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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
小学校 編
16/43

あるのは大人の都合だけ③

ん?と緋色を覗き返すと、今までで一番真っ直ぐな視線とぶつかります。


「『青野』の下、は?」

「ああ、下の名前ね。僕は樹里『Pilululu~』子。あ、ごめん。電話だ」


表示をみると『洸きゅん』。

片手で断りながら、慌てて電話に出ます。


「ひかr『キィちゃん?!今、どこ?お腹、痛いの?壊しているの?大丈夫?!』うん。落ち着け」


どうやら待たせ過ぎて、可愛い弟に心配させてしまったようです。

待ち合わせに遅れた彼氏のように、しどろもどろに言い訳をして、すぐ戻ると約束させられました。


「ごめん、連れを待たせてるから、もう行くね」


お尻を掃って立ち上がります。

彼もつられて立ちました。

なんとなく、こちらを名残惜しそうに見ている気がしますが、今は洸を優先させてもらいます。


「じゃ、電話もメールも、本当に遠慮しなくていいから。またね、先・輩!」


悪いと思いつつも、返事を待たず駆け出しました。

と、ポケットの携帯がメールの着信を告げます。

走りながら確認すると『キリへ 今日は、ありがとう』。

いきなり呼び捨て&愛称かよ!と突っ込みつつ、胸がほっこりと温かくなりました。

『あ・お・の』と打つより『き・り』の方が、文字数が少なくて楽ですからね!

突然できた年上の友人に返信します。


『どういたしまして。来年は後輩になるので、よろしく』


ちょっと間を置いて、返ってきたのは『楽しみだ』。

ふっと笑った所で、洸と合流しました。


「もー、キィちゃん遅い!演劇終わっちゃったよ!」


出合い頭に怒られましたが、春の若草は不安に揺れているのが丸分かりです。


「ごめん、ごめん。人とちょっと話し込んじゃってね」


言いながら抱き寄せると、腕の中で暴れます。


「ちょっ、やめてくれる?!ボクは怒ってるんだからね!」

「うん、うん。分かってる、分かってる。全部、僕が悪い。ごめんね。許して。機嫌直してよ」


他人の視線?黄色い悲鳴?関係ありません。

弟の不安を取り除くことが、僕にとっての最重要事項です。


その後は、なだめてすかして可愛がって。

なんとか矛を収めてもらえました。

柔らかい髪を撫でくり回して癒されます。


うちの子、カワユス。マジ天使。


帰り道、ぽつぽつ届く先輩からのメールに返していると、スネ坊が腕に絡み付いてきました。


「誰?」


口を尖らせている辺り可愛いなあ、と呑気に思いながら「新しい友達」と答えます。

ついでに突き出ている唇を摘まんだら、ペシッと(はた)かれました。猫パンチみたい。


「もう数ヵ月したら『学校の先輩』かな」


付け足すと、またしても萌黄色が不安で陰ります。

俯いてそれを僕から隠し、腕に抱き付く力をギュッと強めました。


「卒業しても……キィちゃんは、ボクだけのキィちゃんでいて?」


言ってから、おずおずと上目遣いで見上げてきます。

うん。安定のキュートさです。お姉ちゃんはメロメロです。惚レテマウヤロー。

でも、全てに「Yes」とは、いくら僕でも言えません。


「それは無理だよ、洸。君だって、僕だけの洸ではないでしょ?父さんとか母さんとか、僕以外の人とも繋がっているんだから。みんなが居て君が居る。でもね、君のお姉ちゃんは僕だけだよ。それじゃ駄目かな?」

「――――うん、そうだね。ボクにはユキナちゃんも、ヒメちゃんも、ココちゃんも、サエリちゃんも居るもんね」


うん?何気に挙げられた名前は女の子ばかりのような……?

お姉ちゃんは、そんなハーレム男子に育てた覚えはありませんよ?

でもまあ、ご不満そうではあるけれど、暗さは抜けたので良しとします。

すでに癖になっている手触りのよい猫っ毛を撫でると、洸の機嫌はさらに上昇しました。


「頭、撫でさせるのは、キィちゃんだけ、だよ?」


僕、キュン死しても良いですか?



それからしばらくは、本当に遠慮なく頻繁に来ていた先輩からのメールや電話ですが、年が明けた頃から表情が明るく柔らかくなったのか、友人ができたとの報告を受けた辺りからまばらになりました。

たまに友達と馬鹿やっているらしい写メが届きます。

ご両親との距離感も掴めて来たらしく、ここ数ヵ月で一気に考え方などが大人になった気がします。

声もグッと低くなり、電話で話した時は耳元で囁かれているようで、少し悶えてしまったのは秘密です。


そんな先輩と再会したのは、僕の中学校入学式の時。

言祝ことほぐために、わざわざ僕を探して来てくれた先輩が固まります。

学校祭の時より、さらに背が伸びて髪をさっぱりとさせた先輩を見上げました。


あれ?先輩のこの顔に、既視感が……


華やぐ周囲の声を聞きながら、モヤッとした感覚を手繰り寄せていると、僕より先に先輩が口を開きます。


「キリ。最近、セーラー、着るの、流行り、か?」


何故か以前よりたどたどしくなった口調はスルーしましょう。


「うーん。先輩が何を言いたいのか、分からないなぁ」


あはっと笑った僕を見て、先輩が脂汗を流しています。

不思議な事に、周りの人が引いて行きます。

心なしか気温も下がってきていますね。

どうしたんでしょうか?


体調 デモ 悪イ ノ カナー?

目 ニ (ちから) ナンカ、コモッテ ナイヨー?


(自分的に)ニコニコしながら思い出しました。


あー。この表情は、卒園式の時の誠志郎の顔だ、って。


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