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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
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第二回・合同勉強会②

「キリィ、久しぶりだねえ!顔を合わすのは一年と四ヵ月ぶりかな?君ったら、ちっとも会ってくれないのだもの。でも、ここで偶然・・出逢えるなんて、やっぱり私達は結ばれる運命なのだね☆」


言わずと知れた、雅臣さんです。

と、室温が一段下がりました。

ちょっ、冷房効き過ぎですよー、司書さ~ん?

腕を擦っていたら、洸がマフラー代わりに使っているサマーショールを掛けてくれるではないですか。さり気に雅臣さんの手を払い落して。

気の利く弟です!!


「ありがとう」

「別に。ボクが寒いの苦手だから、たまたま持ってただけ。それよりここ、教えて?」


猫のように擦り寄って、参考書を指差します。

全神経がそちらに向かって説明しようとした時、横と後ろと前が同時に小声で騒ぎました。


「キリコ!誰だ、こいつ?!」

「あんまりスルーばかりしていると、実力行使、しちゃうゾ☆」

「キリに触るな、痴漢。通報する」


緊急度が高い方から対処しましょう。


「通報は待って、先輩。まだ(・・)何もされていませんから!」

「まだって、ひどいね。キリィと私の仲じゃないか。『求めよ、さらば……』」

「言葉しか与えませんよ、僕は。それ以上は他を当たって下さい」

「キリコ、俺を無視するな!」

「あー、はいはい。この方は知り合いの高校教師です。以上。さ、勉強しましょう。時間が「「「「もったいない」」」」」


なぜそこで全員ハモるかなー?

首を傾げたら、


「キィちゃん、しょっちゅう言ってるよ?」

「キリコの口癖だな」

「キリは、よく使う」

「キリィに喝を入れられた時に言われたよ」


四人に言われてしまいました。

変にぬるい空気の中、どういうわけか雅臣さんが先輩の隣に腰を下ろします。


「おいっ」


誠志郎が声を荒げ、先輩が睨みつけても、どこ吹く風。


「私は現役の教師だよ?つい半年前は大学生だったし。大いに利用する方が賢いのじゃあないのかな?」


長い髪をかき上げ、気だるげに足を組んで本を読み始めてしまいました。

ここまで堂々とされては追い出すのも骨ですし、最悪、五人全員が騒ぎ過ぎで図書館を出入り禁止になりそうなので、僕も先程の洸の質問に戻ります。

聞く方も心得たもので指し示す箇所を真剣な目で追ってくれ、残り二人も渋々ながらそれぞれの参考書に戻り、あっという間に取り巻く空気は勉強一色になりました。

かつてない集中力で午前を終え、昼食です。

先輩に会う事を想定して多目に持って来たとはいえ、追加の成人男性一人分はさすがに賄えませんので、雅臣さんには自分の分を買ってもらいました。

が、すこぶる不平を申すので僕とシェアすることにして、何故かそこに洸も誠志郎も先輩まで参加してきて、結果的には盛んに物々交換が行われる形で納まりました。

午後も、雅臣さんの挑発に誠志郎が目くじらを立て、先輩がチクリと嫌味を言い、洸は僕と完全スルーで、ちょっとしたカオス空間ながらも不思議と緩急が付いて、集中して勉強できた気がします。

さすが現役教師!勉強の場を支配するのが上手ですね。

でも、ストレートに褒めると何十倍にも返ってきますので、言わぬが花でしょう。沈黙は金です。

妙に振り回された勉強会は、三時に解散となりました。

先輩はまだ残って、五時くらいまで頑張るそうですけど。

雅臣さん曰く、受験当日に「これだけやったから大丈夫」と落ち着いて臨むためには必要とのこと。一理あります。もっとも、先輩も始めからそのつもりだったようですが。

車の雅臣さんと反対方向の誠志郎と、本日は揉めることなく別れ、洸と共に帰途に就きました。

その道中、それまで僕以外には無関心だった洸が、雅臣さんに関して根掘り葉掘り聞いてきます。

仕舞には、


「キィちゃんって、一人で出かけると、先々でたらして帰って来るんだから……」


とまで言われる始末……た、誑してなんかいないよ?ちょっと押さえが利かずに、説教かましちゃっただけだよ?を、やんわりと伝えると、溜め息を吐かれてしまいました。


「自覚がなさ過ぎだよ……いっそ、……ちゃいたい……」


小さな呟きは、自転車をこいでいる僕の耳には届きませんでした。

それよりも、帰り際に四人の間で交わされていた、探り合いのような遣り取りが気になります。

総合すると、次回は二学期中間前の日曜日らしいのですが、またこの面子なのでしょうか。勉強には集中できても精神的には非常に疲れるので、僕だけ外してもらえませんかねぇ。


無理かなぁ……無理だろうなぁ……はぁ……メンドクサイ……


帰宅しても沈んでいる僕を、自分の言葉のせいと勘違いした洸はなにくれと気遣い、癒してくれました。い奴です。


バド漬けの夏休みが明け、勉強とバドな日々が戻ってきました。

そして迎えた学校祭、洸の作品に初めてお目にかかれました!

『母の日コンテスト』とか小学校の図画工作の授業で描いた、教育的な作品は何度となく見せてもらいましたが、今回は違います。

洸がきたいと思った物を、衝動の赴くままえがいた絵です!

菜穂ちゃんと訪れた美術展示室で、僕は、言葉を失いました。


壁一面の、あおあおあおあお


空とも海ともつかない青の濃淡で表現された、その作品のタイトルは『ky』。

作品説明には、


【KY:危険予知、Sky:空、Key:鍵。この絵はボクの、ボクだけの『ky』】


と添えられていた。


「洸君……マジ、中二病?」の一文は自粛しました。

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