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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
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君が名は……

2014.12.06 主人公の転校する学年を変更しました

恋に燃える男とは、携帯の番号を交換することで、その日はすんなりと帰してもらえました。

メールも電話も非常にスマートで、節度ある頻度で届きます。

たまにギョッとする変態発言が飛び出しますが、そこはスルーしています。

お陰で僕のスルー能力は、かなり向上しました。

遣り取りして分かったのは、雅臣さんは九歳年上の大学四年生である事。

最初の印象を裏切って、ビックリするくらい陽気でチャラい事。

その事を指摘すると、『キリィの返しが楽しくて、つい^^v』と、人のせいにしてきます。

『煙で目が潰れたんですね』と返すと『君の涙で癒して♥』と戻ってきたので、全力でスルーしました。


それはさておき、本業である学生生活において青春を謳歌する重要なファクターとも言える部活動ですが、バドミントン部に決めました。

前世ではお遊び程度でしたが、ちょっと憧れていたんですよね。

冷静に相手の動きを把握して、コートの隅に羽を落とす、とか。現実はそう上手くはいきませんけど。

一学期は基礎体力を付ける、瞬発力を養う、フォームを確認する、羽を拾う&手入れする、コートを拭く、これで一日が終わってしまいます。まあ、新入りですから。

二学期位から、見込みのありそうな一年生がしごかれ始めます。飛びぬけてセンスが良ければ、二・三年の仲間入りです。

僕は、まあ、自分で言うのもなんですが、なかなかのセンスらしく、一年ながらサブメン入りしました。

手足が長く背が高いというのも、大きいのでしょうね。それこそ、前世では考えられないほど体が良く動き、広い範囲をカバーできます。

来年はスタメン入り、を目指して部活漬けの日々です。

たまに先輩とメール、時々色気ダダ漏れチャラ男とメール、が挟まるくらいでしょうか。

洸が構ってくれない淋しさを部活に打ち込むことで紛らわせていた、なんてことありませんからね。ないったら、ないです。

そんな二学期の終わり頃、家族会議が開かれました。

議題は『中学生になる洸の名前』について。

年が明けたら中学校へ名簿を提出するので今学期中に決めて欲しいと、担任から言われたとのことでした。

父と洸が一人掛けのソファにテーブルを挟んで向かい合って座り、斜向かいの二人掛けに僕と母が並んで腰掛けます。


「中学校に上がったら、洸君はどの名前を名乗りたい?」


そう父が口火を切りました。

最近気づいたのでいつからなのかは分かりませんが、父の洸に対する態度はちょっと厳格で、僕への甘ったるさの片鱗しか見当たりません。

軽く訳を聞いたら「洸君は男の子だから、甘やかすのは母さんに任せてる」とかなんとか言ってました。どうやら父親像にこだわりがあるようです。


「ボクは『緑谷ろくやひかる』を名乗りたい」


緊張した面持ちの洸。両手は握られ膝に乗せています。

まるで面接のようですね。


「それは、どうしてかな?」


父の低い切り返しに、一瞬言葉を詰まらせ俯きました。


「――――なんとなく」


足元を見たまま歯切れ悪く絞り出されたのは、最近の洸らしくない精彩を欠く言葉。

僕と母さんは、口を挟むことなく目を見交わします。

答えたのは当然、この場の議長たる父。


「そうか。お父さんの意見は、このまま『青野』でいて欲しい。『緑谷』を名乗るのは高校からでも良いんじゃないかと思う」

「なんでっ?!」


弾かれたように洸が顔を上げました。

父は洸の目を見据えて、言い含めるように語りかけます。


「中学校は小学校からの持ち上がりが多い。同級生達が強い違和感を持つだろう。また、多感で潔癖さが強い時期でもある。このタイミングで名字を変えるのは、得策とは思えない」

養母かあさんは?」


父の言葉に被せ気味に意見を求められた母は、思案顔ながらも答えます。


「そうね。母さんも、その方が良いと思うわ」

「キィちゃんは?!」


一瞬、泣きそうな顔をした光は、僕の方に顔を向けて来ました。

訊ねる声は、悲愴感を漂わせています。

僕は努めて穏やかに装いました。


「僕は洸の意思を尊重するよ。でも、心配しているのだけは分かって欲しい」

「っそれって、反対ってことじゃん!!」


テーブルを両手で打って、苛立ちも露わに叫びます。

静まり返った居間でビジネスモードの父と、アルカイックスマイル一歩手前の無表情な母と、オロオロと皆の顔を見回す僕。

噛み締められた洸の唇から、血が滲みそうで心配です。


お姉ちゃん、ソコはペロペロしてあげられないよ……


思考を明後日の方向へ飛ばしかけた時、父が重々しく締めました。


「洸君、この話は多数決で決める事じゃない。今は頭に血が上っているようだから、みんなが言った事を参考に自分でじっくり考えてみなさい。そうして出した結論なら、もう誰も反対しないから」


洸は返事をすることなく父を睨みつけ、足音荒く部屋へと引き籠ってしまいました。

父は深くため息を着いて項垂れ、母はわずかに悲しみを滲ませた微笑みで父に寄り添います。

なんとなく居場所を無くした僕は、洸の部屋の戸に凭れました。

中はひっそりと静まり返っていて、ひしひしと洸の苦悩を伝えてきます。

洸が一人で悩み抜き、一人で乗り越えるしかない問題です。

分かっていても頼ってもらいたかった僕は、そのまま途方に暮れるしか、できませんでした。

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