け的な勉強会なのに、洸の成績も上がってますし。
次回は忘れないよう念押しされましたが、拒否権なしの急な呼び出しを受けるぐらいなら自分から行きますよ。はいはい。
テストはまずまずの成績を残しました。
べ、別に勉強会のお陰じゃないんだからねっ。
洸の物真似をしたら、菜穂ちゃんに「似合わない」と真顔で一蹴されました。
基本は神道なのに信仰の自由(?)に基づき、家族でひっそりとクリスマスを過ごしたら冬休みです。
二週間もないことですし、ここでの勉強会はありません。休み中はあのメンバーが揃う事は無いでしょう。
そんなふうに思っていた時期もありました。ええ。
それが今、 ど う し て こ う なっ て い る の か な ?
初詣で賑わう境内の人々をかき分ける露払い宜しく先頭を歩く先輩を追って、右手に洸、左手に誠志郎、殿を雅臣さん……いつもの顔ぶれですね。
正直、通りすがる人たちの視線が痛いです……女性達は頬を染めアイドルグループを見るような熱っぽい目を向けてきますし、男性は女性の関心を総浚いする一団に嫉妬と羨望の眼差しを向けてきます。
とにかく目立ってます。目立ち過ぎです!!
先輩からしてそうです。まず、群衆から頭一つ抜けているんですから。振りかえった人がギョッとして二度見するくらい、背が高く存在感が半端ない。
その先輩の背に守られる姫のような洸、姫の付き人的僕は飛ばして、威圧を放ちながら姫をエスコートする金髪の騎士・誠志郎、後ろを守る物腰柔らかな雅臣さん……目立つなって方が無理でしたね……
思い起こせば年の瀬を越えて街が動き出す一月二日の朝、起き抜けにきた先輩からのメールがきっかけでした。
『昼過ぎに初詣、行かないか?』
受験生な先輩の合格祈願でしょうから、仲間内で誘い合わせの上、ついでに後輩の僕にも声を掛けてくれたのですかね。
午前中は家族と行きますが、午後からなら予定がありません。
『行きます。待ち合わせはどこですか?』
『十三時、校門前。着物か?』
『さすがに着物はナシです』
『残念』
珍しい先輩の軽口に、微笑が漏れました。
軽く朝食を済ませ家族四人で向かったのは、町内にある小さな稲荷です。
今だ熱冷めやらぬ両親の後ろを、洸と並んで歩きます。見なれたこの光景も何年目になるのやら。七年目?あらやだ、浮気注意ですね。
ひっそりとした清涼な空気に心洗われながら、まばらに行き交う顔見知り達と挨拶を交わします。
家内安全、無病息災。
小さなお社に願いを捧げ、見上げた空は澄み渡っていました。
前途洋々に思われた本日。
最近また一緒に出かけるのが当然とばかりに付いてくる洸を伴って向った待ち合わせ場所に居たのは……
苦々しい顔つきの燃える赤髪を短く刈り込んだ長身の人物と、腕を組んで仁王立ちしている居丈高な金髪の人物と、その二人を見てくすくすと笑っている長い薄紫の髪を背に流している人物。
一瞬、回れ右をしたくなりましたが、お三方に名を呼ばれては行かない訳にはいきませんよね。
「キィちゃん、帰ろっか?」
不承不承が伝わったのか、気を遣ってくれる洸に癒されます。
「大丈夫。先輩の合格祈願だから、むしろ相応しい顔ぶれかも知れない」
自分に言い聞かせ、吹っ切りました。
先輩の合格を、神様に頼み込んでやろうではないですか!




