ご拾得は計画的に④
※法律に関しては現実と齟齬があると思います。異世界を舞台にした創作物であることをご理解頂き、軽く流して頂ければ助かります。
コータの眠りを妨げないように、低く抑えて話し合いを始める。
まずは集めた情報をざっと父に伝えた。
その内容とは――
近隣のママさんネットワーク情報を浚って、それらしい情報が引っかかったのは、隣の市だった。
検索キーワードは男児とピンクの車。
数年前から有名なようで、児童相談所の職員が訪問したりもしているらしい。
最初は居留守を使い、次は近所の公園に子どもだけ放置、目撃者から通報されて市内の公園を転々としていたようだが、ママさんネットワーク恐るべし、ベビーピンクの車を目印に即刻通報する体制になっていたらしい。
で本日、いき場所を失って僕の家の近くの公園へ連れて来たと思われる。
ベビーピンクの車情報は、今日昼間に首都高へ向かった以降は上がっておらず、隣町では珍しく子連れで遠出をしているのでは、で更新が途絶えている。
――というもの。
合わせて、僕が見たコータの体の状態――体格・健康面・衛生面・傷の位置と種類(打撲や火傷)――などを、撮っておいた数枚の写真を指しながら説明した。
母は涙ぐみ、父は仕事の時のように真剣な顔をして聞いている。
一通りコータの話を終えると、父はビジネスライクな口調で訊いてきた。
「樹里子は、どうしたい?」
「僕は……コータを弟として迎えたい」
痩せ細った体を精いっぱい抱き寄せ、父を見る。
「簡単ではないよ?」
「分かってる」
瞳の奥の決意を探る父と負けじと見返す僕を、母は静かに見守っていてくれた。
こちとら前世と合算すれば四十半ば、悪いけど中身は父の一回り上だ。
にらめっこなら、負けない。
数秒か数分か、ふっと榛色の瞳が和らいだ。
「O.K.僕の聡明なお姫様のお望みのままに。それで?具体的にはどうするんだい」
悪戯っぽくウインクまでされた。
知らず強張っていた全身から力が抜け、コータの体がずり下がったので慌てて抱え上げる。
父はパソコンを自分へ向けて、僕が調べた内容をチェックしながら耳を傾ける。
「まずは警察と児童相談所へ通報。僕がお友達を連れて来たけどこの時間までお迎えが来ない、本人はぐっすり寝ているので今日は預かる、と伝える」
「うん、それから?」
「明日は、申し訳ないけれど父さんか母さんが休んで児童相談所へ再び連絡、保護を申し出る。里親申請や各種書類をネットで手配、児相の人が訪問して来たら対応して欲しい」
「それなら、お母さんが休むわ」
「お願いします。児相の訪問はできるだけ午後にしてもらって、僕との良好な関係性を強調したい」
「わかったわ」
「まあ、そんなところだろうねぇ」
良くできました、と言わんばかりの頷きが返ってきた。
父が持つ秋の実りの色と相まって、とても温かい。
僕は、かなり小学一年生を逸脱した発言をしている自覚はある。
なのに両親は違和感なく会話を進め、誇らしげに微笑んですらいる。
全幅の信頼を、むず痒く感じた。
六年で築き上げた絆の強さは、計り知れない。
嬉しくて、ただ嬉しくて、ありがたい。
そして、コータをこの輪の中に、入れたくて仕方がなかった。
人の温かさと暖かさを知らないなんて、もったいない!
骨の髄まで染み渡らせてあげたい。
上から目線だろうが偽善だろうが、もう、いいじゃないか。
コータを幸せにしてあげたい。
コータとみんなで、幸せになりたい。
父が電話をする落ち着いた声を聞きながら、コータに寄り添い眠りに落ちた。
一塊でベッドに運ばれ眠る僕達を見た警官は事件性がないことを納得し、児相へも話を通してくれたらしい。
その日、結局ピンクの車がコータを迎えに来ることはなかった。
明けて翌日、僕の案に父がかなり補足と手回しをしてくれたようで、学校から帰ってきた時にはあらかた話はついていました。
僕を見て喜色も露わに抱き付くコータが決定打となり、かねてからコータを気にかけてくれていた児相の職員さんによって里親申請は受理され、正式に認定されるまでは我が家で保護する、という異例の流れに落ち着きました。
前後してしまいますが、日を改めて両親揃って養育里親研修を受けに行くことになっています。
委託書類から、コータは『緑谷 洸汰・五歳』である事が明らかになりました。
僕の一歳下だったなんて……いえ、これからモリモリ食べさせて、取り返せば良いのです!
幸い好き嫌いもアレルギーも無いので、半年もすれば追い付くことでしょう。
里子となったコータは、小学校を卒業までは『青野 洸』と名乗ることにしました。本人も納得しています。
というのも、洸汰の母親が、消息不明になりまして。
児童相談所から洸汰を保護する旨を伝えられた際に非常に取り乱し、最後は捨て台詞を吐いて出て行ったそうで、それから直ぐに部屋を引き払い何処とも告げずに引っ越したとのことでした。
発言内容やその振舞いから親としての自覚が著しく欠如しており、児童の健全な成長を阻害しかねないと判断した児童相談所は、安全が確認されるまで会わせないよう指導する措置を取らざるを得なかったのです。
中学生に上がる時に『青野』と『緑谷』のどちらを名乗るのかは本人に選ばせ、ゆくゆくは養子になるのか独立するのかも、コータ改め洸の意思に委ねられます。
将来、洸がどんな選択をしようとも、今ここで結ばれた僕たちの絆は、壊れることはありません。
両親と僕は、そのことを洸が心の底から信じられるようになるまで、惜しみなく伝え続けていくつもりです。
紆余曲折を一直線に進んで、僕に義弟ができました。
新しい弟は、それはもう可愛い子です。
見た目とか性格とかではなく、存在そのものが愛おしくてたまりません。
え、親バカですか?
はっはっはっ。
そうですが、なにか?
2014/11/18 一箇所、語尾を変更。「自覚があった」→「自覚はある」




