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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
中学校 編
18/43

煙が目に沁みる②

「二人とも、そこに正座」


僕から見て、テーブルを挟んだ正面を指します。


「なんで俺まで!」


角刈りの間男(推定)がご不満そうです。

確かに、その発達した太ももでは、座り辛そうですね。


「では、ゴリマッチョは胡坐で」


あくまで澄ました顔で僕が言うと、隣が吹き出しました。

どうやら、笑える余裕が出てきたみたいです。

微笑みかけると、バツが悪そうに顔を逸らされました。

ちょっとほっこりした空気に、あからさまに不機嫌そうな声が割り込んできます。


「どうしてあたしが床に座らなきゃいけないのよ」


二十歳そこそこで口を尖らせても、本家(?)の洸には敵いませんね。却下です。


「あなたは、たとえ招かれざるであろうと客を床に座らせて、あまつさえ自分は椅子に腰掛け上から見下ろそうって魂胆なんですか?どんな教育を受けてきたのやら……お里が知れますね」


育ちまでけなされてムッとしたようですが、お兄さんに対しては後ろ暗い事があるのであからさまに追い出す事も出来ず、かと言って短いスカートでは胡坐をかけないので、しぶしぶ正座をしました。立っていても見下ろすかたちになりますからね。少しは学習したようです。


「で?見た所、三角関係のもつれにしか見えないのですが、縁あって仲裁役を買って出た通りすがりのいたいけな僕にも分かるように、ご説明頂けないでしょうか」

「なにを勝手に!」


単刀直入に切り出すと、予想通りに甲高い不平が上がります。

ここで彼女の立ち位置を明確にしておきましょうか。


「うるさい黙れ諸悪の根源、おつむもおまたもゆるゆる女」

「なっ!」

ちげぇねーや」

「ナギ?!」


僕の言い様に絶句した人の隣から愉快そうな追随が上がり、女が気色ばみました。

人が多いと、話が進みませんねー。


「あーもー、ゴリは茶々を入れないで。まずはお兄さんから、経緯を教えてくれませんか?」


話を振ると、ジッとカップの中を見詰めていた薄紫の髪の人が、目を上げずに重い口を開きます。


「予定が繰り上がったので、彼女に会おうと部屋に訪ねてきたら、彼女が、別な男と……」

「あー、うん。それは見て、なんとなく分かりました。それで、発作的に飛び出した、と」


確認にコクリと頷きが返ってきました。

蒸し返して悪かったなーと思い、背を摩ります。

『マサオミ』さんの強張りが少し解け、ホッと一息。

次いで間男(確定)から聞こうと、水を向けます。


「で、筋肉ダルマさんは……」

「それ、やめれや」


すかさず突っ込みが入りました。

話が進まなそうなので、仕切り直しをしましょう。


「では、お名前は?」

「ウミベ ナギ。さっき呼ばれてただろ?」


いちいち混ぜっ返すお方です。

ここは、つらっと当て擦りでもしましょうか。


「名乗られてもいないのに、お名前を呼ぶのも、ねえ?ましてや下の名前なんて、親しげ過ぎますし。ええ」

「かといって『通りすがりのいたいけな』お前に、ウミベさん、なんて呼ばれたくないぞ」


海の男(推定)には通じなかったようですが、横の女性にはしっかり当たったみたいです。

軽く睨まれました。おー、恐っ(笑)


「では、ナギ、さん?」

「おう。そこが落とし所だろ」

「ナギって、海が凪いでいる、の『凪』ですか?」

「そ、その『凪』」

「へー、良い名前ですね」

「――サンキュ」


鷹揚と振舞う筋骨隆々男が照れる様は、それはそれで可愛らしい物ですね。

おっと、話を元に戻しましょうか。


「それで、凪さんは、どうしてこちらへ?」

「シズカに『今日はもう一人は来ないから、来る?』って言われてな」


全く悪びれもせずに、ぶっちゃけてくれますね。

これは話が早く済みそうです。


「『もう一人』ね。凪さんはご存じだったんですね。頭弱女が二股かけている、って」

「そもそもが俺の女だからな。『金持ちを釣り上げた。これで玉の輿に乗れる』とさ」


鼻で笑いながらの暴露に、僕が返すより先に女性が食ってかかりました。


「凪!ここでばらすことないじゃないのっ!!」

「あー、なんか語るに落ちますね。ゆる子ちゃんの話は、もう結構です」


片膝立てようとして痺れてへたり込んだゆるゆる女が、お隣にしな垂れ掛かりながら、僕のあしらいに不服を申し立てます。


「さっきからなによ、偉そうに!あたしの話も聞きなさいよ!」

「あのですね、僕は仲裁役。第三者なの。一段上から目線なのはしょうがないでしょ?ゆるゆるの自己弁護は聞くだけ無駄なので割愛させてもらいます。ぶっちゃけ、黙ってろ。それで、お兄さんは……今さらですけれども、お名前は?」

「シノムラ マサオミ。『紫』に片仮名の『ノ』に『村』で『紫ノ村』。雅な大臣で『雅臣』」

「これまた素敵なお名前ですね」

「……ありがとう」

「それで、紫ノ村さ「雅臣」ん?」

「そこの男が名前なら、私も名前で『雅臣』と」

「はあ。それで雅臣さんは、股ゆる子に未練は?」

「――――さっぱり、ない」


逡巡の後に告げられた言葉は、口調が少し硬くて。

胸中に様々な思いが渦巻いているのが、ありありと伝わって来ました。

見え透いた強がりを暴いても、なんの益もないので流すことにします。

では、ここにはもう用はなさそうなので、移動しますか。

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