僕と愉快な仲間たち、と転校生
ようやく主人公の登場です。
担任が朝礼のために教室へ入ってきました。
僕は名残惜しみつつ参考書から顔を上げます。
「転校生の桃崎 櫻華さんです。彼女は、お父さんのご都合で――」
教壇の上から紹介されている転校生と目が合い、ニコリと微笑まれました。
小さくてピンク色の可愛い子です。
男女共通の白シャツにブレザーとループタイ、女子用のタータンチェックのボックスプリーツスカート姿が良く似合います。
僕の次に隣の席の橙 陽人へ意味深な視線を流し、さらに後ろに座る黄田 誠志郎に目を向け笑み崩れました。
にこやかな笑顔で担任の紫ノ村 雅臣を見上げ、満足気に一つ頷きます。
桃色の柔らかそうな髪をフワリと揺らしながら。
そして放課後。
後ろの席から、さも当然のように僕へ声が掛かります。
「帰るぞ」
そこへ僕の義弟――緑谷 洸――が、わざわざ教室まで迎えに来ました。
「今日はなんもないんでしょ?一緒に帰ろ」
それに対して誠志郎がムッとします。
「俺が家まで送ってやるから、お前はお友達とでも帰れ」
傲然と言い放つ後ろの席の金髪に、凄く嫌そうな顔を返すホワッとした緑髪。
いつものことながら、これ以上の喧嘩に発展しないよう間を取り持つことにしました。
まずは誠志郎に釘を刺します。
「途中までだから」
洸には、言い含める様に少し困った笑顔を向けます。
「三人一緒に」
ダメ押しとばかりに二人の肩に手を置いて、コテンと首を傾げます。
「ね?」
我ながら、あざと過ぎますかね?
後ろの金髪はわずかに眉を下げます。
義弟は可愛らしく口を尖らせました。
「しょうがないな。別にあんたのためじゃないけど、我慢してあげる」
「俺の方が我慢してやるんだ。ありがたく思え」
「ぁあん?!お邪魔虫は、あ・ん・たっ!」
「そう突っかかるな。困ってるだろ」
「はぁ?あんたが困らせてるんでしょっ」
結局は一悶着あるのですが、これはもうお約束なレクレーションと諦めて、二人の肩に置きっぱなしだった手でポンポンと諌めました。
「まーまー、仲良くいきましょう」
そこへ何故か担任が乱入してきます。
「ちょっと待った。その子は今日、進路相談の日だよ。私と進路指導室に行こうね。手取り足取り腰取り指導してあげる。なんならプライベートな相談だって、デリケートな悩みだって聞いてあげちゃうゾ。帰りは心配ご無用、私が送るからね。ご飯、なに食べに行こうか。なんなら添い寝までして、あ・げ・る☆」
「変態教師、邪魔」
出入り口近くで架空の進路相談と妄想を垂れ流していた為、背後から現われた人物に邪険に押し退けられてしまいました。
卑しめられブチブチと文句を言っている紫ノ村先生には意識して目を向けず、傍まで来た長身の先輩――赤原 悠馬――へ用向きを問う視線を向けると、手に持っていた物を差し出されました。
「本、サンキュ」
「もう読んだんですか?」
「ああ」
「ずいぶん早かったですね。面白かったですか?」
「続きが気になるくらい、には。今日、取りに行っても?」
「あー。この二人も一緒ですが、良いですか?」
「構わない」
薄らと微笑んだ先輩に頭を撫でられていると、後ろの入り口から図書委員仲間が入ってきました。
「今日の委員会ですが……」
「ああ、うん。無いんだってね」
「ええ。それで……帰るのでしたら、ご一緒してもいいですか?」
恥じらうように眼鏡の奥からそっと窺ってくる瑠璃色の瞳の彼――加藍 透也――の横から、明るい笑い声が上がります。
「あはは、モッテモテだねー。オレも混ぜてよー。乱K「陽人?」」
僕のセンサーが下品警報を鳴らしましたので、隣の席の陽人に皆まで言わせません。
「ごめーん。冗談だよ、ジョーダン。んな冷ややかに見ないでよー」
悪びれもせずにカラリと笑う彼。
と、そこへ鋭い声が割り込んできました。
「なんなのよ!!」
「はい?」
七人が一斉に目を向けた先には、憤然と僕を指差す桃色の少女。
「なんであなたがハーレムを作ってるのよ!!」
周りを蹴散らす勢いで近づいてきました。
と言うか、人を指差したままなんて失礼な子ですねー。
「や、別に……ただの、幼馴染と義弟と担任と先輩と同じ委員仲間とクラスメイト、だけれど?」
「それがおかしいのよ!どうして攻略対象の性格も設定も、なんか色々と変わってるの?!中でも秀才クーデレ担当のあなたっ!青野 樹里様が、なんで、スカートを、はいているのよ?!」
そんなことを、叫ばれても……
「僕、女子ですから。そりゃスカートくらい、はきますよ」
何を言い出すんでしょうねぇ、この子は。全く。
僕の名前は青野 樹里子で、『樹里様』ではないんですけれど。
頭、大丈夫デスカー?
2015.1.21 リボンタイ→ループタイに変更