第一回・合同勉強会②
※二話、同時掲載です。
※しおり機能をお使いの方は、作者都合で二話(『参照:煙が目に沁みる』と『いい日、独り立ち』)削除していますので、前話からお読み下さい。
「待たせた。あと、大声出すな、バカ」
開口一番に小声で叱りつけるとしょんもりしましたが、悪いのは場をわきまえない方なので放置します。
「荷物、多いな」
カバンに本をしまって立ち上がった誠志郎は、僕のトートに目を止めました。
「ああ。お弁当、持ってきたから」
パンッと叩いて示すと、グッと眉を寄せ拗ねた声を出します。
「……おごるって言っただろ?」
言いながら肩に掛け直したトートに手を伸ばしてきたので、軽く手で制して断りました。
「中学生が生意気言うな。手弁当で十分」
「俺の分も?」
「当たり前だろ。自分だけ食べるとか、どんだけ嫌な奴だよ」
「もしかして、キリコの手作り?」
「なにか問題でも?」
「ちっとも!むしろ望むところだ!!」
「声がでかい、馬鹿者っ。ただのおにぎりと簡単なおかずだよ。そんな期待すんな」
「……すまん……でも本当に嬉しいんだ。お昼が、すごく楽しみだ」
「それより勉強だろ?ほら、開いた。移動しよう」
「ああ」
こんなやり取りをしながら入った自習室でも、もう一悶着。
向かい合って座ろうという僕に、隣の方がいいと主張する誠志郎。
結局、小声で質問しやすいという誠志郎の意見が通りました。
誠志郎の声は張りがあって良く通る低い声なので、よほど注意しないと響き渡ってしまうから、仕方ないと言えば仕方ないですね。
時折ボソボソと聞きながら、基本は黙々とそれぞれの学習を進めます。
始めは顔を寄せ合う度に、どこからか消音仕様の黄色い悲鳴が聞こえてきましたが、集中しているうちに全く気にならなくなりました。
そして、お昼。
待ち合わせ場所でもあった休憩スペースへ。
ラップで個装したおにぎりと弁当箱を取り出し、軽く説明。
「梅干しと、おかかチーズと、シーチキンマヨ。おかずは、卵焼きと肉巻きと豆腐ハンバーグ、ウインナー、ポテトサラダ。プチトマトとブロッコリーは絶対食べろよ?」
お絞りと袋入りの割り箸を渡します。
お犬様の目がキラキラと輝きました。
「これ、全部キリコが作ったのか?」
指の間まできれいに拭いているのを確認しながら頷きます。
「卵焼きとポテトサラダ以外は、冷凍庫にあったやつだけど」
晩御飯のメインを、お弁当とかチョイ足し用に小分けしてストックするのは、基本ですよね?
蛇足だけれど、洸のお弁当はサンドイッチ。言わずもがな、チーズとシーチキンマヨと豆腐ハンバーグとポテトサラダが流用されています。
「それでも凄いな!美味そうだ」
シーチキンマヨおにぎりに、まずはかぶりつきました。彼は幼稚園の時から嗜好が変わっていないようです。
僕はトマトとブロッコリーを食べてから、おかかチーズに取りかかりました。
と、僕の手元を誠志郎がじっと見ています。
「どうした?」
訊けば、ご飯の間から覗いている具を指差しました。
「おかかチーズって、美味いのか?」
「?美味しいよ?」
良く見えるように差し出したら、バクリと喰い付かれました。
「意外に美味い、な」
僕ではなく、おにぎりが、ですが。
「もう一個あるだろう!」
三分の二を失ったおにぎりに未練はないけれども、言うべきことは言っておきましょう。
「キリコが食べているのが、食べたくなったんだ」
悪びれもせずに言われて、ハタと思い出しました。
そういえば幼稚園の時も僕の食べ止しを、なんだかんだと食べられていたような気が……
「まったく……成長してないんだな」
呆れて溜め息と共にこぼします。
誠志郎は、心外だ!と言わんばかりの顔を、途中で企むようなニヤリ笑いに変えて、
「そう。だからキリコ、食べさせてくれ」
つらっと口を開けて餌待ちしてきました。
あー、そうそう。箸使いも怪しかった時は、里芋を摘まむことも刺すこともできずに涙目になっていたから、食べさせてあげたことがあったなぁ……
「って、自 分 で 喰 え 」
箸で額を突きたい衝動を堪えるのが大変でした。
結構な量を持ってきたお弁当ですが、成長目覚ましい少年には物の程ではなかったようで、すっかりと平らげられました。作った甲斐があったというものです。
午後は眠気と闘いながらも三時くらいまで頑張り、送ると言い張る誠志郎を宥めてすかして断って、ようやく現地解散と相成りました。
家に着く頃、着信が。
『弁当、美味かった。次も頼む』
次回の約束をしていないのに、おねだりとは!
呆れつつ返信します。
『金取るゾ』
直ぐに返ってきました。
『請求明細書をくれれば』
『電気・水道代まできっちり請求してやる』
『無理だろう』
『果たしてそうかな』
送信しながら、テンポの良いやり取りに笑いがこぼれます。
その顔のまま家に入ったからでしょうか、リビングのソファからむっつりとした声が飛んできました。
「楽しかったんだ?お勉強デート」
クッションを抱えた、ふくれっ面の洸です。
置いて行かれたのが、余程ご不満だったようですね。
困ったなあと思いながら、「ただいま」を言って洸の隣に座りました。
「デートじゃないよ、ただの勉強会。次は必ず誘うから、機嫌直して?」
膨らんだ頬を突くと、ムキになって空気を溜めています。
それが、ふしゅっと抜けました。
「絶対だからね。絶対、教えてよ」
「約束する」
頭を撫でて、ようやくご機嫌が直ります。
ところで二人とも『次回』の話をしているけれど、『次』っていつなんですかね?




