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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
29/43

いい日、独り立ち

※先日『お久しぶぅりぃいねぇ~』の次話として掲載し、作者都合により削除したお話を大幅に加筆修正しての再掲載です。

※既読の方には二度手間をお掛けして申し訳ありませんが、大筋では変わっていなくても追加部分が多いので、再読をお願い致します。

寒色しか使われていないのに暖かさを伝えてくるその作品に、僕は包み込まれるような錯覚を覚えました。

……どれだけそうしていたのでしょう。

菜穂ちゃんが僕の腕にそっと触れてきます。

一緒に居たのを忘れる程、見蕩れていたようです。

申し訳なく思いながら菜穂ちゃんの方を向くと、その後ろには面映ゆそうに不貞腐れた洸が居ました。

お互いなんとはなしに照れ臭く、もじもじとしてしまいましたが、口火を切ったのは洸でした。


「気に、入った?」


おずおずとこちらを見た萌黄色が、ついっと逸らされます。

学校では自粛していましたが、もう辛抱溜まりません。

ガツッと抱き寄せ、感激を全身で表現してあげました。

「凄い!」「綺麗!」「素敵!」を、壊れたように繰り返しながら。

その時の菜穂ちゃん以下、周りの人々の生温かい眼差しと言ったら……羞恥に悶えずにはいられない程でした。洸には後でこんこんと、「時と場所を弁えて!」と叱られましたし。

思いのほか衝動の代償は大きく、この一件以来、女子たちが僕を遠巻きに見るようになった気がします。

新人戦でそこそこの成績を残したのがダメ押しになったのか、同性の話せる友人は部活仲間ばかりになりました。

クラスの女子すらよそよそしいんです。先輩女子たちは僕の方を見て頬を染めながらヒソヒソと囁きを交わすし、後輩女子に至っては部活の子も含めて赤面して俯く子が続出する始末。

疎外感が半端ないですが、後悔はしていません。

そんなプチ孤独な秋も深まった頃、赤原先輩から『件名:食材』『本文:どこで買う?』というメールが、部活終わりに来ました。

要領を得ないので、電話を掛けます。

最高学年になって、益々無口になった先輩との会話は割愛して要約すると、


・先輩のお母さんが人事異動に伴い職場が遠くなった

・通うのはきついので一人暮らしをしたい

・先輩のお父さんが猛反対

・両親の職場は意外に近くて「じゃ、間に部屋借りて住む?」

・せっかく買ったマンションだし、転校するにも息子は中学三年生、しかも二学期の後半

・来年は高校生、志望校はマンションからの方が断然近い

・最近はずいぶん真面目になったし、逆に頼もしいくらい

・なら、早いけど一人暮らしさせちゃう?(二度目の新婚だね。ポッ)

・じゃ、そういうことで。日曜日は来るから!

・一週目は引っ越し前のストックで、二週目に買い込み、三週目は先週分が残ってたのでちょい足し、四週目を前に冷蔵庫が空になったが、今週末は行けないので自分で調達して!←今、ココ。


『ココ』まで聞き出すのに僕がどれだけ苦労をしたのかは、お察し下さい。

それにしても、ご両親はずいぶんと仲がよろしいようで。

再構築が順調なのはなによりですが、出合った頃の先輩の鬱屈はなんだったのでしょうか……雨降って地固まった結果が受験生を放任って、どれだけ浮かれてるんですかね。

先輩が大して気にしておらず、落ち着いているのが救いです。

ってか、「第三回・合同勉強会(雅臣さん含む)」の時には、もう一人暮らし決定していたんですよね?聞いてないよ?


「先輩、料理はできるんですか?」

『レンジ、パン、ウインナー、以上』

「『以上』じゃないですよ、栄養偏ります!」

『一週間くらい平k』

「成長期を舐めないで下さい」

『ビタミンざi』

「却下です!」

『野菜ジューs』

「認めません」

『カロr』

「なお悪い!分かりました。買い物に付き合います」

『頼む』


ということで、カバンを置きに家へ。

余談ですが、最近の我が家の夕食担当は洸が頑張ってくれています。


幼  稚  園:母>僕

小学校低学年:母≧僕

小学校中学年:僕≧母>洸

小学校高学年:僕>母≧洸

中  学  校:僕≧洸>母


こんな感じで分担が推移して、僕が部活で遅い日は洸が作ってくれていたりします。

脳内に懐かしいレベルアップ音が流れそうです。


♪テレレレレッテッテー

洸は 中学生に なった!

料理を おぼえた!

女子力が 5ポイント あがった!

魅力が 10ポイント あがった!


冗談はさておき、ジャージを洗濯カゴに放り込み、私服に着替えます。

財布と携帯を左右のポケットに入れて、台所の洸に一声。


「悪い、赤原先輩に付き合って買い物してくる。八時過ぎるかもしれないから、待てなかったら先に食べてて」


振り返ったエプロン姿の心のオアシスが、箸で炒め煮を味見分差し出しながら、ご機嫌斜めに聞いてきました。


「先輩の買い物ってなにさ」

「食材。あ、これ、美味しく煮えてるね」

「当り前でしょ。食材って、なんで?」

「一人暮らし始めたんだって。あ、もう行かなきゃ」


ポケットの中で携帯が着信を伝えたので、表示を見たら『赤原』。

もう少し洸とコミニュケーションを取りたいですが、時間もないことだし急ぎましょう。


「待って!ボクも行くっ!」


踵を返した僕を、ぞんざいにエプロンを外した洸が追って来ました。


「えっ、どうしたの?」


玄関で靴を履きながら振り返ると、洸が上着を羽織っています。


「ちょうど青ネギが欲しかったの。だから別に、キィちゃんが心配な訳じゃないんだからねっ」


ツンデレのテンプレ、頂 き ま し た !!

なにこの可愛い生き物はっ!けしからん、非常にけしからんですぞ!!


「家の中だけにしてよ!」と許可を頂いていることですし、玄関内に居る内にと、ほとばしる熱いパトスの赴くまま抱き締めてしまいました。


「ちょっ!急いでるんじゃなかったの?!」


僕に怪我をさせないように暴れる辺りがまた……って、そうでした!先輩を待たせています!


携帯で話しながらお互いの位置を確認し、無事に合流できました。


≪参考≫

10/02 異動通知発令、家族会議

10/07 両親、新居探し

10/08 第三回・合同勉強会

10/14 両親引越し

10/16 先輩母、新部署に着任

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