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生まれつき女ですが、なにか?  作者: 周
小学校 編
10/43

ご拾得は計画的に②

※引き続き、児童虐待についての表現が出て来ます。苦手な方はご注意下さい。


主人公の口調が(ry

……仕様です。本当です(震え声)


今の間はなんだろうと思いつつ、手を引いて案内します。


「お風呂、一人で入れる?」


脱衣所で聞くと、泣きそうに顔を歪めました。


「とじこめ、るの?こ、こーたが、わるいこだから、とじこめる、の?」


さっきの間は、だからですか!


瞬時に察します。

唇を噛み締めたい衝動を押し止め、努めてヘラリと笑いかけました。


「閉じ込めないよ。一緒に、入ろっか」


僕が脱ぎ始めると、のろのろと追随してきます。

Tシャツの下には何も着ておらず、露わになった肌には……湧き上がった激情を意思の力だけで捻じ伏せ、目の端に映ったオムツは写真だけ撮って意識の外へ追い出し、精神年齢を意図的に引き上げてから浴室へ誘う。

手桶で軽く湯をかき混ぜ、そのまま汲み上げて温度をみる。

それを足元からコータに掛けてあげた。


「熱くない?大丈夫?良い子だね」


少しずつ上に掛けてゆき、椅子にも掛けて、そこへ座らせる。

石鹸を手で泡立てて少年の肌に滑らせるが、すぐに消えていった。

一度流して、また泡を滑らせて。

数度繰り返し、満足のいく洗い上がりになった。

次は……と、シャワーヘッドを手に取ったら、椅子に座った体が明らかに強張った。


「どうかした?」

「あっ、あついの、かける?」


顔色を悪くさせながらブルブルと震えている。

本日何度目かの衝撃に、胸が潰れるほど痛んだ。


「大丈夫。熱くないよ」


言いながらお湯を出し、僕の手で温度を確かめてから、足にちょっとだけ掛ける。

一瞬逃げを打った少年だが、手桶の湯と同じ温度だと分かり、お尻を戻した。

胸の内だけでホッと息を吐き、なに喰わぬ顔で体の泡を流す。


「良い子のコータは目をつぶって、耳を塞いでー」


できるだけ笑いを含ませて指示すれば、大人しく従ってくれた。

頭からシャワーを掛ける。

髪にお湯を馴染ませて、先程と同じ要領で何度か髪を洗う。

すると、美しく輝く緑色の髪が現れた。

ピカピカに磨き上げて浴槽へ。

先に入れようとしても尻込みするので、僕が入ってから引き寄せると、恐る恐るながらも付いて来てくれた。

みぞおち辺りまで浸からせて、肩や背には湯を掛けるだけにする。


「……お母さんは好き?」


訊けば、コクリと頷く。


「お父さんは?」

「……いない……」

「そうなんだ」


肌の血色が良くなり、頬が上気したあたりで上がることにした。

湯当たりしたら大変だからね。

手早く拭いて着替えを着せかけ、髪にはタオルを巻き付けて再度リビングへ。

少し残っていた補水液を飲ませた。


「卵は食べられる?」


キョトンとした顔をされた。


「えーっと、マヨネーズは?」

「しーちきんまよねーずの、おむすび、すき」


ぱあっと萌黄色の瞳が輝いた。

うん。ここはスルーして、ご飯とマヨネーズはO.K.と。


「わかった。おむすびじゃないけど、ご飯作ってくるから……」


本でも?テレビでも?なにを勧めようか迷う。


「キィコ、と、いっしょに、いちゃ、だめ?」


不安そうに瞳を揺らし、見上げて来た。


「あー。詰まんなくないなら、いいよ」


承諾すると、嬉しそうに頷かれた。

場所を台所に移し、キッチンスツールに座らせる。

昨日の残りのポトフの具をミキサーにかけた。

適当に崩れた所で冷やご飯も投入しドロドロにする。

鍋に移して、ポトフのスープで伸ばしながら加熱。

ミキサーをばらして水に浸け、冷蔵庫から取り出した卵を溶く。

ふつふつと沸いてきたら卵を流し入れ、蓋をして火を止める。

卵を溶いた容器とミキサーを洗って鍋の中を確認すれば、ふっくら洋風雑炊モドキの完成。

ダイニングテーブルへ移動して少年を座らせ、スープボウルによそった雑炊モドキにレンゲを添えて渡した。


「熱いから、気を付けて食べるんだよ」


彼はフンフン匂いを嗅いだ後レンゲを取り、一直線に口へ運んだ。

ギョッとしてその手を止める。


「火傷するよ!」


思わず出た鋭い声にビクリと震えたビックリ眼が、こちらを不安そうに見詰めてきた。

ああ、それすらも……

瞑目したいのをゆっくりとした瞬きで誤魔化し、彼からレンゲを受け取る。

息を吹きかけて冷まし、唇で適温かを確かめてから、少年の口へと運ぶ。


「ほら、お口を開けて?」


おずおずと開いた口の中へ、そっと流し込む。

ゆっくりと口内の流動食を味わって嚥下するのを見届けてから訊く。


「美味しい?」


逡巡してから頷いてくれた。


「もっと食べれる?」


これには、すぐに頷きが返ってきて、ホッとした。

掬って、冷まして、口へ運ぶ。

ボウル一杯半をお腹におさめた頃、彼がウトウトし始めた。


「少し寝よっか。大丈夫、僕が外を見ているから。だから、寝なさい」


先にトイレを済ませ、リビングのソファに横にならせて毛布を掛ける。

言葉通りに僕は窓が見える位置の床に座り、乾き始めた彼の髪を梳いた。

コータはすぐに寝息を立てる。


さーて。これからどうしましょうか、ねぇ。


偽善なのは分かっている。

彼一人を救ったとしても自己満足にしか過ぎない、ということも。

でも、動かずにはいられなかった。


僕はリビングテーブルに据えたノートパソコンを立ち上げる。

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